「やっほー、頑張ってるね」
「あ、文貴くん達!」

ひたすら小鬼と戦っていたわたし達のところに、文貴くん達三人がやってきた。さっきよりもしっかり重装備である。まあ、わたし達だって宿やちょっとした買い物の間は防具を取るしね。文貴くんはゆるゆるとした白い服で、いかにも魔法使いっていう感じの杖を持っている。隆ちゃんは結構ピッタリめの服で、露になっている肩や肘を防具で固めている。武器は、拳にはめているナックルダスター。多分格闘家なのかな、動きやすいよう、そんなに重い防具は付けていない。一方花井くんは、がっちりと防具を付けている。頭にタオルを巻いているところは、部活中の花井くんみたいだ。武器は、肩に担いだ巨大な斧だろう。わたしじゃ絶対持てそうにないくらい、重そうだ。大柄な花井くんには似合ってるかも。

「怪我してない?」
「わたしは大丈夫だけど、たじがちょっと…」
「田島はとにかく突っ込んでくからな」

泉くんが笑った。たじは防具の隙間から、小さい傷が結構見えている。文貴くんがたじを呼んだ。

「おー、来てたの、水谷達!」
「タジマ、ちょっと腕出して」
「ん?」

たじが大人しく腕を出した。文貴くんが杖を構え、何か呟く。すると、杖の先端とたじの傷口が光だして、あっという間に傷が治った!

「すげー!」
「大怪我を治すのは苦手なんだけどね、これくらいなら」

文貴くんが少し自慢気に言った。でも、その言葉に廉くんが反応したことに気が付いたのか、慌ててフォローを入れた。

「でも、ミハシは薬師だろ?薬師は効き目は遅いけど治療もできるし、金に困った時に薬を売れるから、便利だよな」
「あー、そっか。売るなんて考えてなかったな」

言ったのは、最後に相手にしていた小鬼を倒してこっちに来た浜ちゃん。確かに町が遠い場所では、傷薬が売れそうだ。廉くんもホッとしたような顔をした。誰も廉くんに不満なんかないのに。

「お前らはそろそろ帰った方がいいぞ」

話が終わったのを見計らって、花井くんがたじの肩に手を置いた。

「えー、なんでだよ」
「夜の敵は強いぞ」
「花井達は?」
「俺らはこれからだけど」

この発言に、たじはますますムッとした顔をした。

「たじ、帰ろうよー」
「やだ!花井達の戦い見てやる!」
「あぶねーぞ」

隆ちゃんが呆れたように言ったけれど、こうなってしまってはもうたじは動かないだろう。わたしは本当は怖かったし帰りたかったけど、諦めた方がよさそうだ。そろそろ夕陽が沈み、暗くなる時間だった。

「ったく、お前ら、自分の身は自分で守れよ」
「おう!」

ガサ、ガサ、と小鬼よりも明らかに大きなものの動く音がした。花井くんと隆ちゃんが構えたので、わたし達も緊張した雰囲気になる。文貴くんは後方援助らしく、わたし達を守るように立ってくれているので、少し安心した。

「来るぞ」

花井くんが巨大な斧を片手で持って、森の奥を指した。暗い森にぼんやり浮かんだ大きな影は、前に戦ったゴーレムよりは少し小さいけれど、動きが素早い。姿は、さっきまで戦っていた小鬼達に似ている。親玉の鬼だろうか。その鬼の振り回す棍棒を避けながら、隆ちゃんは一気に鬼に近付いた。あんな生身で近付いて大丈夫かと思わず息をのんだけれど、隆ちゃんが鬼の足に向けて撃ったパンチ一撃で、鬼は大きくよろめいた。

「つ、強!」

横にいた泉くんも、予想以上だったようで、驚いた声が漏れた。高校生の方の隆ちゃんのパンチがあの威力だったら、廉くんは大変なことになっているだろう。そんなことを考えている間に、隆ちゃんは更に何発か打撃を加えていた。ナックルの効果もあり、鬼の足からは血が流れている。すかさず花井くんが斧を振りかざして跳び、肩を狙って振り下ろす。思わず目を逸らした。鬼の断末魔の悲鳴と、なにかが落ちる音。見なくても、鬼の腕だろうと想像できた。鬼の方を見ないように横を向いていたら、同じように横を向いている廉くんと目が合って、ちょっとホッとした。レベルが上がって強くなるということは、ああいうことやものへの耐性もできるということ。それはきっと、わたしには無理だと思った。



大きかった鬼は、十数分で小さな肉片になってしまった。途中からずっと廉くんと手を握りあってビクビクしていたわたしは、その光景を見るのが怖くて、花井くんと隆ちゃんが戻ってきてからも振り返れなかった。

「なまえ」
「な、何?」

意外なことに隆ちゃんに名前を呼ばれ、ちょっと嬉しくてようやく振り返る。と、そこには大きな塊を持って意地悪く笑っている隆ちゃん。塊には爪のようなものが見えた。ゾワッと鳥肌が立ち、咄嗟に横にいた花井くんの腕を掴んだ。

「わ、どうした?」
「たたたたたたか、いや、阿部くんが…」
「こいつ反応面白い」
隆ちゃんは持っていた塊をポイと後ろに投げ捨て、笑った。いじめっこ気質はしっかり健在だ。腕を離せないでいるわたしに、花井くんは苦笑いした。

「アベ、やめてやれよ」
「やめたじゃん」

隆ちゃんはまた性格悪そうな笑顔を見せた。花井くんはその態度にもう一度苦笑して、わりぃなと言ってくれた。花井くんは何も悪いことはないのに。悪いのはこっちの隆ちゃんの性格だ。高校生の方の隆ちゃんだって、もう少し優しいところがあったよ。

「さて、じゃあそろそろ」
「帰る?」
「次の獲物を探す」

期待を込めて聞いたわたしに、またまた隆ちゃんが笑顔で答えた。獲物、って。

「今のはまあ体慣らしで。今度もっと肉が売れるような、獣を狙うんだよ。夜行性のやつが多いからな。なまえ達はもう帰るか?」
「えー、もうちょい、」
「帰ろう!たじ!」

反論を受け付けない強さで言ったので、たじも渋々承諾してくれた。今日は精神的に色々疲れた。早く帰って、ゆっくりしよう。
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