翌朝は霧が出ていた。珍しく早起きできたのか、まだみんなは寝ているようだったので、わたしは一人で宿の外に出た。霧でほとんど見えない風景を、それでもぼーっと眺めた。今日も、風が強い。

「なまえちゃん」

後ろから声をかけられた。栄口くんの声だ。振り返ると、マグカップが差し出されていた。

「朝は冷え込むよ。高地にも慣れていないだろうし、体調を崩したら大変だから」
「あ、ホットココアだ。ありがとう、栄口くん」
「ユウトでいいよ。なんでなまえちゃん達みんな、上の名前で呼ぶの?」

笑いながら栄口くんが隣に腰掛けた。

「わたしがいたとこでは、みんなそうだったんだ」
「なまえちゃん達がいたところ?そういえば、どこから旅してきたの?大陸出身?」
「あ、えーと、ここの大陸じゃないんだ。かなり遠く。多分知らないくらい遠く!」
「そっかー、俺地理弱いから、この大陸外は全然わかんないや。大陸内でもアヤシイし」

あははと笑った栄口くん。正直少しドキッとした。大陸外出身設定にするなら、大陸外についてもリチェルカで少し勉強しておくんだったな。

「…霧が濃いね」
「バルツァの朝は結構こんな感じだよ。特に最近は魔王の影響も濃くて、全然晴れないんだ。晴れ渡った日の朝は、なんていうか全部見える感じで、すごいよ。壮観!って感じ!」

栄口くんは本当にバルツァが好きなんだなぁと思った。千代ちゃんを見ててもそう思う。自分の生まれた町に誇りを持てるってかっこいいな。この世界に、わたしの生まれた町は存在しない。そう思ったらなんだか寂しくなってきた。

「こらこら、バルツァの召喚師くん」
「うわ!びっくりした!ウンディーネ?」

突然水の塊が現れ、いつもの男の子の姿のウンディーネが成形された。そして出てくるなり、栄口くんのおでこに人差し指を突き付け、口を尖らせる。

「僕の召喚師を悲しませないでくれる?」
「え?なまえちゃん、俺なんか悪いこと言った?!」
「えっ、あ、いや」
「僕の召喚師は繊細だから、お郷自慢なんて聞いたら、自分の故郷が懐かしくなっちゃうの!」
「ちょ、ウンディーネ!やめてよ恥ずかしいな!」
「あ…ごめん。なまえちゃん達は故郷を離れて頑張ってるのに…」
「わ、あ、あんまり気にしないでよ栄口くん!ウンディーネも、昨日から対抗意識燃やしすぎ!」

ツン、と栄口くんから顔をそらしているウンディーネ。案外ヤキモチ焼きだ。でも、僕の召喚師、っていうのはちょっと嬉しいかな。と、口に出すのは恥ずかしいので頭の中で言ってみた。チラッとわたしの方を見たウンディーネにウインクすると、ちょっと嬉しそうに笑った後、今日は魔力温存しとかないといけないんだったね!とか言って、消えた。まったく可愛いな、わたしの精霊さんは。

「はあ…ごめん、なまえちゃん」
「え?!いや、本当にそんなに気にしてないから!ウンディーネはちょっと素直じゃないだけで…そんな落ち込まないで栄口くん!」
「…なまえちゃん」
「うん」
「サカエグチくんじゃなくて、ユウトでいいよ」
「うん?」

あれ、話が吹っ飛んだ気がする。気がするけど、落ち込んだ顔じゃなくて笑顔になったことだし、いっか。

「うん、じゃあ勇人くんって呼ぶよ」
「ほんと?嬉しいな。俺もちょっとウンディーネに対抗意識出してみた」
「え?」
「そろそろ戻ろう。みんな起きてきた声がする」

立ち上がった勇人くん。わたしもココアを飲み干して、それに続いたけど、なんだかちょっと照れ臭いというか。あとでまたウンディーネになんか言われるかな、なんて思った。
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