朝食を終えたわたし達は、装備を整えて宿の表に集まった。久しぶりにゆっくりと柔らかい場所で寝られて、わたしもみんなもだいぶ疲れが取れた。巨鳥退治に向けて体調は万全だ。

「一回刺激したら、疲れるまで相手をしないといけないよ。みんな、本当に大丈夫?」
「舐めんな!大丈夫だ!」

千代ちゃんの言葉に答えたたじが、抑えきれないくらいウキウキしているのは、見てわかる。剣をブンと振り調子を確かめ、満足気に鞘に戻したその笑顔からも。実はわたしも少し楽しみだった。ドラゴンは確かに怖かったけど、あの時は信じられないくらいみんなボロボロだったけど、でも結構いいところまでいっていたと思う。もし武器があったら、とは何回も考えた。ドラゴンにも勝てる気がするんだから、巨鳥くらい、倒せちゃうような気になるのだ。

「ウンディーネは、調子どう?」

空中に話しかけると、いつものように水が渦巻く。

「ここ数日では一番いい調子だね?なまえが体調のいい日は僕も張り切っちゃうよ」
「頼むね」
「任せて!」

ウインクするウンディーネは相変わらず頼もしい。そんなウンディーネの向こうで、勇人くんがこっちを見て、驚いたような顔をしているのが見えた。

「どうかした?」
「本当に、なまえちゃんとウンディーネは仲良しだね。俺の思ってた正式契約って、もっと、戦いの時に力を借りる、召喚師と精霊って感じのイメージだったんだ。二人は友達みたいだ」
「友達みたいじゃなくて、僕となまえは友達なの!普段からコミュニケーション取らないと戦いでいいコンビネーションは生まれないから、ね?なまえ」
「うんうん」

確かにウンディーネと仲良くなってからは、わたしが困ると自主的に助けてくれたり、無理なお願いも説得すれば聞いてくれたり。でも共闘するってきっとそういうことだ。

「さすがなまえ、わかってるぅ。僕と契約して長くなってきた貫禄だね。そこの召喚師くんはまだ甘いなぁ」

また張り合ってる、と呆れながらも笑って見ていたら、そろそろ出ようよと浜ちゃんが提案した。もっともだ。

「頂上までに、他に魔物は出るの?」
「薬草育成区はなるべく人の手を加えないようにしてるから、少しは魔物も出るけど、そんなに強くないから大丈夫。ほとんど、出ないようなものかな」

千代ちゃんの言葉にちょっと安心して、わたし達は居住区を離れた。霧が濃くて、数十メートル先も見えない。

「最初は畑になってるんだっけ」
「そう。霧がなかったら、見渡す限り畑だよ」

確かに今見えている範囲もほぼ畑だ。

「畑を抜けるのにも、結構かかるの。その上に森があって、巨鳥はさらにその上」
「山登りは慣れたから平気だよ」
「それは頼もしいな」

千代ちゃんが笑った。






そんな会話が、数時間前にあったような気がする。あったはずだ。二日山を歩いた程度で慣れるはずもなく、しかもここは一番標高の高い山の山頂付近。寒さ対策は十分にしてきたはずが寒いし、息もあがるし、みんなにはまた心配をかけてしまった。

「体力を、こっちの世界補正でもうちょっと強化してくれたら、ありがたかったんだけどなぁ」
「無理はするなよ、ウンディーネが戦わせてくれなくなるぞ」

よろめきかけたわたしの背中を、浜ちゃんが支えてくれる。

「あの、なまえさん、これ…」
「ん?」
「篠岡さんに、教えてもらって」

今度は廉くんが近付いてきて、わたしに丸薬を差し出してくれる。いつの間にか薬を習っていたらしい。

「あと少し、だって!頑張ろう」
「ありがとう、頑張る…!」

みんなに励まされると不思議なほど元気が出る。ようやく見えてきた畑の終わり、続く薬草育成区である森を見て、根性見せてやるんだからとわたしは人しれず奮起した。
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