翌日の朝、わたし達の傷はすっかり治っていた。やっぱり、たくさん戦うのが基本の世界だから、傷薬の効力も違うんだろう。

「朝食も予定がなければ家でどうぞ」
「いやいや!大丈夫すよ!」
「たくさん迷惑かけてしまったので!」
「迷惑だなんてそんな!…最近は物価が上がってきているし、旅の方はお金の遣り繰りが大変では…?」
「物価上がってるんすか?」
「はい。まだ魔王の影響で生産が困難になったものなどだけですが…ところで、お礼の金額なんですが」
「だっ駄目ですよ!こんな散々親切にして頂いた上、お金までなんて駄目です!」
「…ではせめて、朝食は食べて行って下さいね」

本当に親切なお母さんのご厚意で、わたし達は結局朝ごはんもご馳走になった。朝ごはんを食べてからナオトくんとまた少し野球の話をして、体を動かした。その後ナオトくんとお母さんにお礼と別れを告げて、わたし達は次の依頼を探すことに。

「ナオトママのときは切羽詰まってたけどさー、やっぱ依頼が欲しかったらこっちから声かけるもんかなー?」
「うーん、ヘッポコだしね…」
「どうなんだろうな…本当オレらここのこと全然わかんねーな」
「ちょっと人通り多いとこで観察してみる?」
「そーだな!」

というわけで、人通りの多いところに移動しようとしたわたし達、だけれど。

「人通りの多い通りって…どこ、かな…?」
「…ね、どこだろ」

そう、わたし達はここセレーノについて、ほとんど何もわからないのだ。昨日ブラブラしたときに、宿をいくつか見つけたことは覚えているけど、それ以外は中を確認することもなく、なんとなく歩いていた。改めて見ると、赤いレンガ造りの家の並ぶ港街はすごくオシャレな感じでかわいい。こんな状況でなかったら観光したいところだけど、生憎今は依頼をこなさないと寝るところも食べる物も確保できないのだ。観光などと言ってる場合ではないのだ。わりと、切羽詰まっている、のだ。

「この大陸どころか、この街の地理さえわからないもんね」
「なー」
「あ、そういやさ、武器とかってさ、やっぱ買った方がいいのかな?」

ふと、一軒のお店を見て泉くんが呟いた。つられるようにその視線を辿れば、武器屋さんが。確かに武器が強いに越したことはないけど、わたし達は今の自分達の武器の強さもわからない。

「あ、じゃーさ、今の武器どんくらいなのか武器屋の人に聞いてみようぜ!」
「あー、なるほどな。ならついでに街の地理とか聞いとくか」

そういうわけで、わたし達は地理と武器について聞くために、泉くんの見つけた武器屋に入ることにした。

「こんちわーす」
「おう、いらっしゃい」

人のいない武器屋のカウンターから顔を出したのは、髭面の怖い顔のおじさん。いかにも武器屋さんって感じの顔だ。でもその表情は笑っていて、いい人そうなこともわかった。

「ここ武器屋だよね?」
「おう、そうだ。この街にもたくさん武器屋ができたが、ウチは一番古くから代々継いできた店だからな、武器の性能は心配いらねぇぞ」
「へぇ!じゃあシニセだ」

扉を開け、一番に店に入ったたじは、怖い顔の店主に臆することもなく、にかっと笑った。たじの口から難しい言葉が出ると、別の単語みたいに聞こえる。

「それで今日は何をお求めだ、旅人さんよ?」
「んー、実はオレら旅人初心者だから、武器のことよくわかんねーの」
「だっだから、わたし達の今の武器ってどれくらいの強さなのか教えてもらえませんか?」

たじのあまりの遠慮なしな態度にヒヤヒヤしたわたしが割り込んで説明した。店主のおじさんはたじの態度を特に気にすることもなく、豪快に笑った。

「構わんよ、旅人の嬢ちゃん。この街には旅人初心者も多いからな。しかし入った店がウチで良かったな、他はそんなの相手にしないような気取った店ばっかだ。どれ、見せてみな」

店主のおじさんの言葉に、たじと浜ちゃんと泉くんは武器を出してカウンターに置いた。わたしと廉くんは武闘派でないので、武器を持っていない。

「…お前さん方、こんな武器でよくやってこれたな…初心者っつってもまさか、街から出たことないってこたぁないだろ?」
「一回、ゴーレムと戦ったけど全然歯が立たなかったよ」
「ゴーレムだって!?こんなオモチャみてぇな武器でよく生きていられたもんだな!」
「あ、あの、その時はわたしが魔法で…」

冗談だろという感じで笑ったおじさんに、わたしは遠慮がちに話しかけた。おじさんは感心したようにわたしを見て、その後また笑った。

「魔法?何言ってんだ嬢ちゃん、あんた召喚師だろ?」
「……ん?」
「なんだなんだ、自分で選んだ職も忘れちまってるのか?記憶喪失の旅人か?お前さんら、本当に大丈夫か?」

なんだかとても親身に、本気で心配してくれる店主さんに、わたしはかなりショックを受けた。恥ずかしいのと、ほんとにこんなんで大丈夫なのかって不安と。わたし達、思ってるよりも大丈夫じゃないかもしれない。
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