ギルドに着いた頃には、わたしはすっかり息が上がっていた。ギルドの門を入るとまず、大きな噴水のある広場があって、その奥に大きな建物があった。門はいつも解放されていて、広場は街の人も使えるようになっているらしいけど、もちろん今は人影はない。息が整わないのを、浜ちゃんに気遣ってもらいながら、建物に入る。一階はホールになっていて天井が高く、ホテルの受付のようなカウンターと、たくさんのイスやテーブルがあった。そこには、外に比べたらずっとたくさんの人がいたけど、それでもまばらだった。ギルドに入ると視線が集まり、次々に隆ちゃん達へ労いの言葉がかけられたけれど、わたし達を見るとみんなが視線を逸らした。感じ悪いなぁと思いながらも、隆ちゃん達が立ち止まったので、わたし達も止まらざるを得ない。ざわざわとする中待っていたら、正面の階段から人が下りてきた。少し静かになったので、きっと親方だろう。緊張して待っていたわたしは、その親方の顔を見て、思わず叫びそうになった。

「は…」
「バカっ!」

抑え切れずに叫びかけたのは、たじと廉くん。泉くんと浜ちゃんが、全力でそれを押さえ付けた。親方は、榛名さんだったのだ。榛名さんは気にせずに、余裕のある顔で笑って隆ちゃん達を見た。

「遅かったな、タカヤ、フミキ」
「ギルドに入りたいって奴らがいたので、そいつらの予定に合わせてました」
「アズサはどうした?」
「街の様子を見に行ってます」

ニィ、と榛名さんは口角を上げて笑う。

「そりゃあ、街は葬式みたいに静かだっただろうな。お前らが召喚師を連れてきたから」
「え?」

召喚師、ってことは、原因はわたし?召喚師が嫌われている街なのだろうか。でも隆ちゃんや文貴くんも、不思議そうな顔をしている。

「まあ話はアズサが帰ってきてからだ。召喚師と剣士と、魔剣士と弓使いと…薬師か?」
「は、はい!」
「俺はハルナ、ここのギルドの親方だ」

やっぱり榛名さんだ。わたし達もそれぞれ名乗って自己紹介したところで、バタンとギルドの扉が開く。花井くんが戻ってきたのだ。

「アズサ、街はどうだった?」
「あ、親方…なんか、召喚師を連れてくるなって…何かあったんすか?」

花井くんは息を整えながら、榛名さんを見上げた。

「大変なことがあった。街にいた召喚師が全員さらわれた。魔王に」
「魔王…」

真剣な場面で思わず吹き出しかけたのは、あの榛名さんが魔王とか言ってるから。ちょっと俯いて、深刻な顔をしているように見せる。

「この辺に出るのよりずっと賢い魔物がたくさん襲って来た。けど、向こうの目的は召喚師だけだったみたいで、倒す間もなく逃げられた」
「それで街の人は、召喚師のなまえちゃんがいたらまた魔物が来ると思ったのか」
「だろうな。悪く思ってやるなよ、なまえ。街の宿は使えないだろうから、ギルドで匿ってやる」
「は、はあ、ありがとうございます…」

なんか榛名さんが優しいと、不気味で怖い。なんて思うのは申し訳ないか。でもほんとに、真面目で優しい榛名さんなんて、なんだか気持ち悪い。こっちの榛名さんは大人だ。

「そんな状況でも、ギルドの試験って受けれるんすか?」
「試験?ああ、お前らギルドに入りたいんだったか。別にいいぞ」

意外にあっさりオーケーが出た。そして榛名さんは、しばらくそこで待ってろ、と、また階段を上がって行ってしまった。ほっとして緊張がとけて、思わずため息を一つついたわたしの肩に、ぽんと文貴くんの手が置かれた。

「よかったね、なまえちゃん!」
「うん!」
「呑気だな。お前さらわれるかもしれねーんだぞ」
「あ、そうだった」

忘れてた嫌なことを隆ちゃんが思い出させた。なんでよりによって、召喚師だけを?貴重だから?そういえば、この街にいた召喚師の人は、召喚ができたのだろうか。いろんな街にたくさんいたら、定員オーバーだ。

「大丈夫だって!そんときは俺らがいるし」
「そーそー!」

文貴くんと隆ちゃんを押し退けて、泉くんとたじが言った。

「俺達も守ってやるよ!」
「へ?」

今まで静かだったギルドの人達だった。さっきはわざとらしく、目をそらしたのに。思っていることが顔に出てしまったのか、ギルドの人達は慌てて口々に言う。

「さっきのは、親方が何て言うかわからなかったから仕方なかったんだよ」
「親方が許したんなら、俺達はもう仲間だ!」

実力があるからこその言葉なのだろうか。みんな、さっきまで疑ってたのが申し訳ないほどフレンドリーだ。

「試験頑張って、応援してるわ」
「わ、ありがとうございます」

近くの机に座っていた女の人が、わたしに微笑んだ。当たり前だけど、女の人もいるんだ。格闘家なのか、引き締まった体がかっこいい。

「タカヤ!そいつら俺の部屋まで案内してこい」
「はい!」

階段から頭だけ出して叫んだ榛名さんに、隆ちゃんが叫び返した。しかしその顔は明らかに、なんで俺なんだ、という表情。こっちでも、二人は仲が悪いのだろうか。榛名さんがちょっと大人な分、仲がよくなっててもいいのに。根本的に、合わない性格なのかな。階段を上がりながら、そんなことを考えた。

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