「お世話になりました」
「おう、死ぬなよ。これは餞別だ」
「ありがとうございます!」
「近くまで来たら、またおいで」
「はい!」

あの後、丸一日休ませてもらって、装備や道具も整え、翌朝、わたし達は出発を迎えた。ギルドの裏門まで見送りに来てくれた榛名さんと秋丸さんから餞別をもらい、別れを告げ、歩きだす。隆ちゃん、文貴くん、花井くんの三人は、街の外の林の前まで送ってくれるらしい。

「なんかさ、お前らといたのって短い間だったけど、ずっと一緒にいたみたいな不思議な気持ちだよ」
「そうだね…」
「また来いよ」
「うん」

いざ別れの時になると、やっぱり寂しくて名残惜しくて、林の前で立ち止まる。

「どうせ、バルルーメ遺跡と魔王の城は反対なんだから、通り道だろ?またすぐ会えるじゃん」
「うん、そうだよね…」

文貴くんのふにゃり笑顔も、もうしばらく見れないと思うと寂しい。ちょっと意地悪な隆ちゃんも、本当に気が利く花井くんも。でも行かなきゃ。

「よし、」
「行けるか?なまえ」
「うん、行こう。またね、みんなありがとう!」
「みんな気をつけろよ!」

手を振って、前を向く。振り返ったら寂しくなるから、前だけを見る。林の木々には、ところどころに目印が付けてある。ギルドの人が通る時に迷わないよう付けた印だ。それを辿れば林を真っすぐ抜けることができると榛名さんが教えてくれた。

「バルルーメ遺跡って、どんくらいかかるんだろうな?」
「どうかな、林を抜けたら目指すべき場所はすぐにわかるって、榛名さんは言ってたけど…」
「あ、あの、オレ、榛名さんから、脱水症状に気をつけろって言われた…」
「脱水症状ぉ?」

廉くんの不吉な言葉に、汗が滲む。…いや、実際に気温が上がっているのだ。薄暗かった林に、光が入りはじめる。そして足元が、腐葉土のような質感から、さらさらした砂に変わる。なんとなく、榛名さんの言わんとすることは理解した。木はまばらになり、やがてわたし達の目前に広がったのは、広い広い砂漠だった。

「うわあ…」

日陰がなくなり、乾いた暑さに汗が吹き出すような感覚。それでもしっかり前を見ると、暑さでゆらゆらした大きな建物が遠くに見えた。そこまでの道を作るかのように、点々と砂漠から何かが突き出している。たじもそれが気になったのか、一番近くの突起物に近付き、観察した。

「なんだこれ?自然のアート?」
「いや、人工のもんだろ。だれかが置いたのか?」
「…違う、多分置いたんじゃなくて、埋まったんだ。街一つが遺跡として、そのまま砂の下に」

たじと浜ちゃんの言葉に、泉くんが答えた。言われてみれば、丸っこいそれは、ドーム状の屋根に見えなくもない。一番遠くのゆらゆらしている大きな建物へ続く、家や店を縫うような道。どことなく、さっきまでいたフォンタナを思い出す。触ってみたら、砂埃に隠れていた、青いタイルが見えた。栄えていたのだろうか、と感慨に耽っていたら、どこからか水の跳ねる音がして、ウンディーネが現れた。

「やあ!久しぶり、君達!」
「ウンディーネじゃん!元気になったのか!」
「なまえの元気が僕の元気さ。みんなも元気…かな?」
「あっちー!」

たじがウンディーネに抱き着こうとして、ウンディーネがするりと避ける。

「ま、なまえが元気な限り、水の心配はいらないよ。それよりみんな、砂漠の都、バルルーメへようこそ!」

ウンディーネが両腕を広げ、砂漠を示した。砂漠の都、バルルーメ。遺跡と呼ばれる前の名前なんだろう。

「バルルーメは光って意味で、ここは光の精霊ルナを祭るための都だったんだ」
「ルナって、ウンディーネ達を生み出した精霊だっけ」
「そう。だから、僕ら精霊はルナのゆかりの土地に来ると、安心するんだ」
「だからシルフはここにいんのか」
「そう!」

浜ちゃんの言葉に頷いてから、ウンディーネは道の先を腕で示した。

「一番奥の大きな建物が神殿で、一番ルナの力が強い場所なんだ。多分シルフは、そこにいるよ」
「よっしゃー!じゃあ目指すは神殿だな!待ってろシルフ!」

たじが意気込んで歩きだす。わたしは、それに続いたみんなをさらに追うように、最後尾で歩いた。

「ちなみになまえ、ここは地の魔力に満ちてる。地の精霊と仮契約して力を借りれるよ」
「地の精霊?」
「名前はきっとわかるよ。僕の時みたいに。なまえは自らの意思じゃなくて、なるべくして召喚師になったんだから」
「なるべくして…」
「二人で何の話してんだ?」

少し遅れ気味だったわたしを気遣ってくれた泉くんが、立ち止まって振り返っていた。

「なんでもないよ!ごめんね」
「あんま遅いと、田島がシルフと契約しちまう勢いだぞ」
泉くんはそう言って、にいっと笑う。それじゃあね、と消えたウンディーネの水しぶきを軽く受けてから、わたしはみんなの方へ走った。
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