クモの大群の後も、何度か魔物に会ったけど、なんとか倒して進むことができた。わたし達はひたすら奥へ向かう。



ずいぶん歩いていた、ある時。曲がり角が、目に入る。曲がり角は怖い。何かが潜んでいるかもしれない。わたし達は目配せをして、そうっと角を曲がって、

「っ!」

明かりの届かない先で、何かがうごめいた。泉くんと廉くんの服を掴んだ。

「…あれ?」
「もしかして、ウンディーネ?」

先頭で淡く光っていたウンディーネが、おや、と呟く。それに、聞こえた声は聞き覚えが、ありすぎるほど。

「たじ!浜ちゃん!」
「なまえ!」
「あ、バカ田島、大声出すな!」

浜ちゃんの言葉に、わたしとたじはパッと口を手で押さえた。他のみんなも、安堵の表情を強張らせた。大声出すな、イコール、気付かれない方がいい何かがいる…?わたし達は二人に静かに寄って、とりあえずお互いの無事を確認して、それから二人の大まかな傷の治療をした。魔物からは全部、逃げて対処したらしい。

「で、さ」

一通りの治療を終えた後、泉くんが切り出す。

「大声出すなっていうのは…もしかして、この先に何かいる?」

泉くんは、少し先の分かれ道を指さした。さっきからわたしも、気になってはいたのだ。わざわざこの、分かれ道ねちょっと手前で二人が止まっていたこと。たじと浜ちゃんは一度、意味ありげに顔を見合わせた後、揃って頷いた。

「左は行き止まりなんだ」
「…右は?」
「はんぱねーよ」
「何が?」
「いるヤツ」
「は?」
「見てみろよ」
「だっ…大丈、夫…?」
「そっと覗けば動かない」

二人がそう言うので、わたし達は恐る恐る分かれ道に近付き、静かに右の道を覗いた。

「…うわあ」

思わず溜め息。怖いよりも先に、感動した。そこにいたのは紛れも無い、ドラゴン。わたしの体ほどある口からは、大きな牙が見えている。薄暗いせいで黒く見えるけれど、どうやら体は赤黒く、ワニみたいにゴツゴツしているようだ。体を丸めて伏せているような姿勢なので、頭と尻尾がこっちを向いていた。目は閉じられているけれど、寝ているのかはわからない。その巨大な体で、道は完全に塞がれていた。わたし達はまた、そっと戻って、再び溜め息をついた。

「な?はんぱねー」
「うん…迫力が違うね」

不思議な生き物は、ゴーレムや鬼や大蛇、精霊も見たけど、やっぱりドラゴンともなるとレベルが違うというか。見ただけで身震いしてしまう。

「これじゃあ、奥にすすめない ね…」
「でもさ、ドラゴンの向こうが地底湖みたいなんだ」
「ええー」
「横からちょっとだけ見えてるんだけど、近付こうとすると急にドラゴン動くんだよな」

今までで一番怖い魔物に対して、こっちには武器が小さなナイフだけ。どう考えたって無理だ。だけど。

「だけどさ。戻る方法も見つかんないし、もう進むしかないよ」
「だよなあ」

結局、相談の結果。剣を扱い慣れてるたじにナイフを渡して、たじとわたしでドラゴンの気をひいて、その間に浜ちゃんと泉くんが聖水を取ってくることにした。廉くんは、気を失われると回復にものすごく困るので、わたし達と一緒に待機。ドラゴンは奥に行こうとする人を狙うらしいので、こちらから攻撃して気を逸らすしか、奥に行く方法はないみたい。

「ドラゴンは頼んだぞ」
「泉くんと浜ちゃんも気をつけて」
「みんな、怪我、しないでね…!」

わたし達は円陣を組んで気合いを入れた。今までのゴーレム、ホワイトウルフ、大蛇が練習試合だとしたら、今回のドラゴンは公式試合って感じだ。榛名さん指定のビンを持つ泉くん浜ちゃんと、不安そうにすりこぎを握る廉くんに見送られて、わたしとたじはドラゴンの前に出た。
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