「食満留三郎くん、いる?」
「あれ、なまえさん?」
「あら、作兵衛くん」

今日はちょうど委員会があったので、用具委員会をやっているはずの部屋まで行って覗いてみると、作兵衛くんと、一年ろ組の子がいた。

「食満先輩は一年は組の二人を呼びに行ってます」
「あ、そうなんだ、ありがとう。ええと、そっちの子は…平太くん、かな?」
「はい、下坂部平太…です」
「よかった!」
「で、お前は事務員のなまえ、だったか?」

後ろから声がして、少しびっくりして振り返ると、緑の忍装束の男の子。その後ろには、一年は組のしんべヱくんと喜三太くん。

「食満くん?」
「ああ。俺に何か用か?」
「秀作くんが火薬倉庫の壁を壊したらしくて、適当に直したって言ってたから、直しなおして欲しいんだけど…」
「秀作…ああ、小松田さんか…わかった。今から行く」
「え、委員会終わってからでもいいよ」
「いや、委員会っつっても、今日は用具倉庫の確認が終わったら、みんなで双六する予定だったから」
「す、双六?」
「おう。それにまあ、壁の修理も委員会活動だしな」

食満くんはニッと笑うと、作兵衛くんに指示をして、一年生のみんなの頭を撫でてから、部屋を出た。役目を終えたわたしは、事務を手伝いに行こうかなぁと食満くんに背を向けた。が、すぐに腕を捕まれ、食満くんの方を向かされる。

「…ええと?」
「お前来ない気?」
「行ってもできることはないから…」
「板運ぶの手伝えよ」
「えー…」
「えーじゃねぇよ!じゃなきゃ、話し相手にくらいはなれよな」

食満くんはわたしの腕を掴んだまま、ずんずんと歩き出した。

「普段はそういうのは作兵衛がやんだけど、今は作兵衛に一年生見てるよう頼んじまったからな」
「…はーい、手伝いまーす」

わたしは食満くんに引き摺られて、木材置き場まで歩いた。学園の端の方にある木材置き場には、薪にする木や、建物の修繕に使う木など、たくさんの木材が積んであり、それらの脇に薪割り用の斧と切株がある。食満くんは壁板用の木をいくつか選び、わたしに差し出した。

「持って」
「食満くん手ぶら…」
「これから重い工具を取りに行くが、そっちのがいいか?」
「いいえ喜んで!」

わたしが食満くんの腕の中の板をぱっと取り上げると、食満くんは堪えるように笑った。

「何?」
「いや、お前相当扱いやすいな」
「…失礼な」
「わりーわりー、でもいい性格だと思うぜ」
「褒めてないでしょう」
「おう」

持っていた板を食満くんにぶつけた。学生時代に食満くんと関わったことはなかったけど、もし関わっていたら、かなりいじられてたかもしれない。まあ、実際は仙蔵くんに十分いじられていたけど。いつも近くにいたのが秀作くんだったから、自分はしっかりした方だと思ってたのに、気のせいだったのか。

「んな落ち込むなよ」

辿り着いた用具倉庫から工具を取り出して担ぎながら、食満くんが苦笑い。別に、落ち込んだ訳じゃない!



食満くんの作業は、実に手際よかった。見ていて惚れ惚れするスピードと正確さ、というか。ちなみに、秀作くんのは見ていてはらはらする危なっかしさがある。

「お疲れさま、ありがとう食満くん」
「おう。それにしても、小松田さんの板の付け方酷いな」
「あはは、多目にみてあげて」
「つーか、小松田さんってなまえより年上だよな?なんか立場逆転してねぇ?」
「まあ…秀作くんだし…」
「ああ…」

食満くんは納得したように頷いた。秀作くん哀れ。

「なまえと小松田さん、なんでそんな仲良いんだ?事務員だから?」
「ううん、幼馴染みなの」
「ほー、なるほどな。じゃあ、初恋は小松田さんとかだったりすんのか?」
「まっさかー!秀作くんはずっとお兄ちゃんみたいな感覚だもん。初恋は…どっちかって言うと、近所の髪結い屋さんの、タカ丸くんかなぁ」
「タカ丸…って、斉藤タカ丸か?」
「あれ、知ってるの?」
「知ってるよ。今忍術学園の四年生なんだ」
「えっ……あ!そういえば、そんな話を聞いた気がする!」
「お前なー、人の話はちゃんと聞いとけよ」
「う……はい…」

なんか食満くん、タメのはずがお兄さんっぽい。お説教が似合っている。

「でも、意外だな。斉藤って、何かホワンホワンしてんじゃねーか」
「ホワンホワンしてるけど、昔から優しくて、かっこよかったんだよ。今は、好きとかは思ってないけど」
「ふーん」

工具を片付けた食満くんは、再びそれを担いで立ち上がった。聞いてきたくせに、反応薄いな。これを言うの、ちょっと恥ずかしかったのに。ていうか、タカ丸くんを知らないと思ったから言ったのに。

「食満くんの方こそ、見た目に似合わず恋の話が好きなの?」
「は?何言ってんだお前」冷たくあしらわれてしまった。食満くんはさっさと歩き出してしまう。

「あ、ちょっと待ってよ」
「なまえがくだらないこと言ってるからだろ」
「くだらないって、酷いよ食満くん…」

苦笑いで食満くんの顔を見れば、慌てて逸らされてしまった。しかしわたしは見た、食満くんの耳が赤くなっていたのを。

「なんだ、キャラじゃないこと言ったから照れてただけ?」
「うるせぇな!さっさと片付けるぞ!」

思ったより、互角くらいだ。まあ仙蔵くんみたいに天性のいじり屋はあんまりいないよね。仙蔵くんは、隙を見せないドSだもん。

そんなこんなで、工具を片付けたわたしと食満くんは、用具委員達の待つ部屋に戻ってきた。

「あ、食満先輩おかえりなさい。倉庫の確認終わりました」
「お、ありがとな作兵衛」
「食満先輩、双六しましょ〜」
「しましょー!」
「よしよし、今準備するな。喜三太もしんべヱも平太もありがとうな!」

わあっと集まってくる一年生達。食満くんは用具委員のお兄さんなんだな。

「それじゃあ、食満くんありがとう。わたしはこれで、」
「ああ」
「ええー!なまえさんも一緒にやろうよー!」

食満くんにくっついていた喜三太くんが、ぴょこっとわたしの方に抱きついてきた。食満くんが一瞬、ぎょっとしたような顔をする。わたしはちょっと眉を下げて、喜三太くんの頭を撫でた。

「仕事があるかもしれないから、行かなきゃ」
「かもしれない、なの?」
「うん、わたし雑用だから」
「…じゃあ、仕事がなかったら戻って来てね、絶対だよ!」
「わかった、仕事がなかったらまた来るね」

ちょっとうるうるした目で見つめられて、一瞬気持ちが揺らいだけれど、耐えた。そこは、お仕事なのだから、ちゃんとしなきゃ。名残惜しそうな喜三太くんの頭をもう一度撫でて、食満くん達に手を振って、わたしは部屋を後にした。
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