立ち話もなんだし、と花井くんがリビングの椅子を勧めてくれた。机には、いつの間にか紅茶が用意されている。普段からこんな性格なのだろうか、主夫すぎるよ花井くん。紅茶に砂糖をひとつ入れた浜ちゃんが、それをスプーンでかき混ぜながら言う。

「あんな高額の依頼もあるんだな。俺達、これの半分くらいの依頼ばったりだったのに」

呆れた顔をする隆ちゃん。相変わらずにこにこしている文貴くん。そして、きょとんとした花井くんが、持ち上げていたカップを置いた。

「なんだ、ギルドに入ってないのか?」
「ギルド?」
「同業者が集まる組合みたいなものだよ。見た感じ、お前ら魔王討伐を目指してる冒険者だろ?」
「おう!」
「そういう冒険者は、やむを得ず冒険者をしてる人よりレベルが高いだろ?それに鍛えたいと思ってるし。でも街の人は、見ただけじゃ、どっちの冒険者かわからないだろ。だから、危なくて経験が必要な依頼は、冒険者に直接じゃなくて、ギルドを介してのことのが多いんだよ」
「え?よく意味わかんね、もっかい!」
「理解したから無視していーよ、花井」
「そ、そうか?それで、そういう危ない依頼は報酬も高いんだ。洞窟の狼退治の依頼は、報酬高いのに誰も行かないから、気になってたんだよな。たまに報酬が上がることもあったし。とりあえず様子見だけってことで行ったんだけど、まさか先に倒したヤツがいるとは思わなかったよ」
「ちなみにお前ら、何レベルなの?」

突然隆ちゃんが会話に乱入してきた。

「わかんね、狼で上がったかも!俺はじゅう、」
「は?10レベル?!」

隆ちゃんが立ち上がった。思った通りといえば思った通りの反応だ。幼稚園児パーティのわたし達。

「10?!フザケンナよ、んなの嘘に決まってんだろ、何歳だよ」
「嘘じゃねーもん!そういう阿部は何レベルなんだよ?」
「48」
「え!つえー!」
「お前らが弱すぎんの!よく生きてたな。てか、お前らくらいでレベル10って初めて聞いたよ」
「うるせ!」
「文貴くんは何レベル?」
「俺は45だよ〜。あ、なまえちゃんミカン食べる?」
「いいの?ありがとう!」
「そこはなんでそんな和やかに会話してんだよ」

泉くんに突っ込まれた。隆ちゃんはなんか雰囲気変わって話しかけにくいし、花井くんもいつもより真面目そうすぎて話しかけにくいのに、文貴くんはいつも通りって感じだ。癒し系っていうか、脱力系っていうか。自然に和やかになってしまうのだ。

「イズミも食べる?ミカン」
「甘いよ」
「あー…もらおっかな」
「じゃなくてさ!」

脱力ペースに飲まれた泉くんを、浜ちゃんが呼び戻した。ちなみにずっと喋っていない廉くんは、できる限り隆ちゃんの視界に入らないよう小さくなっていた。隆ちゃん、部活で相当怖いんだろうか。まあ想像はつくけどね!

「そのギルドって、誰でも入れるのか?」
「うちのギルドは、試験があるよ〜」
「うげぇ、しけんん〜?」
「そう!受けてみる?」
「内容による…よね」
「内容は秘密なんだ、親方から伝えなきゃいけなくて」
「親方?」
「ギルドは親方と、その弟子で構成されてるんだ」
「お前らじゃ無理かもな」
「いや!受ける!そんで受かる!」
「ちょ、おい田島…」
「いいじゃん浜田!」
「はは、まあギルドは山を下りたとこだから、しばらくはこの辺で特訓したらいいんじゃないか?アルフは元々冒険者が山をこえる途中の休憩所として作られた町だから、冒険者向けの店や施設は整ってるし、宿の値段も山下りた街より安いよ」
「じゃあ、またこれからしばらくは特訓だな!」

花井くんの言葉を受けて、たじが言った。これからやることの方向性が決まったら、なんだかやる気が出てくる。

「とりあえず、宿取りだな。ずっとここにいるわけにもいかないし」
「あ、俺買い物もしたいんだけど」
「じゃあ分かれて行動にする?宿は泉くん、買い物は浜ちゃん」
「じゃあ俺買い物ーっ!」
「お、オレ、は…」
「三橋も買い物来るか?」
「…うん!」
「じゃあ、わたし宿取り!」
「いいの?別に俺一人でもいいよ」
「いいからいいから!」
「あ、花井達はどーすんの?」
「俺達も、ちょっとゆっくりするかな。お前らの特訓が終わったら、ギルドに案内するよ」
「回復なら俺に任せてよ、なまえちゃん!」
「ありがと文貴くん!」
「だからなんでそこ二人は仲良いわけ?」
「なんか…懐かしい感じ?」
「俺も俺も!なまえちゃんはそんな感じする」

あれ、なんか隆ちゃんに睨まれた。相変わらず睨んでる時の隆ちゃんの眼力やばい、怖い。慣れてるけど。ていうか、隆ちゃんって呼んだらまずいよね。阿部くん、かな。阿部くん、阿部くん、なんだか他人っぽくて、慣れないな。その視線の冷たさも相まって、忘れられたことの寂しさに気付いた気がした。

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