たじが向き合った途端、ゴーレムは追う体勢から攻撃の体勢に入った。一歩ためて飛んできたキックをかわしたたじは、軸足だった方に斬りかかる。
「うっ、わ!」
あまりに堅かったのか、剣は跳ね返され、逆に反動でたじが体勢を崩した。すかさず攻撃を重ねてくるゴーレムから、転がるように飛び退いて戻ってくる。
「ヤベェ!めっちゃくちゃ堅いぞあれ!」
「でもやるしかないだろ!俺もやってみる!…って、剣結構重いな…」
「よし!二人同時にやってみるかっ!」
今度は浜ちゃんも一緒に、二人で向かう。動きはそう早くないので、避けるのは問題なさそうだけど、一発食らっただけでも致命傷になりかねない威力な気がする。
「ブロックの隙間狙おうぜ!」
「おし!」
そう示し合わせた二人は、足の同じブロックに左右から斬り込むが、刃は途中で鈍い音を立てて止まってしまう。
「なんだこれ!」
「泥だ!泥で連結されてるんだ!やべ、剣抜けない!」
捕まった状態になってしまったたじと浜ちゃん。ゴーレムは屈んで、蚊を叩くように二人に向かって手を振り上げる。慣れない手付きで弓を用意していた泉くんが、ようやく矢を射る体勢になる。
「当たってくれっ!」
泉くんの矢は、上に向けすぎてゴーレムの頭上を通り越してしまう。どうしよう、と思わず目を閉じた。けれど、二人が潰されたような大きな音はしない。そっと目を開けると、頭上を超えたと思っていた矢は頭のてっぺんに刺さったようで、ゴーレムはそれを気にして再び立ち上がっていた。その間に、全力で剣を引っこ抜いた二人が駆け戻ってくる。
「助かった泉!」
「でも、ダメージはないみたいだ」
ゴーレムは確かに、頭に刺さった異物を鬱陶しがっているだけに見えた。
「剣も弓も効かないってなると…」
「もう…」
みんなの視線はわたしに。
「…魔法しかない?」
「いやいや!魔法ってどうやって出すの?!」
「知らないけどでもそれしかないぞ!」
「三橋、爆弾だ!爆薬作ろうぜ!」
「ば、爆…?!」
「ホラ草出してみろって!」
三橋くんとたじは離れて爆薬を作り始めたらしい。泉くんと浜ちゃんは、ダメージこそ与えられないものの、攻撃してゴーレムの気を引いて時間を稼いでくれている。一人だけ役立たずのわたし。なにかしたいけど、やり方がわからない。
「とりあえずなんか適当に!」
「うん!…も、燃えろっ!」
何も起きない。
「凍れっ!」
何も起きない。
「カミナリ!!大嵐!!」
何も起きない。
「もう!どうしろって言うの!」
「あっ、なまえ!!伏せろ!」
地団駄を踏んだ瞬間、浜ちゃんからかかる声。反応できなかったわたしは突き飛ばされ、転がった。慌てて起き上がると、さっきまでわたしがいたところに、倒れている浜ちゃん。
「浜ちゃん!」
「はあっ……無事だな」
「うん、ありがとう…浜ちゃん?」
わたしの頭をぽんと叩いた後、急に力が抜ける浜ちゃん。気を失ってしまった。わたしのせいだ。
「廉くん、浜ちゃんが!」
「く、薬、作ってみる、よ…!」
「クソッ、代わりに俺が時間稼ぐ…」
「大丈夫たじ、わたしがやる」
「なまえ?」
わたしは突然、やり方がわかった。ふわりと髪が浮く。足元に、どこからか風が集まる。
「吹き飛ばせっ!」
自分も吹き飛んでしまいそうな豪風が、竜巻のようになりゴーレムに向かっていった。泥とブロックでできたゴーレムは、パーツごとが巻き上がりバラバラになり、崩れた。あまりにあっという間で、自分でも呆然としてしまった。しばらくの沈黙を破ったのは廉くん。
「あ、あの、薬、これでいいかな…」
我に返って、廉くんと浜ちゃんに駆け寄るわたしとたじと泉くん。廉くんは自信なさげに、作った薬を見せた。よくわからないけど、とりあえず自信を持ってもらって、それを浜ちゃんに飲ませた。気付け薬のようなものだったんだろう、浜ちゃんはゲホッゴホッと咳き込みながら目を覚ました。
「浜ちゃーん!」
「う、わ!なまえ」
思わず飛びつくと、苦しそうにしながらも受け止めてくれた。廉くんもホッとした顔をしている。
「…ゴーレムは?」
「倒したよ」
「そっか、よかった」
「おう!じゃあ、帰るか!」
「待てよ、なんか忘れて…」
「ナオトくん!!」
「あー!!」
わたし達は最も大事なことをわすれていた。その後、ナオトくん発見には二時間ほどかかった。