奥に進むにつれて、周りは耳に痛いくらい静かになって、自分達の歩く足音だけが響いた。炎の光がゆらゆらと岩壁に揺らめいて、何かが動いているようで怖い。なるべく一塊になって進むわたし達の影は、大きな生き物のようだった。

「どれくらい進んだ?」
「もう、しばらく歩いてるよな」

先頭に立っていた、たじと泉くんが言う。洞窟に入ってから、時計がないから正確にはわからないけれど、もう三時間くらいは経った気がする。

「敵も出てこないって逆に不気味だよね…」
「そ、そうだ ね…」

お互いびくびくして、くっついていたわたしと廉くん。と、その時、わたし達の足音ではない音が、聞こえた。それは何かの唸り声のようだった。

「噂をすればってやつじゃないか…?」
「かかか風だよ、風だって!」
「どんどん大きくなるぞ!」

泉くんがわたしに松明を預け、身構えた。たじと、わたし達の後ろの浜ちゃんも、剣を抜く。ついに松明の光が届く範囲にそれが現れた。

「おっおおお、おおかみ!白いオオカミ!」
「しかもすげぇいるぞ!」

わたしは思わず叫んでしまった。現れたのは白いオオカミで、目だけが黄色に光っている。ぐるると獣っぽい鳴き声は、わたし達を威嚇してるのかもしれない。しかし、オオカミはなかなか襲ってこなかった。戦わずに済むなら、それにこしたことはない。みんな武器を構えて様子を伺う中に、突然、カツンカツンと足音が響いた。わたし達の内の誰のものでもない足音は、洞窟の奥から聞こえる。やがて、一人の男の人が、オオカミの群の中から姿を現した。それは図書館で会ったお兄さんだった。

「やあ、召喚師のお嬢さん」
「あ、あなたは…」
「なんだよなまえ、知り合い?」
「図書館で会った人」

わたしの言葉に、みんなのお兄さんに対する視線が、一気に疑うようなものになった。一方のお兄さんは、相変わらずにこにこしている。

「お嬢さんに一つ言い忘れていたことがあったんだ」
「…何ですか?」
「ここは以前言った通り、精霊が住んでいる洞窟なのだけど、実はそれは昔の話なのさ」
「え?」
「ここにホワイトウルフが住み着いたせいで、精霊はもうここに現れなくなったんだ。ごめんね」

お兄さんはそう言ってまた笑ったけど、今度は人の良さそうな笑顔じゃなくて、ゾッとするような冷たい笑顔だった。わたしはちょっと足が震えるのを感じた。

「だから、そのことを知らずにこの洞窟にやってきた召喚師は、ホワイトウルフ達に食べられて、おしまい。君もそうなるんだよ、お嬢さん」
「うるせーよお前!つまりオレらがオオカミ全部倒せばいい話だろ!」
「随分威勢のいい仲間がいたんだね。でも召喚できない召喚師の仲間なんて、たかが知れてるさ。さあ、僕達はお腹が減ってるんだ、お喋りはこのくらいにしようか」

お兄さんの目が黄色に光って、銀髪から耳がはえて、牙が伸びて。気付いたら、お兄さんはホワイトウルフになっていた。

「さようなら」

獣の口から人の言葉が発せられるのはとても不思議な感じがした。しかし、その言葉を合図にホワイトウルフ達が一斉に襲いかかってきたので、悠長にそんなことを考えている余裕はなくなった。

「三橋!なまえ!松明しっかり持っとけよ!」

たじは叫ぶと、剣を振りかぶってホワイトウルフに切りかかって行った。浜ちゃんもそれに続き、泉くんが弓矢で援護する。廉くんの調合した毒が塗ってある特製の矢は、効果抜群のようだった。でも、ホワイトウルフは数が多く、倒しても倒してもきりがない。戦っているみんなに疲れが見え始めて、わたしは松明を握ったまま、祈るように両手を合わせた。

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