「それって夢じゃなくて、何かのユーレイじゃねえの?あの世で待ってる、みたいな」
「や、止めてよ泉くん!」
「気をつけなきゃな!」
「たじまで!」
今は、山を下る途中。夢の話をしたら、みんなに脅かされた。最近はたくさんの獣を倒したからありえなくはない、と一度思ってしまったら、どんどん怖くなってくる。みんなに話さなきゃよかった。ただ、廉くんが慰めてくれたから、ちょっと元気が出た。
「お前ら、ほんと騒がしいなぁ」
「いいよなぁ、俺なんか真面目とドSの板挟み」
「お前がフニャフニャすぎんだよ」
文貴くんがこっそりわたしに呟いた言葉は、しっかり隆ちゃんにも聞こえていた。
「ていうか、山のこっち側はほとんど魔物出ないんだな」
「反対側より拓けてるからな。ほら、この中腹からでも街が見えるだろ」
浜ちゃんの質問に答えて、遠くを指差す花井くん。その延長線上には、確かに小さく、街が見えた。最初の港街くらい大きい街みたいだ。
「見える見える!」
「あれが俺らのギルドのある街、フォンタナだ」
色とりどりの屋根が並ぶフォンタナの街は、周りの森の中で一際はっきりと見えた。綺麗な街だ。少しごちゃごちゃした感じはあるけど、賑やかそう。
「青い壁の大きな建物が見える?あれが、俺らのギルドだよ」
文貴くんの言葉に、青い建物を探して視線をさまよわす。一番大きなそれは、すぐに見付けられた。こっちから行けば一番奥にあたるところに堂々と構えたギルドから、三本の大通りが伸びて、そこからさらに細かく枝分かれしていく。まさに、ギルドは街の中心にあった。
「なんであんなでっけーの?」
「俺らの住居にもなってるんだ。行くあてのない死にかけの旅人とか、幼い頃に親を亡くしたこどもとかも、うちのギルドは保護してる。ただし、旅人なら元気になったら追い出すし、こどもは鍛えて仕事をきっちりこなさせるけどね」
「試験いらなくね?」
「試験で絞ってかなきゃ、人が増えすぎてギルドが潰れる」
弱い奴は仕事できねーしな、と隆ちゃん。きっと依頼のお金の何割かはギルドに納めるんだろう。あの金額なら全然文句はないと思う。
「親方はどんな人なの?」
「親方は剣士だけど、今は鍛治をする方が多いかな。戦ったら俺達なんか歯が立たないよ」
「やっぱ強いんだ」
「怖い人じゃないといいね」
隣を歩く浜ちゃんに言うと、マルタさんみたいな人だといいなと言われた。確かに、鍛治と言えばマルタさん。戦っても強そうだし、親方って呼ばれるのが相応しい雰囲気がある。
数時間かけて山を下りきると、あとはもう林の中を街まで、一本道が続いていた。魔物対策か、街は高い壁で囲まれていて、その一カ所を門にしたところには、"FONTANA"と飾り文字が彫られていた。
「なんか、思ったより静かな街だな」
「おかしいな、いつもはもっと賑やかなんだ」
「何かあったのか?」
泉くんの言葉に、花井くんと隆ちゃんが眉をひそめた。大きな門を押し開けても、やっぱり人の声は聞こえない。通りには全然人気がなかった。
「街の様子見てくるから、先にギルドに行っててくれ」
そう言って、大きな荷物を文貴くんに任せると、花井くんが駆け出した。不安そうな文貴くんと隆ちゃんと、よく状況が理解できないわたし達は、その背中を見送った後、再びギルドに向かって歩きだした。門から三方向に向かって伸びた道のうち、今わたし達が歩いている真ん中の道は、ギルドへの最短ルートだ。
「ほんとに、誰もいない、ね」
「家の中にいんのかな?」
たじがちらちらと窓を覗いていたけど、やっぱり人はいなかったらしい。不気味なくらい静かな街。わたしもお店の二階の窓を見上げてみる。と、一瞬誰かと目が合った気がした。
「い、今、誰かが!」
興奮してみんなに話しかけたわたしを、危ない!と泉くんが引っ張った。一瞬前までわたしがいた場所に、がしゃんと植木鉢が落ちた。呆然として、泉くんと顔を見合わせる。
「あ…ありがとう」
「いや…でも、歓迎はされてないみたいだな」
「なまえちゃん、大丈夫?絶対おかしい、いつもはこんなことない、明るい街なんだ!」
「状況がわかんねーんじゃどうしようもねー、とりあえずギルドまで走るぞ!」
隆ちゃんの合図で、わたし達はギルドまでの長い一本道を全力で走りだした。