洞窟は、リチェルカから東に行った森の中にあった。二回目のレベルを計った後、準備の為に一度セレーノに戻ったわたし達は、その翌日、洞窟の前までやってきた。入口の前には、図書館で会ったお兄さんが言っていた通り、大きな湖があった。ただ、その水は、その辺り一帯の雰囲気を写したみたいに、濁っている。霧も出ているし、薄暗いし、あのお兄さんに言われていなかったら、絶対にこんなところに精霊がいるとは思わない。

「うお…雰囲気あんな」
「よっしゃー!洞窟探検だ!」
「こら田島!勝手に行くな!」

相変わらず、緊張感のないたじを泉くんが止めた。廉くんなんて、緊張でげっそりしてしまってるのに。でもどうせ入るんだったら、たじみたいに能天気な方が絶対お得かな。

「松明用意できたぞ」
「おーし、今度こそ!洞窟探検!」

浜ちゃんの作った松明をたじが受け取り、真っ先に洞窟に入って行く。懐中電灯があればよかったのに。松明の火なんて風で消えてしまうし、何よりゆらゆら揺れる光は雰囲気があって怖い。たじに続いて入った廉くんと距離が離れてしまわないように、肩に手を置くと、廉くんがビクッとした。つられてわたしもビクッとする。

「ご、ごめん、廉くん…驚かせちゃった?」
「う、あ、だ…ダイジョブ」
「よかった…それにしても、怖いよね…」

そのまま廉くんと、怖さをまぎらわす為に話をしながら歩いていくと、突然たじが振り返った。

「なあ三橋、なまえ!道わかれてる!」
「あ…ほんとだ」
「ちょっと見てこようぜ三橋!アブネーからなまえは待ってろよ?」
「えっちょ、たじ!ひ、一人にしないで…!」

右の道の奥へ走って行ってしまったたじ達に、わたしの声は届かなかった。大きな声を出したので、洞窟の中に響いて、背筋がぞわっとする。泣きそうになったところに、二本目の松明を作っていた為に少し遅れて入ってきていた泉くんと浜ちゃんが追いついてきたので、わたしは思わず二人に抱き付いた。

「うわっ、ちょっ、なまえ?!」
「っ、…田島と三橋は?」
「たじと、廉くんに、置いていかれっ……!……こ、怖かった…」
「田島のやつ、また…!つーかなまえ、顔ひでーぞ」
「!」

泉くんの言葉に、反射的に手で顔を覆った。泣きそうだった顔は、二人に会えた安心で、ぐしゃぐしゃになっていた。慌てて顔を拭いて、へらっと笑って二人を見ると、少し赤くなって顔をそらしていた。ふと、わたしは二人に抱き付いてしまったのだと思い出して、わたしも赤くなった。あまりに怖くて、無意識に抱き付いちゃったけど、今冷静に考えたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「こっち行き止まりだったぞー」

タイミング良く、たじと廉くんが戻ってきた。なんとなく、お互いに目を逸らすわたし達の間には、微妙な空気が流れていたのだ。

「じゃあ、左だな」
「おう!」

そうして、左の道に進み出したわたし達。ところが、先頭に立っていたたじが、みんなより一歩遅れて歩くわたしを気にして、後ろまで来た。

「なんだなまえ、怖ぇの?」
「え、あ、うん、怖いけど…」

今は泉くんと浜ちゃんと並びにくい、とは言うわけにもいかず、適当に濁すわたし。たじは、なまえびびりだなー!とか言って笑った後、急に、わたしの、手を、握っ、た。

「た、たたた、じ?!」
「ゲンミツに、オレが守るって!なまえは精霊のことだけ心配してればいいからさ」

ニカッと笑うたじは、かっこいい。普段下ネタとか言う時とは違って、ほんとに下心がない笑顔って感じだった。わたしはちょっと顔が熱いのを感じながらも、たじの言葉に甘えて、頷いた。

「つーかなまえの手柔らかけー、しのーかより柔らかい!」
「なんっ…!」
「うわっ田島なに手とか繋いでんだよ!」

結局たじはたじだった。たじの発言を聞いて、目を合わせづらいとか言ってられなくなったらしい泉くんによって、わたし達は離された。こっちに来てからずっと思ってたけど、泉くんはたじと廉くんの保護者みたいだ。そんな保護者泉くんがたじをお説教をしているのを聞いていたら、浜ちゃんと目が合った。一瞬どきっとしたけど、浜ちゃんがふにゃんと笑ったので、わたしもつられて、笑った。うわあ、なんか、普段の教室の感じを思い出すなぁ。薄暗い洞窟の中だというのに、なんだか和やかな雰囲気のわたし達だった。

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