「んーいい天気」

大きく伸びをする。今日は秀作くんがお使いに出され、わたしが入出門票を預かることになった。門を離れられないので食堂の仕事も一日お休みだけれど、実はこの仕事はとても暇なのである。今頃お昼ご飯の仕込み中かなぁなんて考えながら、もう朝から何度も掃いた門の周辺を再び掃いた。もう塵も落ち葉もなく、ただ砂が舞っただけだったけど。

元々、忍術学園にお客はそう多くない。一般の人には知られないような場所にあるわけだから、はっきりと忍術学園に用事がある人しか来ないし。忍術学園に用事のある人なんか、そんなに多くないし。

「秀作くんて毎日こんな暇でお金もらってんのかなぁ」

不謹慎な事を言いつつ、箒を壁に立て掛け、ぐるぐると肩を回す。わたしは、忙しい方が性に合うかなぁ。そんな事を考えていたのを読まれたかのようなタイミングで、足音が近付いてくるのが聞こえた。姿を見せたのは、若い男の人だった。

「こんにちは、忍術学園にご用ですか?」
「こんにちは。ああ、父上に会いに。今日はいつもの鈍臭い事務員くんじゃないんだな」
「父上?」

言いながら入門票を渡すと、サラサラと書かれた名前は、

「山田利吉さん…山田…って、もしかして山田先生の…?!」
「ああ。君は新人事務員?いつもの子は解任かな?」
「あ、いえ、いつもの子の幼馴染みで…今日は彼がお使いなんで」
「そうなのか。いつも君みたいな子が迎えてくれたら気分がいいね」

ニコリと笑顔を見せてわたしに入門票を返すと、学園の方に入っていく利吉さん。

「かっっっこいい〜」

彼が完全に見えなくなってから、箒を握りしめ、思わず声に出した。利吉さん。覚えちゃった。入門票係、やっぱり役得!

「何、ニヤニヤしてるんだ?」
「うわっ」

急に後ろから話しかけられ、びっくりしてしまう。この声は食満くんだ。

「気配を消して後ろから近付くの、やめてよ!」
「元くのたまだろ。それくらい気付けよ」
「向いてないから元なの」
「あー…」

妙に納得されてちょっと悔しい。

「で?」
「ん?」
「なんでニヤニヤしてたんだよ」

聞かれて少し顔を赤くすると、食満くんは意地悪く笑った。

「もっとわかりやすく聞くと、何がかっこよかったんだ?」
「なっ、聞いてたの?!」
「いいから、聞いてやるよ」
「ていうか出かけたくて私服なんでしょ、ほら早く外出届」
「大した用じゃないし、こっちのが面白そう」

わたしは食満くんと恋バナする運命なんだろうか。なんだかんだで食満くんはやっぱり恋バナが好きなんだろうか。

「斉藤タカ丸か?」
「ちっがう!……利吉さんって人」
「あー…利吉さんな…あの人は難しいと思うけどな」
「別にそんなんじゃないから!」

利吉さんは有名だったのか。難しいって、なにが?いや別に深い意味は、ないけど。

「食満くんやっぱり恋の話好きなんでしょ」
「恋の話って言うより、人の弱味知るのはいいよな」
「うわ、ひど」

忍者って怖い怖い。

「でもまあ、ここには女の子の友達なんてそういないし、恋愛相談したくなったら食満くんに頼もうかな」
「聞いてやるよ」

食満くんは笑って出て行った。言いふらしたりはされないだろうけど、恥ずかしいなぁ。これからは周りに人がいないか確認してから言わなきゃ。みんなすぐ気配を消すから、目視で!





ヘムヘムが運んでくれたお昼を食べて、午後の授業終了の鐘が鳴り少しすると、秀作くんが帰ってきた。荷物もちゃんと持ってるし、泣きそうな顔もしてないところを見ると、無事にお使いできたみたい…って、年上に対して考えることじゃないけど。

「おかえり、秀作くん」
「ただいまなまえちゃん!疲れたよー」
「お疲れ様、事務室で吉野先生が待ってるよ」

大きなため息をついてわたしの持っている箒を掴み、そのままもたれてくる秀作くんの頭を撫でた。ほんとに、年上なんて思えない。

「あー、ええと、取り込み中すまない」
「ひゃっ」

気付くと、隣には利吉さんが立っていた。思わず顔が赤くなる。秀作くんも慌ててシャキッと立った。

「出門票…書いた方がいいんだろう?」
「あっあの、その、はい…」

わたしが出門票を渡すと、朝と同じようにサラサラと記入される名前。秀作くんはこそこそと、失礼しますーと一言言って、逃げて行った。

「…そういう仲なのかい?」
「違います!なんて言うかその、弟みたいなんです。年上なんですけど」
「なるほどね」

利吉さんはなんでか笑った。かっこいいけど、不思議な人。考えが読めない、普段からいかにも忍者な人。

「また学園に来た時には話し相手になってくれるかい?」
「わ、わたしでよければ喜んで!」
「ありがとう。じゃあ、またその時に」

利吉さんは朝と同じように、ニコリと笑顔を見せてから出て行った。次に利吉さんが学園に来るのはいつかななんて、ちょっと、楽しみになっちゃったり。わたしって単純だ。
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