ナオトくんは、木の上で隠れている間に眠ってしまったらしい。枝の間から伸びた手足を廉くんが発見し、叫び、それに気付いたたじと浜ちゃんによって無事降ろされた。

「こわかったー!お姉ちゃん、お兄ちゃんたち、ありがとう!」
「おう、もう勝手に街から出んなよ!」

ナオトくんもゴーレムを見かけ、見つかる前に隠れてやり過ごしたらしかった。確かに、ナオトくんは見た感じ小学生低学年か、それより小さいくらいだろうか。一人であのゴーレムと対峙なんかしたらトラウマすぎる。

「ゴーレムはやっつけたから安心していいぞーナオト」
「このおねーさんがな!」

ナオトくんの頭を撫でる浜ちゃんと、わたしの首に腕を回してニッと笑うたじ。首、絞まってる。

「えー!あんな大きな魔物を、お姉ちゃんが?!すごーい!」
「あはは、ありがとう。でもみんなの力だよ」
「お姉ちゃんとお兄ちゃんたち、強いんだね!」

目をキラキラさせるナオトくん。小さい子のヒーローになって、悪い気はしない。

「お兄ちゃんたち、魔王を倒しに行くの?」
「おう!そうだぞ」
「だから強いんだね〜」
「でも、こないだまでは野球で甲子園を目指してたんだ」

たじが、自分で言ったくせに、言ってから少し寂しそうな顔をした。

「ヤキュウ?コウシエン?」
「野球知らないの…?!」

廉くんが身を乗り出して驚いた。寂しそうだったたじが、すぐさま復活する。

「じゃあ、教えてやるよ!バットっていう棒とボールで……ホラ三橋、ちょっと投げて!」
「え、お、俺、阿部くんに、怒られる…」
「じゃ、じゃあ俺が投げてもいい?」
「浜田かよー!まあいいや!」

大きな枝とツタを丸めた物をバットとボールにして、林はあっという間に野球グラウンドになった。ナオトくんも楽しそうに溶け込んでいるし、やっぱりみんなは野球してるのが一番らしいなと思った。わたしはニコニコ見守っていたが、ふと空が暗くなり始めていることに気が付く。

「ナオトくんのお母さん心配して待ってるんだし、そろそろ帰ろうよ」
「いけね、また忘れてた」
「そうだな!」

駆け寄ってきたたじは、バットもボールも離さない。持って帰るつもりなのか。ちょっと不審じゃないかなと思ったけど、久しぶりに野球ができて嬉しかったんだろうなと黙っておいた。







たまに出てくる魔物をなんとか倒しながら林を抜けると、街の入り口にお母さんが待っていた。駆け出したナオトくんの背中を送りつつ、林で遊んでいてごめんなさいという気持ちも少し。

「ナオト…!無事で良かった…」
「お母さん!あのお姉ちゃんとお兄ちゃんたちが助けてくれたんだよ!」
「本当にありがとうございました…!危険な中を…」
「大丈夫ですよ!」
「でも怪我を…!どうか今夜は家に泊まって行って下さい」
「えっ、いいんすか?」
「もちろんです。ナオトもすっかりなついてしまったみたいで…」
「あのね!ヤキュー教えてもらったんだ!」
「ヤキュー?」
「家で話してあげるね!お姉ちゃんとお兄ちゃん達もきて!」

ナオトくんに腕を掴まれ、わたし達は苦笑しつつも、言葉に甘えることにした。その時点で空は茜色で、わたし達は部活までに帰れないことはわかっていた。というか、始まりがあまりにも突然だったから、実際に学校でのわたし達が眠っていて、もう部活をしているような時間なのかということすらもわからないのだ。

「ここがうちだよ!」

ほどなくして、さっき説明してもらったナオトくん達の家に到着する。中に入らせてもらうと、暖炉のあるかわいい家だった。お母さんはわたし達に椅子を勧めると、キッチンに立った。後ろをナオトくんが追いかけ、野球の説明を始める。野球を気に入ってくれたらしい。あんなゴーレムに追いかけられたのに笑っているナオトくんを見て、感心した。もしかしてあんなゴーレムはうじゃうじゃいるようなレベルなのかな、と思うと少し不安になったりもした。

