翌朝、わたし達は朝早く起こされた。眠気が十分に覚めないまま、ノロノロと服を着替えて、防具などの装備は部屋に置いたまま、文貴くんに連れられ一階のホールにおりる。おいしそうな匂いに、たじと廉くんはもう元気だ。
「食事が済んだら装備を整えて、親方の部屋に…場所わかる?」
「わかんねぇかも」
「じゃあ、食べ終わったら俺に声かけてくれればいいよ」
文貴くんは笑って言って、他の仲間の方に行った。わたし達は適当に席を見つけて、食事をとる。早朝だし、アルフの時のようなガッツリ系じゃなくて、サラダ。食料は買い込んであるから、大丈夫だろう。
「なまえ今日少食じゃねぇー?」
「ええー、だってこんな早朝から重いの食べれないよ」
「俺の生姜焼きやろーか?」
「大丈夫、ノーサンキュー」
よく見たら、みんなガッツリ食べている。うう、見てたら胃もたれしそう。
食事を手早く済ませ、文貴くんのところに向かう。同じ机に隆ちゃんと花井くんもいた。
「あ、食べ終わった?じゃあ行こーか」
文貴くんは、まだ食べている二人を残して立ち上がった。出ていく前に花井くんが、頑張れよと声をかけてくれたので、強く頷いた。相変わらずわかりにくい通路を通って、まず自分達の部屋に向かう。なんとか道を覚えようとしたけど、諦めた。泉くんも同じことを考えたらしく、右、左、と小さく呟いている。たじと廉くんはあっちむいてホイをしながらあるいていた。それがまた、集中を妨げるのだけど。
自分達の部屋に戻って装備を整えると、部屋の外で待っていてくれた文貴くんと、今度は榛名さんの部屋に向かう。ぐねぐねするうちに、今何階かがわからなくなった。侵入者避けか何かかと思って聞いたら、改築を繰り返していたらこうなってしまったらしい。人が多いと言うだけあって、何度も増築しているらしい。
「ついたよー」
文貴くんが足を止めたのは、確かに昨日見た立派な扉の前。すごい、なんで覚えれるのか。文貴くんは部屋をノックして、返事を確認してから開けた。
「おはようございます」
「よう、昨日は寝れたか?」
「ぐっすり!」
たじの答えに榛名さんは、ふんと鼻で笑った。廉くんがびくっとして、浜ちゃんが宥めた。
「試験の前に、武器見せてみろ。見てやる」
そういえば、榛名さんは鍛冶をやっているんだっけ。たじと浜ちゃんと泉くんが武器を机に置いた。わたし達のナイフはどうしようかなと思ったけど、まあいいかと思ってそのまま持っていた。
「だいぶ傷ついてんな。研いどいてやるから、先に洞窟の入り口まで行ってろ」
「案内するよー」
やっぱり優しい榛名さんて不気味、なんて失礼なことを考えながら、わたし達は部屋を出た。
洞窟の入り口への道は、意外に単純だった。榛名さんの部屋から一番近い螺旋階段を、ひたすら下りて、下りて、下りたらいいのだ。危険だから親方の部屋と直結しているんだろうか。
「ついたぞー」
階段を全部下りきったところには、物々しい鉄の扉があった。文貴くんが扉の横のレバーを下ろすと、ゆっくりと扉が開く。湿っぽい土のにおいが漂った。
「みんな、怪我しても治してやるけど、できるだけ怪我すんなよー」
文貴くんがへらへらっと気楽に笑った。
「ここ、水谷は入ったことあんの?」
「あるよ」
「どんな感じ?」
「俺の白魔法が活躍するかな!」
「それってどういう…」
「あんまり喋るなよフミキ」
上から榛名さんの声がして、やがて螺旋階段を下りてくる姿が見えた。片腕にたじの剣と泉くんの弓矢、もう片腕に浜ちゃんの魔剣を持っている。
「武器整備してやった。お前ら、そこに並べ」
榛名さんは洞窟の入り口にわたし達を並ばせた。何かくれるのかな。そう思いながら、榛名さんがさっき文貴くんが引いたのの横のレバーに手をかけるのを眺めていた。榛名さんが思い切りそれを引くと、一瞬の浮遊感の後、目の前が真っ暗になった。足元が、開いた。
「頑張れよー」
みんなの武器を振りながら笑う榛名さんの顔も、一瞬で遠くなった。武器なしで魔物のいる洞窟に落とされたわたし達は、周りの状況もわからないまま、ただひたすら下に着くのを待つしかないのだった。