「ありえねーっ!」
「冒険の始まりと言えばスライムとのバトルじゃねぇの?!」
「無理無理もう走れない!」
「喋ってると余計しんどいぞ!」

わたし達は今、追われていた。それも、ゲームの序盤にありがちな弱そうなやつじゃなくて、3メートルはあるだろうって大きさの、ブロックが積み重なったようなゴーレム。なぜこんなのに追われているかというと、話は数時間前に遡る。






街の人に話を聞いてみたわたし達は、とりあえず今いる街がセレーノという港街だと知った。そしてこのセレーノがある大陸は最近、脅威に侵されているという。その脅威というのが、魔王。どうやら魔王のせいで、この大陸には魔物が大量発生しているようだ。そして、大陸唯一の巨大な港であるセレーノには、魔王討伐のための旅人が多くやってくるという。その旅人っていうのも、本当に実力のある冒険家から、夢や名誉だけが先走ったヘッポコまで様々だという。レベルで言ったら、わたし達は間違いなくヘッポコだろう。難しい話はよくわからなかったけど、とりあえず大まかにそんな感じに理解したわたし達は、別の大陸から来たヘッポコ冒険パーティとしてこの街に来た設定で話を進めることにした。

さらに、話では、魔物に住んでいる場所を壊されて、逆に大陸外に助けを求めるパターンの旅人もいるらしい。その場合ももちろん、大陸唯一の港街であるセレーノを使うので、この街は様々な事情を持った旅人が混在しているようなのだ。そして、そんな需要過多のせいか、船賃がやたらに高い。つまり、高いチケットを手にいれてここに来た旅人も、家を失って大陸外に逃げたい旅人も、とにかくセレーノにいる旅人はほとんどの場合お金を求めているのだ。反対に、街の住民は結構裕福な人が多い。高いチケット代で稼いでいる客船の船乗りや、同情する大陸外との海洋貿易との商売は、儲かっているみたいだ。そんなこの大陸ならではのビジネスが、街の人の依頼を旅人が受けて、報酬をもらうというもの。これなら無一文のわたし達も、自然にお金を稼げるわけである。

「さっきのおばさん、すげー色々教えてくれたな」
「でも依頼はくれなかったね」
「まあ、ここどこですかって聞いてくるような旅人になんにも依頼したくないよな」
「でもやっぱり魔王、いるんだな!」
「田島嬉しそうだな」
「おう!魔王倒したら、ホントに勇者じゃん」

たじがニッと笑って言ったとき、バタバタと足音が近付いてきて、わたし達は会話を切り上げた。振り返ると、すごく慌てた様子のおばさんが走ってきていた。おばさんはわたし達の前で止まると、息を整えながら必死で話し始める。

「あ、あの、あなた方、旅人さん、ですよね?」
「そっすけど…大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですが…うちの息子が、街の外に出て行ってしまったみたいで…どうか、探して頂けませんか?もちろん、お礼はしますので…!」
「それは心配ですね…わたし達に任せてください!」

そう言うとおばさんは深く頭を下げた。家の場所と息子さんの名前と特徴を聞いて、わたし達は急いで街を出る。

「街の外は、やっぱり危ないんだね…」
「でも、報酬ってどれくらいなんだろうな」
「探して連れ戻るだけなら、そんなにじゃないかなー」
「それよりちゃんと依頼をこなすのが先!」

街を出てしばらくは、魔物らしいものも出てこなかった。道はやがて、草原から林に変わる。息子さんの名前はナオトくんと言うそうなので、ナオトくーんと名前を呼びながら、林を歩き回った。と、後ろから木がガサガサという、明らかに風ではない音が。

「ナオトか?」
「お母さんが探してたよ…って」
「ナオトじゃないみたいだぞ…」
「に…逃げろー!!」

どう考えてもナオトくんとは違う巨大なシルエットに、わたし達は一斉に駆け出した。ちらっと後ろを振り返れば、今度は全身を表したゴーレムがはっきりと見えてしまった。そして、ようやく話は最初に戻る訳である。

「この状況、どうするの?!」
「どうするったって逃げるしか!初めてがあれはキツイだろ!」
「でもずっと逃げ続けれないよー!」
「んじゃ倒すしか…」
「あんな堅そうなのどーやって!」
「知らねーよ!」

叫びながら走っていたら、余計に息が苦しくなってきた。この中で最初にバテるのは間違いなくわたしだ。そろそろ本当に限界。だんだん、みんなとの距離が開き、ゴーレムとの距離が近くなる。

「あっおい、大丈夫かよ!」

気付いた泉くんが腕を掴んで引っ張ってくれたけど、足が重くてほとんど動かない。もう長く走れそうにない。

「クッソ、やっぱり倒すしかねぇよ!」

たじが立ち止まり、グルリとゴーレムに向き合い、剣を抜いて再び走り出した。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -