その日の午後は、浜ちゃんの魔法剣の練習と、わたし達自身のレベルアップのために、山を少し降りることにした。この辺りの魔物は、そこまで強くないので、訓練には適しているのだと、宿の亭主が教えてくれた。出店の中に、無料でレベルをはかれる場所もあったので、アルフは本当に冒険者向けの町だと思う。ちなみに今は、みんな13レベルで横一列。わたしも召喚できたから、ちょっと余分に上がったのかも!

山の中腹の森には、小鬼のような姿の魔物が住んでいた。見た目は獣よりも怖いけれど、小さくてすばしっこいだけで、攻撃力は低い。しばらく戦っていると、浜ちゃんも魔法剣の扱いに慣れてきたようで、炎を纏ったまま敵を凪ぎ払ったり、凍り付かせて動けなくしてから一突きにしたり、様になってきていた。たじも負けず嫌いを発揮して、絶好調だ。泉くんは、剣に比べるとやっぱり火力不足なのを気にしていたのか、連射の練習をしていた。廉くんの毒が組み合わされば、威力は剣にも負けていないと思うんだけど。その廉くんは、きょろきょろと森を見渡し、珍しい薬草なんかを探していた。図書館で写してきたらしいメモを片手に、薬草を摘んでいる。わたしも、負けていられないな。

「ウンディーネ!」

わたしが呼ぶと、空中で水の塊が集まっていき、だんだんと人の姿を形作る。液体状の、子どもの姿のウンディーネが、わたしの前に現れた。

「やあ、なまえ!さっそく出番かな?」
「本当の出番に向けて、特訓しようと思って!」
「なるほどね、じゃあ僕の力、なまえに見せてあげるよ」

ウンディーネはにっこり微笑むと、たじが戦っていた小鬼のうち、一匹を指さした。小鬼が大きな水の玉で包まれる。そのままウンディーネが手招きをすると、巨大な水滴は小鬼ごとこちらに向かって来た。残った一匹を処理したたじが、ちょっと怒った顔をした。

「横取りすんなよなー!」
「ごめんごめん!」
「けど、スゲーな!ソレが召喚かぁー」

たじが、フワフワと浮かぶ水玉の中の小鬼を眺めた。小鬼は苦しそうにしている。ウンディーネがパシャンと手を叩くと、水玉が弾けて、小鬼が落下した。結構な高さから落ちて、頭を打ったので、気絶しているようだ。

「僕は一匹を相手にするより、大勢を一気に片付ける方が得意だよ。あそこの魔剣士さんとなら、連携もできるかも」
「浜ちゃんと?」
「氷の剣を使っているでしょう?」

ウンディーネはわたしの回りをクルリとまわって、にこっと笑った。ウンディーネが水を使って、浜ちゃんが凍り付かせるということだろうか。

「そうそう!彼が凍らせられる範囲は限られているけど、僕の力があれば、随分広がるよ。氷の精霊は存在しないし、僕にとってもありがたいかな」
「そうそうって、どっから話繋がってんだ?」
「そういえば、わたし、口に出してない…」
「あ、ごめんね。僕は契約した人の心が読めるんだ。ホラ、水の中で会話できたろう?」

先に言え!と思ったら、ウンディーネがもう一度、ごめんね、と笑った。ああ、これも読まれてるのね。読まれていないたじはお構い無しに、ウンディーネとの会話を続ける。

「氷の精霊っていねーの?」
「いないよ。水と、炎と、地と、風と、雷とが下位精霊。光と、影とが上位精霊。それに、全部を纏めるキングがいるだけ」
「それだけしかいないの?」
「じゃあ、お前は他の召喚師ともケイヤクしてんのか?」
「それだけしかいないし、他の召喚師とは契約してないよ。元々召喚師って、結構人数が少ないんだ。精霊との契約は面倒だし危険だし、そのくせ使える属性はひとつだけでしょう?まあ、その分強力なんだけど…でも、だから便利な魔法使いの道を選ぶ人が多いんだよ。…って、さすがに知ってたかな?」
「し、知らない…」

でもわたしの場合、選ぶとか選ばないとかじゃなくて、勝手に決定されていたのだ。やっぱり普通は、自分のなりたい職を選んで、志すものなのかな。面倒で危険なのに使い勝手が悪いなんて、知っていたら選ばないよ。一体、どんな人が選ぶって言うの?

「若い人の中には、その貴重さから、かっこいいっていう理由で召喚師を志す人もいるよ。途中で諦めて、魔法使いに転向する人も多いようだけど」
「お前は、なまえ以外とはケイヤクできんの?」
「お前じゃなくて、ウンディーネ!僕はなまえ以外とは、もう契約できないよ。なまえが自ら解除するか、なまえが死ぬまで、僕となまえの契約は切れない」
「じゃあ、もう全部の精霊が契約を済ませていたら、新しい召喚師はどうするの?」
「召喚師を諦めた方が賢明かな。召喚師は基本的に、精霊との契約が目標だしね。でも多分、今はまだ、空きがあるよ。最近は会っていないけど…上位精霊達は、随分長い間、契約した召喚師がいないし。全員が契約されていたことなんて、一度あったかなかったかくらいさ」
「風の精霊は?」
「風?僕が最後に会った時は、契約していなかったはずだよ。どうして?」
「前に、助けてもらったの」

マルタさんの言葉を思い出して、言った。あの時は、風の精霊がいなかったら、かなり危なかった。本当に感謝しなきゃ。

「それって、なまえに興味があるのかも。もし仮に機会があれば、次の契約は、風の精霊と結ぶといいかもね」

ウンディーネはわたしの鼻先にちょん、と触れると、パシャンと消えてしまった。まあ、あの子は特訓をしなくたって、強そうだ。
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