食事を終えて談話スペースに戻ると、千代ちゃんが来ていた。彼女も今来たばかりのようで、荷物をソファーに下ろしている。

「あ、みんな。お疲れさま」
「千代ちゃんも!」
「家でこれ作ってきたの。少しだけど疲労回復になるから」

千代ちゃんは笑顔で小さな丸薬をわたし達にくれた。ああ、もう。その笑顔だけでも癒されるって言うのに。なんだかじーんとしてしまった。

「で、明日の予定を決めたいんだけど…」
「そうだな」

泉くんが同調したのを聞いて、栄口くんが机に地図を広げた。バルツァの地図のようで、案外広い。

「さっき通ってきた門以降の地図だよ。今いる居住区はここ」

栄口くんは、門から少し行った家のイラストの描かれたところを指差した。

「まだ上があるんだな。居住区は頂上じゃないんだ」
「この上には広大な薬草育成区があるんだ。その植物の特色に合わせて、畑、森、そして頂上が岩石地帯になってるの」
「言ってた巨鳥は頂上に棲み着いてるんだ。薬草は食い荒らすし、刺激したら魔法で天候をムチャクチャにするし…しかもすごく強いんだ」
「じゃあ明日は巨鳥退治だな!」

たじが意気込んだ。本当に元気で、頼もしい限り。

「い、異常気象、は?その鳥のせい、なの…?」
「そうだった。あいつのせいもあるけど、たぶん魔王の魔力の影響だな。暴風の日が続いたり、落雷で怪我の被害が出たりしてるんだ。そっちは…シルフだな」

栄口くんがつぶやくと、見計らっていたかのように空気が渦巻き、シルフが現れた。

「どうにかなるかな、シルフ」
「ええ、ユウト」

シルフは微笑んだ。遺跡のときよりも頼りになる表情だ。

「スピリットサークルを知っている?」
「精霊の力が封じられた魔法陣ってやつ?」
「そう。私達の描いた魔法陣、スピリットサークルの中のものは、精霊の加護を受けるのよ。本来は人一人分の小さな物だけど…バルツァ全部を囲む大きなスピリットサークルを描けば、村を救えるわ。わたしのスピリットサークルは、風には強いの」
「そんなこと、できるの?!」
「その分ユウトの魔力をかなりたくさんもらわなければいけなくなるけれど…一度描いてしまえば、効力は私がここにいなくても続くわ。今残っているスピリットサークルも、かつて私達が契約者の為に描いて、それが効力を持ったまま残っているものだから」
「それだ、そうしよう!魔力ならいくらでも渡すよ!」

栄口くんは嬉しそうに立ち上がった。千代ちゃんも、心底ほっとしたような顔をしている。ウンディーネも、スピリットサークル、描けるのかな。

「もちろん!」
「うわ!」
「でも僕のは水限定だけどね」
「今のは別に呼んでないよ、ウンディーネ」
「そう?小さな疑問もその場で潰した方がいいと思って」

すぐに、なるほどシルフに対抗したんだな、とわかった。ウンディーネは照れ臭そうな顔をして、今はなまえの体力が少ないからこれで帰るよ、とすぐに消えた。わかりやすい子だ。

「じゃあ、巨鳥退治に備えて今日はシャワー浴びて寝るかぁ!」
「き、休息は大切だけど、巨鳥はほんとに強いの!絶対に無理はしないでね!」

慌てたように千代ちゃんが言った。

「大丈夫だって!武器がなかったせいでドラゴンと戦えなかったから、早くまた強いのと戦ってみたいんだ!」
「ド……ドラゴン?!」

千代ちゃんと栄口くんの言葉が重なった。やっぱりドラゴンってとんでもないのかな。思い出して、背筋がヒヤリとした。でも確かに、全員万全の状態で挑めるボス的な魔物は、久しぶりかも。実力を測る為にも、良い機会かもしれない…って、見てもいないのにそんな余裕をこいてしまうのもどうかと思うけど。

「俺もシルフと一緒なら戦えるし、明日は頑張ろう」
「おう!」
「ゆっくり休んでね」

千代ちゃんの少し不安そうな顔を見送り、わたし達も鍵をもらって部屋に降りた。明日のことはわたしも少し不安だけど、とりあえず今日は、久しぶりのベッドを楽しもう。こっちの世界に来て、一日一日のいろんなことを幸せに感じられるようになった気がした。
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