「シルフの提案に従うよ」
わたし達が話し合って出した結論は、それだった。今わたし達は、少しでも力が欲しい。シルフもウンディーネも頷いた。
「わかった。じゃあ、バルツァに向かいましょう」
「手間をとらせてごめん」
「こっちこそ、邪魔して悪かったな」
泉くんが悪戯っぽく笑って言った。栄口くんは苦笑いして、そんなんじゃないよ、と訂正した。千代ちゃんも違う違うと首を振っている。
「じゃあ…梯子で上まで戻るか」
浜ちゃんが梯子の先を見上げる。気が遠くなるような高さだ。
「七人もいて、魔法使いはゼロだもんなぁ!」
たじが頭の後ろで手を組み、口を尖らせる。みんなはわざわざ一回下りてきてくれたのに、また戻るんだもんな。
「待って、正式契約の召喚師が二人もいれば、どうにかできないかな?」
栄口くんが、シルフに向かって聞いた。正式契約というのは、わたしが思っていたよりも強力なものとして扱われているようだ。
「ど…どうかしらウンディーネ…」
「僕は横の力には強いけど、縦には向かないんだ。なまえの魔力を使い過ぎる」
「そっか…」
「でも、シルフなら得意でしょ?土台なら僕と魔剣士さんで作るから、君の魔力でやってごらんよ」
ウンディーネがにっこりと栄口くんを見た。試しているような顔だ。栄口くんの魔力を見たいのかもしれない、と思った。
「本当に?シルフ、できるかい?」
「や、やってみましょう、ユウト」
「決まり。ほら魔剣士さん、氷の剣を出して」
浜ちゃんが苦笑いしながら、青い宝石をはめた剣を取り出す。ウンディーネの出した大きな水の塊に剣を突っ込み、凍らせた。剣は操縦桿のように、外れなくなった。
「と、溶けるよなぁ、これ?!」
「上は砂漠だ、すぐ溶ける!」
たじが楽しそうに氷に乗り、わたし達もそれに続いた。最後に乗った栄口くんが、隣に浮いているシルフを見る。
「シルフ!」
「はい、ユウト」
ブワッ、と風が巻き起こる。小さく浮いた氷の塊の下で、小さな竜巻が発生した。
「す、すご…!」
「剣に掴まらないと、吹き飛ぶかもよ」
興奮した廉くんに、ウンディーネがウインクした。それを聞いたみんなが慌てて剣に掴まるのと同時に、竜巻が一気に大きくなり、猛スピードで氷の塊が上昇した。千代ちゃんが小さく悲鳴を上げた。
「魔力を借りるよ!」
ごうごうという風の音には相変わらず負けないウンディーネの声。反応する間もなかった。ウンディーネは水の弾丸で、わたし達がぶつかるところだったさっきの床を撃ち抜く。直後、視界が暗くなった。続いて衝撃。氷の塊は粉々に砕け、わたし達は鐘に続く部屋の床に投げ出された。
「みんな、無事…?」
栄口くんが、服についた氷を払い落としながら、立ち上がった。
「無事だよ、ユウトくん」
「荒かったけど、一瞬だったな」
千代ちゃん、浜ちゃんが続けて起き上がり、遠くに飛んでいた泉くんと廉くんも体を起こした。
「…たじは?」
「お前の、下!」
「ぎゃっ」
一人姿が見えなかったたじは、わたしが下敷きにしてしまっていた。慌てて退くと、ダイエットしろよーとからかわれた。
「てことは全員無事だな?」
「相変わらず、ここの床コエーよ。早く出ようぜ」
「そうだね」
泉くんの言葉に頷き、ぞろぞろと神殿を出た。外は少し陽が傾いてきていた。
「千代ちゃん、バルツァはここからどれくらい?」
「あっちに山脈が見えるでしょう?あそこの一番高いところにあるの。一週間はかからないくらいかな…」
指さされた山脈はものすごく遠く見えた。先は長いようだ。