図書館は、街の真ん中にあった。街に入ると真っ先に目に付く、巨大な建物が図書館らしい。今まで見たどの図書館よりも大きかった。街が、完全に図書館のために作られているように見える。真っ直ぐに図書館に入ると、中は想像通りすごい大きさで、本の量は気が遠くなる程。円形の造りで、真ん中部分が吹き抜けになっていた。横にも広いけれど縦にも広く、ぱっと見上げた感じ、十階以上はありそうだ。
「この階は主に歴史の本だって」
「とりあえず地図は見とくべきか?」
「武器とか技の本ねーかな!」
「く、くすりの、本…」
浜ちゃん、泉くん、たじ、廉くん。みんな意見はバラバラだ。ちなみに、わたしは、召喚について書いてある本が見たいな。召喚師のくせして、召喚ができないなんて論外だ。
「適当に分かれて見るか」
「とりあえず、三時間後にここ集合でいいかな」
「よっしゃー!行こーぜ三橋!」
廉くんの腕を掴んで、走りだそうとしたたじを、咄嗟に泉くんが止めた。
「なんだよー泉」
「お前らくっつけとくと、絶対途中寝るだろ。田島はこっち」
オドオドしてる廉くんを置いて、たじは泉くんに引きずられて行った。苦笑いで見送るわたしと浜ちゃん。固まっている廉くん。
「廉くん、一緒に二階行ってみる?」
「…!う、うん!」
わたしが声をかけると、廉くんはこくんと頷いた。浜ちゃんは、少し歴史の本を見てみる、と言って一階に残ったので、わたしと廉くんは二人で二階に上がる。本探しなんて途方もないと思ったけれど、普通の図書館と同じでブロックごとにジャンルがあるようで、一応探したい本の塊までは辿り着けそうだ。
「あ、ねえ廉くん!ここ、自然関係みたい!薬草のもあるかも」
「ほ、ほんとだ」
廉くんは一度本棚を見上げて唾を飲んだ後、フラフラと吸い込まれるように本棚に近寄っていった。
「わたし、もうちょっと別のところ探すね!」
「う、ん!」
ふにゃ、と笑って返してくれた廉くんに、わたしも笑って、その場所を離れた。その階には召喚のことについて書かれた本はなさそうだったので、わたしは階を変えた。そうしてずっと召喚の本を探していたら、六階で古くて大きい、それっぽい本を見つけた。棚から出すと、かなりの重みがある。わたしは周りを見回して、人気がないのを確認すると、しゃがみ込んで膝に本を乗せ、開いた。本の内容は、確かに召喚師について書かれていた。まず、何かを召喚する場合、力を貸してくれるように、精霊にお願いしなければいけないらしい。でも稀に、お願いをしていなくても、精霊が強い想いを感じて、それに応えてくれることがある、らしい。わたしのこの前のは、きっとそれだ。小難しい言葉で書いてあって、それだけ読むのにも苦戦したけれど、たぶん簡単に言うとこんな感じだろうと思う。
「精霊とか、ほんとうにファンタジーの世界」
「お嬢さん、召喚師なのかい?」
「へ?」
後ろから声をかけられ、慌てて立ち上がる。床に座り込んで本を見てるなんて、人に見られたくなかったのに。恐る恐る振り返ると、そこにはにこにこした、銀髪のお兄さんが立っていた。
「僕も召喚師なんだ」
「そ、そうなんです、か」
「君は…まだ精霊の力を借りたことが、ないのかい?」
「は、い」
うわ、旅人として駄目、とか思われてるのかな。そんなことを考え恥ずかしくなったけれど、お兄さんは意外にも、ふわっと微笑んだ。
「この街を出てずっと南に行くと、洞窟がある。そこには、精霊が棲んでいるよ」
「え!そ…そうなんですか?」
「ああ。入口の前には大きな湖があるから、きっとすぐにわかるよ」
「あ…ありがとうございます!でも、どうして…?」
「可愛い困ってるお嬢さんを放ってはおけないからね」
「な…」
「なんて、格好つけたことが言いたいけど本当は、優秀な召喚師が増えて、魔王討伐に繋がればいいと思ってるから、かな。お嬢さんも魔王討伐でセレーノに来たんだろう?一緒に頑張ろう、お嬢さん」
またにっこり笑ったお兄さんに、わたしは手を振った。なんだか、すごくいい雰囲気の人だった。やっぱりこの世界の人はいい人ばかりだ。そんなことを考えながらふと時計を見ると、みんなとの約束の時間を過ぎてしまっていた。
「やばっ」
わたしは急いで本を戻すと、一階に向かった。