「ヤキュウ、楽しかったのね」
「うん!でも、ゴーレムはこわかった…」
「ゴーレム?ナオト、ゴーレムに襲われたの?!」
「うん。でも、あのお姉ちゃんがが倒しちゃったんだよ!お姉ちゃんとお兄ちゃん達は、魔王を倒す旅をしてるって」
「ゴーレム…本当に、本当に無事で良かったわ、ナオト…」
「あの、ゴーレムってこの辺りではよく出るんですか?」
「まさか…この街は、大陸では魔王の城から最も離れた、最も安全な街ですから、この辺りで出る魔物は獣のような小さなものばかりのはずです。どこから来たゴーレムなのか…」
「じゃあまあ、あれは例外的に強いやつだったわけだ」
「た、倒せてよかった、ね…」
「ほんとだな…」

思わずみんなで、安堵のため息。ゴーレムがこの辺りではかなり強い分類で、それを倒せたなら、本来この辺りにいる魔物はなんとかなりそうだ。

「ねぇ、それよりさ。この先どうしたらいいかな?」
「だから魔王を倒してー…」
「魔王とか以前に!今日中に学校に戻れそうにないじゃん!」
「あ、やべっ!そうじゃん!こんな暗くなってるし!戻ったらモモカンに何されるかわかんねー!」
「大体これ、本当に寝てんのか?ゴーレムと戦ったとき、痛みあったぜ」
「どうなの、かな…」
「ねぇお兄ちゃん達!ご飯ができたよ!」
「あ、ありがとうナオトくん」

わたし達が今後について悩んでいると、お皿を運んでいる最中のナオトくんに呼ばれた。慌ててお皿運びを手伝おうとしたけど、テーブルにはもう綺麗にお皿が並んでいた。

「お口に合うか、わかりませんが…」
「やべ!ちょーうまそー!」
「うわっほんとだ」
「こんなにたくさん、ありがとうございます!」

お母さんの作った料理はどれもおいしかった。見慣れた料理もあれば、見たことのないような料理もあった。

「ごちそーさまっ」
「すごくおいしかったです!」
「それはよかった!食事が終わりましたら、怪我の治療にしましょう」
「や、そこまでやってもらっちゃ悪いっすよ!」
「いえ、させて下さい。あなた方を危険な目に合わせてしまいましたから…」
「あ、お、おっ、くっ…」
「はい?」
「あ、三橋は薬師なんすよ!だから治療の仕方教えてほしーって」
「田島、なんでわかるんだ…」

廉くんはたじの言葉にコクコクと頷いた。泉くんが呆れてるのか感心してるのかわからないような口調でつっこむ。お母さんはにっこりと笑った。

「もちろんです。私も薬師ですので、私にわかることはお教えしますよ」
「お母さんも薬師なんですか?」
「ええ。街の大人は皆、そういう職を持ってるんですよ。旅に出たりしないから、日常で使う、傷薬や毒消し、気付け薬程度の薬しか作れませんけど…」
「気付け薬って多分、さっき廉くんが作ったやつだね」
「ではまず、傷薬の作り方をお教えしますね。ええと、そちらの金髪の方…」
「え、オレっすか?」
「一番怪我が酷いようですから、最初に治療しましょう」

お母さんは浜ちゃんを椅子に座らせると、薬を用意し始めた。廉くんもひょこひょこと寄って行って、お母さんの説明を聞く。薬草を混ぜている間に、わたしは浜ちゃんに近づいた。

「一番怪我酷いって、ごめんね…浜ちゃん」
「え?気にすんなって!無事だったんだし、ナオトの母さんも治療してくれるって言うし。オレはなまえが無事でよかったよ」
「うん…ありがとう…」

ちょっとしゅんとしたわたしに、お母さんが苦笑した。そして完成した薬で、治療を始める。廉くんは今聞いたことを忘れないように、目をぐるぐるさせながらも、頑張って覚えているようだった。
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