ようやくショックから立ち直ったわたしは、もうこれは恥を偲んで聞いておくべきだと考えた。

「でも、あの、ゴーレムを倒したときは風が…」
「じゃあ、嬢ちゃんは風の精霊を召喚したんだな」
「でも精霊なんて見えませんでしたよ…?」
「無自覚で出したなら仕方ねぇのさ、そうやって使う召喚もあるって聞くしな。しかも風の精霊は素早いって言うからな。次出した時に礼でも言っておけばいいんじゃねぇか?」
「つ、次って、どうやったら出せるかわかんないんですけど…!」
「そりゃあ俺は専門外だ。他に聞いてくれ」

おじさんはちょっと苦笑いすると、それぞれ自分の武器を持った三人に向き直った。こっちの話が専門分野というわけだ。わたしの話は、また街でなんとかするしかない。

「そんで武器の話に戻るが、悪いことは言わねぇ、買い替えておけ。旅人初心者ってぇなら、少しくらいはまけてやるよ」
「ほんとに?!ありがとう!おっちゃん太っ腹!」
「で、お前さんら、予算はいくらくらいだ?」

おじさんが何気なく聞いてきた一言に、わたし達は現実を思い出した。

「あの、オレら一文無しなんスけど…」
「ああ?!」
「す、す、すんません!」
「お、悪ぃな、つい怒鳴っちまった。でもお前さんらそれじゃあ宿も食事もねぇんじゃねぇのか?」
「そ、そーなんすよ…」
「そんで、依頼もらうために、この街で一番人が集まる通り教えてほしいんだ、おっちゃん!」

本題!と言うようにたじが身を乗り出す。他三人は、さっきのおじさんの勢いにびびったらしく、まだ少しひいている。

「なら市場の前の広場が一番だ。ただな、お前さんら。初心者だから教えてやるが、依頼ってのは闇雲に声をかけたってもらえねぇ。切羽詰まったヤツは声をかけてくるが、時間に余裕のあるヤツは旅人から来るのを待ってるからな。特にここセレーノは、旅人が溢れかえってる街ときた。積極性が大事ってワケよ」
「でも、闇雲に声をかけて駄目なら…どうすれば?」

わたしが聞くと、おじさんは人差し指を立てて、意味ありげににいっと笑って、ウインクした。

「ここ独特の、秘密の合図があんのさ、嬢ちゃん」

顔に似合わないかわいいポーズに少し引きながらも、わたし達はおじさんの言葉の続きを待つ。

「依頼待ちのヤツはな、右腕に赤いリボンを巻いてる。旅人にいつでも声かけてくれって合図だ」
「そ、それだけ?」
「ああ。でもリボンの合図は時間に余裕あるヤツだからな、しょうもねぇ依頼のこともよくある。そういうのは報酬も少ないからな」
「へぇ…ありがと、おっちゃん!じゃあ金持ってまた来るな!」
「お、ちょっと待ちな!」

走って武器屋さんを出ていこうとしていたたじを、おじさんの大声が引き止めた。その声に、呼び止められていないわたし達がびくっとしてしまった。たじが不思議そうに振り返る。

「俺からも一つ、そこの嬢ちゃんに依頼していいか?」
「へっ?!わた、わたしですか?!」
「ああ。名前はなんてぇんだ?」
「あ、あの、なまえです」
「なまえだな。じゃあなまえ、今日のウチの晩飯作りを依頼していいか?」
「ば、晩飯作り、ですか?」
「女房に先立たれてから、人の料理なんて食べてなくてな。報酬はお前さんらの晩飯でどうだ?材料は置いてある分勝手に使え」
「え…いいんですか?!」
「いいもなにも、こっちから依頼してんだ。その代わり、武器はウチで買ってもらうぞ?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
「よし、じゃあ夕方またウチに来い。依頼見つけてこいよ!」
「はい!」
「サンキューおっちゃん!」

すでに扉の前まで行っていたたじは、おじさんが話し終わったと同時くらいに武器屋を飛び出した。わたし達もおじさんにお礼を言って、慌ててたじを追った。
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