泉くん達が出ていくのを見送ってから、わたしも料理を始めた。材料を見ると野菜中心で、薫製の肉やハムも入っていた。カレーが楽かな、と思ったけどカレー粉がないので、おかずは野菜のスープと肉のサラダに決定。先にお米をといで、それらしい鍋に入れ、火にかける。
「俺なんか手伝うことある?」
「うーん…あ、じゃあお肉切ってもらえる?野菜と一緒にサラダにしようと思って」
「わかった」
イスに座って見ていた浜ちゃんが、わたしの横に立って調理を始める。裁縫なんかもできて器用だなあとは思っていたけど、浜ちゃんは料理も上手かった。わたしが野菜の皮を剥いている間に、浜ちゃんは肉を切り終わっていた。
「わ、浜ちゃん手際いいんだね」
「そうか?まぁ、毎日やってるしな」
浜ちゃんは照れたように笑って、頭をかいた。それから箱をゴソゴソやってキャベツを取り出すと、それを洗って切り始める。サラダと言ったのを聞いて、指示しなくてもやってくれるみたいだ。浜ちゃんに任せておけばサラダは安心だな、と考えたわたしは、スープ作りに集中した。
そのスープの味付けがだいたい終わった頃、浜ちゃんはもうサラダとご飯を盛り付け終わっていた。素晴らしい。主夫だ。ご飯は、不安だったけどわりと上手く炊けていた。
「皿、ここ置いとくな」
「うん、ありがと」
「なぁ、オレも一口味見していい?」
鍋の横にスープ用の深いお皿を並べながら、浜ちゃんが聞いてきた。自分で味見した分にはおいしくできたな、と感じたので、笑顔でそれを了解した。浜ちゃんは嬉しそうに小さいお皿を持ってくると、スープを少しだけ入れて口をつけた。
「おー、うまい!」
「ほんと?よかった!」
浜ちゃんがにっと笑ってくれたので、わたしはほっとして、お皿にスープを注いでいった。そうしてちょうど最後のお皿にスープを注ぎ終わったとき、タイミングを見計らったかのように扉が開いた。
「ただいま!」
「嬢ちゃん、ご苦労さん」
外で一緒になったらしく、泉くん達とマルタさんが入ってきた。
「なんだお前さんら、新婚みてぇじゃねぇか!」
マルタさんは、キッチンに並んで立っていたわたしと浜ちゃんを見て、そう言った。思わずわたしと浜ちゃんは赤くなってしまう。そんなわたし達をよそに、マルタさんは自分の新婚時代を思い出しているのか、懐かしむような優しい表情をしている。
「浜田調子乗んなよっ!」
「うおっ!」
赤くなってぼけっと立っていた浜ちゃんに、たじが横からタックルを食らわせた。浜ちゃんは一瞬ヨロッとしたけど、小柄なたじをなんとか支えて踏ん張った。
「それよりさ、冷める前に飯食おーよ」
「お、オレも…おなか、すいた…」
「おお、そうだったな!じゃあ嬢ちゃんの手料理、頂くとするか!」
わりと、わたしと浜ちゃん半々くらいなんだけど、まあいいか。マルタさんは奥から足りない分のイスを担いでくると、一番に席について、手を合わせた。
「そういえばさ…ホテル、とれなかった…」
「うそ!」
「マジで?!」
賑やかな食事も終わりに近付いてきた頃、泉くんの発言に、わたしと浜ちゃんはほぼ同時に返した。
「マジなんだこれが…」
苦笑いの泉くん。わたしと浜ちゃんもつられるように苦笑いした。笑うしかないというか。シャワーどうこうの前に、野宿ってことになる。
「なんだお前さんら、こんな夕方から宿とろうと思ってたのか!やっぱり初心者だな!宿は昼前には確保しといた方が確実だぞ」
「そーゆーもんかよー」
たじが口を尖らせながら言った。マルタさんはそれを見て笑う。
「ちなみにどこの宿だ?」
「二番通りの白いホテル」
「お、目の付けどころはいいじゃねぇか。あそこは割りと知られてないからな」
「酒場の店員に聞いたんすよ」
泉くんの言葉に納得するマルタさん。二番通りのホテルは、宿と料理屋が一緒になっていて、安くてシャワー付きなのに、旅人にはあまり知られていないらしい。
「な、おっちゃん、泊めてくんない?追加料金払うからさ!」
「ちょ、田島…」
「はは、そうくると思った!この狭いリビングで良きゃ使うといい。毛布は三枚しかねぇぞ」
「マジで!おっちゃんサンキュー!」
たじはハシを持ったままバンザイした。わたし達も慌てて頭を下げる。本当にこの街はいい人ばかりだ…感動した。
「そのかわり明日の朝飯も頼んだぞ、嬢ちゃん」
「はっはい、喜んで!」