しばらく三人で話していると、弁償の話を終えたらしい店員のお兄さんが戻ってきた。
「すごいな、あんた!ほんと助かったよ。さっき割った酒代は、あっちからもらっといたから」
お兄さんは笑って、喧嘩していた二人の方を見た。本当に強かな人だ。
「あ、それとこれ、報酬な」
「どーも」
「まだしばらくはこの街かい?」
「うーん…多分?」
「じゃあ、また何かあったら頼むよ!」
「ど、どーも…あ、そういえばこの街で一番安い宿って、どこっすか?」
「安いのなら、二番通りのホテルだな。ちょっとボロいけど、シャワー付きだし。シャワーなしならもっと安いとこあるけど、付いてた方がいいだろ」
お兄さんはわたしの方を見て言った。わたしはすぐに頷いて答えた。毎日これだけ動くとなると、シャワー付きは最低条件だ。
「二番通りってどこですか?」
「えーと、さっきの広場の、市場と逆側に三本道があってな。右から一番通り、二番通り、三番通りだ。ちなみに今いるここは市場側、中央通りだよ。二番通りにあるホテルは一軒だから間違えないだろうが、白い建物な」
「ありがとうございます!」
わたし達はお兄さんにお礼を言って、酒場を後にした。店の外の人の輪を抜ける時、ギャラリーの人達に、すごいねぇ!なんて声をかけられた。泉くんはちょっと照れていた。
その後、一度広場に戻ったけど、もう今から新たに依頼をこなすのは少しきついかな、という時間になっていた。たじ達を手伝いに行こうにも、おばさんの家までの道のりを覚えていない。そんなわけで、わたし達は武器屋に向かうことにした。
「いらっしゃい…ってああ、お前さんらか」
武器屋には、さっきと違い数人のお客さんがいた。おじさんはカウンターから出てくると、鍵をくれた。
「一回店を出て裏に回れば、家用の玄関がある。中で待ってな」
それだけ言うとおじさんはまたウインクを一つして、カウンターに戻って行った。わたし達は言われた通り、店の裏からおじさんの家にお邪魔させてもらった。玄関は階段を上った2階にあった。1階のどこかと店のカウンター裏が繋がっているみたいで、かすかにおじさんとお客さんの話し声が聞こえてくる。部屋は物が少なく、角に武器を作る為の道具らしいものが置いてあった。棚は奥さんの物だったのか、綺麗な花が彫ってある。そんな感じで部屋の中を眺めていたら、扉の開いた音がした。
「よー、さっきぶりー!稼いできたぞ!」
「あ、たじと廉くん!お疲れさま!」
「なまえさん達も、お、お疲れさま…!」
部屋に入って来たのは、おじさんではなくたじと廉くん。
「どんくらいもらった?」
「結構もらった!なんかあのオバサン、昨日のナオトのお母さんの知り合いだったみてー。だからオレらに頼んだっぽい」
「へー、そうなんだ」
「みんな、野球、すぐにうまくなったよ!」
「そーそー、なんか戦士に育てられてるらしくてさ、みんな超運動神経いいんだって!」
「せ、戦士?!」
「なんか物盗ろうとしたら、子ども達が一斉にとびかかれってママに教育されてるらしーぜ」
たじがにっと笑った。おばさんの態度はそれでだったのか。それにしても、子どもの頃から戦士として育てられてるなんて、すごい世界だ。
「おー待たせたな、お前さんら」
「おっちゃん!」
再び扉が開いて、おじさんが入ってきた。まだ店を閉めた訳ではないようで、下からは物音が聞こえている。きっと信頼している常連さんとかなんだろう。
「そういや、まだ名前も言ってなかったな。俺はマルタってんだ。よろしくな」
おじさん改めマルタさんは、適当にイスを集めて、立ったままのわたし達に勧めた。その後キッチンらしいところに入って行き、しばらくゴソゴソとしてから、箱を持って出てきた。
「材料はここだ。俺はもう一回店に戻るから、適当に使っておいてくれ。あと少しで閉店の時間だからな」
「ありがとうございます、マルタさん」
「おう、美味いの楽しみにしてるぞ」
マルタさんは笑いながら、部屋を出ていった。
「なまえが料理してる間にオレらで宿とって来ようぜ」
「いいな!行こーぜ!」
「あ、誰か一人、手伝って欲しいな…お皿とか、そういうのの用意」
「じゃあオレが残るわ。野球部組は宿頼んだ」
名乗り出てくれたのは浜ちゃん。野球部の3人にヒラヒラと手を振っている。泉くんは浜ちゃんに使われてる感が嫌らしく、少しムッとしたような顔をしてから、扉に手をかけた。
「泉、二番通りな!」
「わかってるっつの!」
「そんな怒んなってー」
だめ押しの浜ちゃんの言葉に、泉くんは振り返ってわざわざ答えると、二番通りって何?と聞いてくるたじと廉くんを引き連れて出て行った。