翌朝。起きると、体が少し痛かった。床で寝たせいだろう。でも、屋根のある場所を提供してもらった上、毛布を一人で一枚使わせてもらったんだから文句は言えない。毛布を丸一枚わたしに譲ってくれた、たじと泉くん、浜ちゃんと廉くんは、二人で一枚なのだ。

「あ、なまえさん…お、おは…」
「あ、廉くんおはよう!他のみんなは?」

どうやらわたしは一番最後だったみたいで、ご飯を炊く鍋の番をしていた廉くん以外、部屋にはいないようだった。

「みんな、外で、運動っ」
「そっか…あ、ごめんね、料理交代するね!廉くんも動いときたいよね!」
「え、う、あ…ありがとう」

廉くんはちょっと驚いたような顔をした後、ふにゃっと笑って、外に出て行った。廉くんはなんだか動物みたいで、見てると癒されると思う。一度鍋の中を確認してから、おかずをさがすために台所をゴソゴソやっていると、卵とソーセージを見つけた。玉子焼きを作って、一緒にソーセージも焼いてしまう。野菜がなかったので、玉子焼きの横にトマトを置いた。ご飯も炊けて、朝らしいお手軽な料理はすぐに出来上がった。

「みんな、ご飯できたよー」

外を覗くと、階段を降りてすぐのところにみんなはいた。運動って、鬼ごっこのことだったらしい。範囲が狭いので、鬼はめまぐるしく変わっていく。朝から元気だ。

「ねえ!ご飯!」
「ん?あ、なまえ!」

夢中になっていたたじが、ようやくこっちに気付いてくれた。腹減ったー!とか言いながら、みんなが戻ってくる。

「おおっうまそー」
「ありがとう!ねえ、マルタさんってどこにいる?」
「あっ、たぶん店の方だ!さっき降りてく音がした!」

お腹の空いているらしいたじは、ソッコー呼んでくる待ってて!と店の方に飛んでいった。先に食べないところが偉い。




呼んできたマルタさんと一緒に朝食を食べて、片付けも済ませると、わたし達は店に降りた。まだ早い時間なので、お客どころか、通りにも人が少ない。市場の方は、この通りよりもいくらか賑やかなようだった。マルタさんは扉にかかっている札をOPENに変えると、武器を見ていたわたし達のところに戻ってきた。

「お前さんら、昨日はいくら稼いだんだ?」

そう言われ、わたし達は今の全財産を見せた。マルタさんはそれを見ると、弓と剣を二本を選んでカウンターに並べる。

「この値段だったら、一人分しか買えねぇな。昼飯分くらいはまけてやる。誰が買う?」
「俺!俺!!」

たじは並んだ剣の内、長い方に飛び付いた。短い方と比べて、宝石のようなものがついていたりと装飾が多い。浜ちゃんが今持ってるやつに似ている。

「何言ってんだ、そっちは金髪の兄ちゃんの剣だ。お前さんはこっち」

マルタさんはたじから長剣を取り上げると、短剣を渡す。たじは剣を裏表交互に見ながら、少しむくれた。

「いーじゃん!デカい方が強そーだもん!」
「あー、そうか。お前さんらは自分の職をわかってないんだったな。お前さんは剣士、あっちの兄ちゃんは魔剣士ってんだ。長い方は魔法剣と言って、剣士には扱えん武器だ」
「えー!浜田、剣士じゃなかったのかよ!」

たじが目を真ん丸にして振り返った。わたし達もびっくりして浜ちゃんを見る。浜ちゃん自身も驚いていた。マルタさんは呆れた顔をして、一つ咳払いをした。

「お前さんら、今日は宿と飯代の確保ができたら、隣街の図書館に行ってこい。ちっとは勉強しねぇと、命がいくつあっても足りねぇぞ」

勉強、という言葉に、わたし達は反射的に嫌な顔をした。でも命に関わることだ。嫌とか言っていられない。今日の予定が決まったわたし達は、たじの短剣だけ買って、お礼を言って店を出た。







今日最初に受けた依頼は、薪割りのお手伝い。少しの人手でいいと言うので、浜ちゃんとたじの二人で向かってもらう。わたしと廉くんがそれを見送っていると、その間に泉くんが依頼人を探してきてくれた。その人の依頼は、家の壁の塗り替えだという。わたし達のような若い旅人には、こういう自分でやるのが面倒なことの依頼が多いみたいだ。実際、ベテランそうな旅人のところには、街の外に出る時の護衛だとか、魔物退治だとかで、すぐに依頼人の方から声をかけにくる。けど、わたし達は自分から行かなきゃ何も仕事をもらえない。まあ、怖い依頼をもらうよりもいいのかな。



「それじゃあ頼んだよ、何かあったら僕は書斎にいるから」
「はーい」

依頼人のお兄さんは、ペンキの缶とハケをわたし達に渡すと、家に戻って行った。わたし達はそれぞれ缶を持って、壁を塗り始める。こういうのって性格が出るもので、廉くんは一番時間をかけて塗っていたし、泉くんはわりと大雑把にやっていた。わたしはと言えば、ムラができてやり直して、また気になってやり直して、を繰り返していた。

なんとか塗り替えが終わり、窓から書斎にいるお兄さんに声をかける。お兄さんは家を見て満足そうに頷くと、ありがとうと言って報酬をくれた。

広場に戻ると、たじと浜ちゃんが待っていた。とりあえず、最初の依頼が終わったら宿をとりに行くことに決めていたのだ。今回の報酬はどっちも少なめだったけど、宿代には足りるし、お昼代もマルタさんがまけてくれたので残っている。

「じゃあ宿とって、早めに昼食って、一つ依頼やったら隣街行くか」
「さんせー!」

わたし達は、宿をとるために二番通りに向かった。




宿も無事にとれて、今日の二つ目の依頼も終わり、わたし達は街を出た。街から出るのは、ナオトくんを助けに行ったとき以来だったので、少し緊張した。林を歩いていると、何度か獣に遭遇したけれど、わりと楽に倒せた。といっても、わたしは結局何もできず、主にたじと泉くんの活躍によって倒したのだけど。たじの新しい剣は、浜ちゃんの使っているものと比べて、格段に切れ味がよかった。と言うか、ゴーレムは切れなかったのでわからなかったけど、浜ちゃんの剣はほとんど物を斬れなくて、仕方なく突き刺したり叩いたりして使っていた。それから泉くんの弓の命中率は、また上がっていた。獣が出てきてから攻撃までの動きも、すっかり板についてきている。そんな感じで、目立った怪我もなく林を抜けたわたし達。廉くんとわたしは、応援しかしていなかった。でも、廉くんは薬を作れるけど、わたしは、召喚が使えなければ、何の役にも立たない。早く召喚を覚えたい。

「おー!見えた見えた!」

ボーっと考え事をしながら歩いていると、前を歩いていたたじが走り出した。顔を上げると、確かに、遠くにぼんやりと、街が見える。たじを追って走り出した廉くんと、その二人に呆れながらも同じく走り出す浜ちゃんと泉くんを見て、わたしも慌てて後を追った。
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