隆ちゃんに案内されて着いたのは、多分榛名さんの部屋。たくさんの本や依頼書らしきものが散乱している。足で物をどけ、スペースを開けながら歩く榛名さんに言われ、部屋の中央のソファーに座った。わたし達の後から、花井くんと文貴くんも入ってきた。大きな事務机に座った榛名さんがさて、と話し始め、みんなの注目が集まる。

「試験内容だけど、二種類あるんだ。近くでやるか、遠くまで行くか。どっちがいい?」

榛名さんは腕を組んだままにやりと笑う。何か裏があるんじゃ、と答えるのを躊躇っていたわたし達だったけど、たじがぴっと手を挙げた。

「近くがいい!」
「そりゃあ、近い方がいいよな!」

榛名さんが嬉しそうに笑った。つまり、わたし達はきつい方を選んでしまったのだ。隆ちゃんのため息が聞こえた。

「試験内容は簡単だ。ギルドの裏にある洞窟の一番奥まで行くだけ。最深部は大きな湖になってるから、そこの水を汲んで戻ってこい。特別な聖水で、ごまかしはきかねぇからな」
「また洞窟…」
「いいじゃん!なんか肝試しみてー!」
「まあ肝試しっちゃ肝試しだな。中には魔物がたくさんいるから」
「なんでギルドの裏にそんな場所があるんすか?」
「街に魔物が行かないようにだよ。出口はそのままギルドの地下に繋がってるから、ギルドで処理できるんだ」

花井くんが代わりに答えてくれた。

「そういうことだ。試験は明日でいいな?お前ら、何か必要なもんあるか?買いに行けないだろうから、あるならタカヤ達に言えよ」
「あ、アルフで揃えたので大丈夫です」
「そうか。じゃあ今日は部屋で休んどけ。アズサ、空いてる部屋あったよな?」
「はい」
「案内してやれ」

それだけ言うと、榛名さんは興味なさ気に依頼書に目を通し始めた。ぱらぱらと見ては、いくつかの山に分けていく。レベル別か、それとも値段別かな。眺めていたら、ちょんちょんと肩をつつかれた。

「行くぞー」

泉くんがにっと笑って言った。わたしも笑って頷くと、榛名さんの部屋を後にする。ギルドはとても広くて、一人で出歩いたら迷いそうだ。花井くんはスタスタとたくさんの扉のある廊下を通り抜けて、やがて部屋数が少なくなった辺りで止まった。

「なまえの部屋はこっち、それ以外の部屋はこっちな」
「えー!男全員一緒かよ!」
「広い客室だからいいだろ。あとなまえの部屋はギルドメンバー用の個室だから、悪いけどあんまり広くないんだ」
「全然大丈夫、ありがとう!」
「花井達の部屋はどこなんだ?」
「俺達は一つ上の階。個室には名札ついてるからわかると思うけど、緊急ならこの階のやつに言えばいいから」
「わかった、サンキュ」

泉くんがぷらぷら手を振った。花井くんは、しっかり休めよ、と言って、階段を上がっていった。さて、休む以外に特にすることがなくなったわたし達。時間は多分、3時のおやつ時くらい。下山中に早めのお昼代わりに、アルフで買っておいたパンを食べたけど、またお腹が減ってきた。なにか食べに一階に行くか、部屋で大人しくして紛らわすか。このあとすることを考えていたら、さっきまで男の子の塊で何か話し合ってた廉くんが、おずおずと声をかけてきた。

「あ、あの、なまえさん、もう休む?」
「暇ならこっちの部屋来とけば?」

どうやらみんなの話は、部屋で時間潰し、にまとまったみたいだ。わたしは頷くと、荷物だけ自分の部屋に置いて、みんなの部屋にお邪魔した。客室は広くて、四人で使うのには十分だった。みんななんとなく自分のベッドを決めてそこに落ち着き、わたしはソファーに座った。

「絶対、遠くの試験のが楽だったよな」

浜ちゃんが苦笑いした。みんな大きく頷いたけど、たじだけが、えーっと不満そうな声をあげた。

「近い方がすぐできるし、ちょっとキツイくらいのが楽しいって!」
「楽しいって言ったって、つい最近洞窟に行ってキツイ目に合ったばっかでしょう!」
「あ、そういやそうだな」
「でも、榛名さん、優しいから…あんなに危ないことは、試験にしない…と、オモウ」

廉くんが控えめに言う。榛名さんが優しいと思えるのはきっと廉くんくらいだよ、という言葉は飲み込む。元々Sな榛名さんだけど、わたしは隆ちゃんの話を色々聞いてるから、余計に怖い人のイメージがあるのかも。

「でもまあ確かに、試験ならそんなに危険なことないよな」
「そうだよね!」
「そうそう!」

わたし達は、自分に言い聞かせるように言って、少し引き攣った顔で笑った。
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