走り抜けるのは当然無理で、さっきからクモの足が何度もわたし達の体にぶつかる。しかし邪魔になるクモは全部泉くんがナイフで倒してくれる。ウンディーネはわたし達が走れるように、足元のクモを退かしてくれた。クモの大きさは拳二つ分くらい。どうしようもないくらい気持ち悪いけど、大きくて有り難いこともあった。服の中に入ってこないことと、狙いやすいこと、だ。しかし、クモはそんなことでは足りないくらい、たくさんいた。次第に振り払うのも難しいくらいにたくさんのクモが集まってきて、わたし達の動きも緩慢になる。泉くんの方をを見ることもできないけど、繋いだ手だけは離すもんかと強く握っていたので、ちゃんと存在は確認できた。こんな状況でまともでいられるのはこの手のお陰だ。

と、急にクモの動きが止まった。わたしが顔についてる分だけでも払いのけると、洞窟内に充満している白い霧のようなもやもやが見えた。まさか毒じゃ、とまともに考える間もなく、わたしの意識は遠退いた。






「なまえ!」

泉くんの声で、意識を取り戻す。わたしは重たい瞼をなんとか持ち上げ、辺りを見た。気持ち悪いクモの姿はどこにもない。泉くんを見ると、ほっとしたような顔で笑った。

「平気か?」
「うん」
「よかった。おーい、なまえ目ぇ覚ましたぞ」

え、誰に向かって言ったの。泉くんの視線を辿ると、そこにはふわふわの金髪頭。

「れ、廉くん!?」
「よ、よかった、なまえさん」

地面にペたりと座り込んだ廉くんは、愛用のすりこぎで何やら薬を作っていた。この姿も、最近では見慣れたものだ。廉くんは完成したらしい薬をトントンと薬包紙に落とすと、わたしに差し出した。

「あの、これ…の、飲んでおいて ね」
「ありがとう」

口に含むと、薬草独特の、苦くて青臭いにおい。いつも廉くんは飲みやすいよう工夫して作ってくれるんだけど、こんなところじゃそんな余裕もないから仕方ない。わたしは薬を、水で喉の奥に流し込んだ。

「クモからは、三橋が助けてくれたんだ」
「え、そうだったの!」

廉くんは照れながら頷いた。

「なまえは見たか知んねーけどさ、クモの動きが止まった時、辺りに煙が充満してたんだ」
「あ…見た!」
「あれは催眠ガスだったんだと。催眠作用のある薬草を大量に炙って、クモを眠らせてくれたらしい」

洞窟で大量に炙ったって、一歩間違えば酸欠になるんじゃあ、と思ったけど、結果的にはみんな無事だったのでいいだろう。廉くんに丁寧にお礼を言うと、かなり慌てて手を振りながらも、口元はふにゃあとにやけていた。照れ隠し、かな。

「ところで廉くんはどうしてあそこにいたの?たじと浜ちゃんは一緒じゃなかった?」
「う、うん…俺、一人だった。…あっ、み 水…って、なまえさんだよ ね?あ、ありがとう」
「あ、ううん、無事でよかった」
「三橋、あのクモだらけのとこの近くに流れ着いたのか?」
「ち、ちがくて、俺、結構歩いた!一人で、不安で…そしたら足音が聞こえたから、行ったら、泉くんとなまえさんいて…」
「そっか。とにかく助かった。あと、合流できてよかった」
「たじと浜ちゃんが一緒にいるといいんだけど…二人とも武器がないから、一人であんな状況になったらかなり危険だし!」
「だな、早いとこ見付けないと…」

とにかく進まないことには、二人とは会えない。聖水を汲んでから合流したっていいし、わたし達より奥に流れ着いたのなら先に二人の方が着いてる可能性もある。とりあえずわたし達には廉くんがいるから薬の心配はいらないし、武器のナイフだって二本あるし、わたしの召喚もある。ある程度は戦える。その分、武器も薬もない二人への不安が募る。早く、たじと浜ちゃんと会いたいな。

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テーマ「人外ファンタジー」
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