その日の夜、ベッドで寝転がって、でも寝れずにいると、小さな水の塊が空中に浮かび、ウンディーネが現れた。今度はいつもの男の子みたいな姿だ。

「だいぶ調子が戻ったみたいだね、なまえ」
「うん、ウンディーネ」

わたしが手を伸ばすと、ひやりと冷たいウンディーネの手がそれを包んだ。

「なまえ、ちょっと話を聞いて」
「わかった」
「さっき洞窟でも言ったけど、今の僕はなまえのことが大好きだ」
「あ…ありがとう」
「でも実は、最初はあんまりなまえのこと信頼してなかったんだ」
「え?」
「ホワイトウルフを追い払うには、君の力が絶対に必要だった。あそこに召喚師が来るチャンスは多くないから。でも後からよく感じてみたら、なまえは普通の人とは違う雰囲気を持ってた。なまえだけじゃなくて、君の仲間はみんな。なまえの心を読んだら、違う世界のこと考えてたりするしさ。だから最初は少し不安だったんだ、どんな子かなって」
「そうだったんだ」
「でも、今こんなこと言うのは、今はなまえが大好きだからだよ!一緒にいるうちに、もっとなまえといたくなったんだ。それは信頼してほしい」
「うん、ありがとう…わたしもウンディーネのこと大好きになったよ」

珍しく、ウンディーネが照れたような嬉しそうな笑顔を見せる。

「それで、さっきシルフのことを教えたでしょう?本当はなまえが僕以外の精霊と契約するのはちょっと悔しいんだけど、僕一人の力じゃどうにもならなかった時、なまえを守るためには他の精霊の力も必要だなって」
「ウンディーネ…」
「それに、なまえは僕が思ってるより精霊のことを知らないなって気付いたんだ。最初はそれでもいいって思ったから、適当な説明でからかったりしたけど…」
「そうだったの?!」
「…そう、でもそれもちゃんと説明しなきゃって思った。なまえがここで召喚師をしていくなら必要な知識だもの」
「恐れ入ります…」

初めてウンディーネの心の内を知って、なんだかまた少し仲良くなれた気になれた。わたしももっともっと、ウンディーネのことも、精霊のことも、知りたい。知らなきゃ。

「じゃあまず…精霊は8人なのに、召喚師がそれ以上にいる理由は知ってる?」
「知らない!」
「なまえが僕と契約してることって相当運がいいことだよ。まあ、僕を探しに来てあの洞窟でホワイトウルフにやられた召喚師は多いんだけど…」
「ふ…ふうん…」
「召喚師は通常、仮契約で精霊の力を借りてるんだ。僕はなまえと正式契約したからほとんど貸してないけど」
「どうやるの?」
「例えば僕なら、水の魔力が満ちた場所…例えば滝とか、簡単に言えば水の多い場所かな。そういう場所で、召喚師自身の魔力を僕ら精霊に捧げて、メッセージを送るんだ。僕らは魔力を辿ってその人の心を見たりして、力を貸すかどうか判断する。仮契約が可能なのは下位精霊だけだから、通常召喚師は、その時自分がいる場所に応じて、5つの精霊の力を使い分けるんだ」
「そんな力もあったんだ、召喚師って…!すごい!」
「本来そんな力がメインなんだよ、召喚師は。でもなまえは僕と正式契約してるから、仮契約より圧倒的に強い力を使えるんだ。僕も、なまえが必要なときはなまえのためだけに力を貸せるから」
「あ、でもそれって、魔法使いとは違うの?」
「水の魔法の場合、魔法使いは自分の魔力を水に変換して戦うけど、召喚師は自分の魔力を精霊に与えることで、自然の水を従わせる力を得るんだ。場所で使える魔法が限定される分、強力な水の魔法が長く使えるのさ。なまえは仮契約じゃないから僕がやってるけど、いつも僕は空気中の水分を従わせて、集めて水の攻撃をしてるんだ。仮契約の場合、水の魔力が強い場所でしか使わないから、大抵は空気中から集めるなんてことしないけどね」
「知らなかったあー。いつもウンディーネが、どこかから汲み上げてるみたいだなっては思ってたんだけど」
「やっぱり」

ウンディーネが、苦笑いする。

「じゃあ、どこかで召喚師がウンディーネに魔力を送ってきて、ウンディーネがその人を認めなかった場合は、その人は力を借りれないの?」
「そうだね、でもよっぽどじゃなかったら貸すけどね。精霊の性格にもよるし、あと送る魔力や持ってる魔力の量、気持ちの強さなんかは、ちょっと魔法の強さに関係するかな」
「へえー」
「ちなみに今いるここは、水の魔力が強いんだよ」
「仮契約は試せないわけね」
「試したいって思ったでしょ、お見通しだからね」

にやっと笑ったウンディーネに、わたしも笑ってしまう。

「で、ここからはお待ちかねのお説教」
「待ってないよー」
「なまえは自分の魔力の限界を知らなきゃいけない。バトル中の魔力切れは死に直結だし、仲間にも被害がいくからね」
「そうだよね…」
「洞窟で、体力の消耗はもちろん感じてたよね?」
「うん」
「今回は仲間が武器を持ってなかったから、なまえが戦わなくちゃいけない状況だったから仕方ないけど、仲間を頼ることも大切だよ…わかってるだろうけど」
「うん」
「しばらく使わなければ、魔力は回復する。一回全部切れてから回復するのは、余分に時間がかかるんだ。僕が一緒にいたら教えてあげられるけど、自分でも気をつけて。経験していくうちにわかるようになると思うから」

ウンディーネはそう言ってから、一回言葉を切ってから、ちらりとわたしを見た。

「…それに、無理しすぎたら僕が心配になるから」
「ウンディーネ…ありがとう」

やっぱりウンディーネのこと、大好きだなと思った。

「ありがとう、僕も大好き」

はにかんでから、ウンディーネがぱしゃんと消える。全部考えがばれちゃうけど、こんな関係もいいな、なんて思った。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -