(※ちょっと血注意)



やばい。いつの間にかわたし達は、囲まれていた。これじゃあ、洞窟の外に逃げることもできない。幸い、まだ誰も大きな怪我は負ってないけど、戦い始めてものの数分でこの状態。せめて、逃げ道だけでも確保しなくちゃ。

「これ、全滅したらリセットできると思う?」
「全滅したときのことなんか考えたくないね!」

わたしの言葉にたじはウインクを返してきた。それから再び、剣を構えてホワイトウルフに斬りかかる。うう、そうだよね!わたしも負けることばかり考えていちゃいけない。そう思った矢先、悲痛な声が響いた。一気に血の気がひいた。

「三橋!大丈夫か!」

ホワイトウルフが廉くんに飛びかかっていた。すぐに浜ちゃんが助けに入ったけれど、廉くんの脇腹からは血が出ている。爪が食い込んだみたいだ。おまけに廉くんは、飛びかかられた時に地面に頭を打って、気を失ってしまっていた。廉くんがいなければ、どの薬がどんな効果かもわからない。つまり、回復ができない。

「れ、廉くん!しっかり!」
「よそ見していていいのかい、お嬢さん」

耳元でお兄さんの声がしたと思ったら、わたしは後ろから押し倒された。湿った地面の土が頬につく。背中に爪が食い込む。身動きが取れず、痛みに悲鳴をあげそうになった。が、背中のホワイトウルフが先に叫んで、途端に体が軽くなる。慌ててそこから離れて、振り返ってみると、ホワイトウルフは矢が刺さって、息が荒くなっていた。

「泉くん!ありがと…ひっ!」

泉くんの方を見てお礼を言った時、泉くんの両足にホワイトウルフが噛み付いていて、わたしは小さな悲鳴をあげた。

「バカなまえ、よそ見すんな…!俺はいいから、自分のこと集中しろ!」

泉くんは矢を刺して両足に噛み付くホワイトウルフを倒したけれど、痛みでうずくまった。きっと、わたしに襲いかかっていたホワイトウルフを倒している間に、やられたのだろう。駆け寄ろうとするわたしの前に、ホワイトウルフが立ちはだかる。後ずさりしようとしたら、後ろにも一匹。泉くんが矢を取り出そうとするけど、痛みに顔を歪めている。と、泉くんの前にたじが飛び出した。

「なまえ、伏せろー!」

たじは剣をぶおんと振り回した。間一髪、わたしは避けたけれど、結構ギリギリで危なかった。

「大丈夫か、なまえ!泉!」
「うん、あ、ありがと…」
「悪ぃ、助かった」
「さすがにこれはやばいぞ、田島!」

廉くんを守るように戦っていた浜ちゃんが叫んだ。浜ちゃんも体のそこらじゅうに引っかかれた傷などがあって、満身創痍という感じだ。逃げるにしても、誰かが廉くんを背負わなければならないし、泉くんも立つのがやっとだ。

「やばくても戦う以外ねーよ!」

たじが飛びかかってきたホワイトウルフを斬りつけながら叫び返す。斬られたホワイトウルフはドサリと他のホワイトウルフに重なって倒れた。気付けば辺りには倒れたホワイトウルフと、それらが流した血の鉄くさい臭いが充満していた。頭がクラクラしてきた。血の匂いのせいか、背中の傷のせいで血が足りなくなってきたなか、それとも酸素が薄くなってきたのかもしれない。もうだいぶ暗闇に目は慣れたけれど、わたしは武器がないので、近付いてくるホワイトウルフ達に松明の炎を向けて応戦していた。これが消えてしまったらわたしは丸腰だ。


ガッシャーンと大きな音がした。何事かと思ってそっちを見ると、浜ちゃんの大きな剣がホワイトウルフに弾き飛ばされて、地面に落ちた音だった。浜ちゃんは自分の両手を見た後、はっとしたように周りを見る。浜ちゃんの周りにはすぐにホワイトウルフが集まって、ジリジリと距離を詰めていた。廉くんを庇うように立つ浜ちゃんに、反撃する手段はない。わたしは松明を向けながら、浜ちゃん達の方に走り出した。たじも走っていくのがちらっと見えた。

「なまえ!浜田の剣だ!」

泉くんが叫んだ。わたしは言われた通り方向転換して、弾き飛ばされた浜ちゃんの剣に向かって走った。自分で色々考える余裕はなかった。洞窟の奥で、キラッと松明の光が反射して光る。あれが浜ちゃんの剣だ。ホワイトウルフ達が浜ちゃん達の方に集まっていたお陰で、なんとか剣まで辿り着けた。

「早く、浜ちゃんにっ…」

剣を持ち上げた右腕に、痛みが、走った。見ると、矢の刺さったホワイトウルフ、つまりあのお兄さんだった。

「愚かな召喚師のお嬢さん、餌は餌らしく、大人しく食べられていればいいんだよ!」

黄色い目がギラギラしている。わたしが一瞬身を引いた隙にホワイトウルフは、腕に食い込んでいた爪を、今度は喉に押し付けてきた。泉くんの放った矢が何本か背中に刺さったけれど、ホワイトウルフはグイグイ体重をかけてくるのを止めない。抵抗して振り回した腕は、逆に噛み付かれてしまい、動けなくなった。

「早く死にな!」
「や、いや…!」

口ではいやと言えても、正直もうやばいと思った。息ができない。目がかすむ。でも死にたくない。どうしたらいいんだろう?



と、そのとき。どこからか、地鳴りのような音が聞こえた。別に地面が揺れている感じはない。わたしにのしかかっていたホワイトウルフも、ピンと耳を立たせた。浜ちゃん達の方も静かになって、余計に音が大きく響く。まさか洞窟が崩れているんじゃ、と思ったけれど、違うことはすぐにわかった。洞窟の奥から大量の水が迫ってくるのが見えたのだ。白い波を立てて、すごいスピードで流れてくる水。わたしの上に乗っていたホワイトウルフは、それに命の危険を感じたのか、わたしから離れて出口へと走り出した。わたしも立ち上がって剣を拾い、走り出そうとしたけれど、辛そうに立ち上がる泉くんが目に入り、慌てて駆け寄った。

「泉くん、大丈夫?!」
「ちょっとやべぇかも…」

肩を貸して、急いで歩き出すけれど、水のスピードには全然敵わない。わたしと泉くんはすぐに水に飲まれ、流されてしまった。

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