「だあああああ!」

たじが無駄に叫びながら、ドラゴンに向かって走る。ドラゴンはじっとたじの動きを見つめ、待ち構えた。

「ウンディーネ!」
「任せて!」

空中に姿を現したウンディーネは、水の球をドラゴンの顔を目掛けて飛ばす。水で少しでも目眩ましができれば、その間に一撃くらい食らわすことができるだろうという考えだ。しかしドラゴンは、大きな角を一振りしただけで、水の球を一蹴してしまった。たじは慌てて急ブレーキをかける。

「あっぶね!」

バックステップして戻ってきたたじが、ふうと息を吐いて再びナイフを構える。

「ウンディーネ、もっと勢い良く、しばらく水を出し続けられない?」
「できるけど、水が飛び散るから、周りの地面がぬかるむよ。それにさっき、大量の水を使っちゃったから、まだあまり力が戻ってないんだ」
「どういうこと?」
「僕が使える水の量は、なまえのレベルに比例する。さっきなまえ達を助ける為に使ったのが最大で、あれからまだあんまり回復してないから、使いすぎは危険だよ」
「使いすぎるとどうなるの…?」
「僕は回復するまで出てこられないし、なまえはフラフラになっちゃうよ」
「…でも今は、それしかないの」
「なまえがそう言うなら僕はやるよ。なまえの意志が僕の意志だ」

そう言うとウンディーネは、少し離れたたじに声をかけた。

「さあ、ぬかるむから気をつけてね、いくよ!」
「おう!」

たじが再び、集中モードに入る。ウンディーネは片腕を突き出すと、そのままホースのように腕から放水した。ウンディーネの体が時折、どこかから水を汲み上げているように、ゴポゴポと動く。そういえばあの水は一体どこから来るのだろう。目に向かって激しい放水攻撃を浴びたドラゴンは、バチバチと辛そうに瞬きをして、顔を逸らす。たじがすかさず、ナイフを振り上げて飛び掛かった。

「うりゃあっ!」

思い切り振りかぶって、首にナイフを突き刺した。ドラゴンは叫びながら首を大きく左右に振り、たじは飛ばされてしまう。ナイフが刺さったところから飛び散った血液が青くて、なんだかゾクッとした。

「たじ大丈夫?!」
「大丈夫、だ!」

飛ばされたたじがピョンと跳び起きる。しっかり掴んでいたナイフを再び構え、ドラゴンを睨みつけた。ギラッとこっちを見たドラゴンの目は、さっきのウンディーネの攻撃のせいで充血していて怖い。ただ、ゴーレムや大蛇と比べ硬くはないことが有り難い。なんて、考えていたら、ドラゴンが大きく口を開いた。

「なんかやばそう…?」

黒っぽい舌がにょろんと下へ垂れ、思い切り息を吸った直後、ドラゴンは炎を吐き出した。狙いの的だったたじに、ウンディーネが慌てて水をかぶせる。

「あっちー!」

ごろんと転がり、曲がり角に隠れるたじ。標的を失ったドラゴンが、口の端から炎を漏らしながら、ギラギラとした目で周りを舐めるように見回す。

「今完全に俺狙いかな?!」
「どうだろうな、同時に出れば田島の方行くか…?」
「やるしかねーな」
「田島くん、火傷!薬、つけておいて、ね!」
「お、サンキュー三橋」
「ウンディーネ、みんなを援護しよう。相手が炎なら、こっちが有利だよ!」
「…わかった、ただ無理しないで、なまえ」

心配そうなウンディーネに、強く頷く。こんな風に真剣なウンディーネは初めて見た。

「それだけなまえにとって危機ってこと!あとそれと…しばらく一緒に戦って、僕はなまえのこと、大好きになったんだ。心配もするよ」

心を読まれ、そんなことを言われ、この大変な状況にも関わらずきゅんとしてしまった。

「おし、一斉に出て全力疾走だぞ」
「オッケ!」
「三橋のナイフ借りるな」
「うん!」

みんなの声に、再び気合いを入れ直す。さっきと同じようにナイフを構えて戦う姿勢のたじと、瓶を持つ泉くんと、泉くんを援護するようにナイフを持った浜ちゃん。わたしもウンディーネと頷き合い、みんなで一斉に角から飛び出した。すぐにギラついたドラゴンの目がわたし達を捕らえ、大きく息を吸い込んだ。
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