広場に戻ると、さっきよりだいぶ人が少なくなっていた。それでも数人、リボンを巻いた人が残っていたので、どの人にしようか、とわたし達が相談していると。

「おい!ここに腕の立つ奴いないか?!」

広場に駆け込んで来たのは、黒いエプロンを腰に巻いたお兄さんだった。広場にいた人達の視線がそのお兄さんに集まる。しかし、立候補する人はいない。話が読めず、わたし達も黙って様子を見ていたが、お兄さんは焦っていたらしく、広場で一番旅人らしい格好をしていたわたし達に目をつけた。

「あんた達、旅人だろ?戦い慣れてるだろ?ちょっと来てくれ!」
「や、ちょっと待って下さいよ!オレらホント、まだほとんど戦ってことなくて、」
「ちょっとでも経験があるなら大丈夫だよ!店で旅人の客が酔って喧嘩を始めちまってさ!早く止めてくれないと、店にある酒全部割られちまう!」
「ほ、ほんと無理っす…!」
「大丈夫だって!相手もそんな熟練の奴じゃないし、報酬も弾むよ!」
「う…」
「いいよ浜田、受けよーぜ」

必死に交渉していた浜ちゃんに、泉くんが軽く言った。酒場の店員だったらしいお兄さんは、その言葉を聞くなり笑顔になって、わたし達を引っ張った。この街の人達はどうしてこう強いんだろう。


酒場に着くと、店の周りにはギャラリーが集まっていた。中からはガラスの割れる音や怒鳴り声、机や椅子がガタガタいう音が聞こえている。

「どうしよう、かなり暴れてるみたいだよ泉くん!」
「オレがなんとかするからさ」

にっと笑うと、泉くんはギャラリーの輪に入って行った。すぐ後を店員のお兄さんが追って、その後ろをわたし達が追った。

「ちょっとさ、喧嘩やめなよ」
「うわストレート!」

泉くんは輪の中心まで行くと、喧嘩している二人に聞こえる大声で言った。二人は組み合った状態で動きを止めて、泉くんを睨んだ。

「あ?ガキが酒場になんの用だぁ?」
「だから、喧嘩止めに来たんだって」
「ふざけんなガキ……」

叫びかけた方の人が、急に止まった。泉くんが矢を構えたのだ。

「やめないって言うなら、実力行使だけど。どうする、おっさん?」

泉くんは矢を構えたまま、にやっとしながら喧嘩している二人を見ている。絶対勝てる自信があるみたいだ。

「くっ…テメェみたいなガキの矢なんて当たらねぇよ!」
「返り討ちになるぜ!」

二人が意気込んで言ったのを聞いて、泉くんはぱっと矢を放った。何の前触れもなく飛んできた矢にびびる二人だったが、矢は二人の間に置いてあったビンに当たった。ビンが割れて、酒が飛び散る。

「悪いけど命中率はなかなかだから、オレ。おっさん達、あのビンみたいにされたい?」

泉くんの表情が急に真面目になった。二人は泉くんがかなりの弓の名手だと思ったのか、その表情を見て、それ以上動かなくなる。すかさず店員さんが近付いて押さえ、壊した店と酒をどうしてくれるんだと講義し始めた。ギャラリーからは拍手が起こっている。呆然と見ていたわたしと浜ちゃんは、泉くんに駆け寄った。声をかけようとしたら、余裕の表情をしていた泉くんが急にふにゃっと情けない顔になった。

「緊張で足ガクガクした…上手くいってマジよかった…」

思えば、泉くんは一番バッターでアガっちゃうような人なのだ。酔っ払った大の大人二人の喧嘩を止めるなんて、もちろん泉くんでなくても、ビビるに決まってる。

「泉くんすごい!かっこよかったよ!」
「ほんとだよ!オレ鳥肌立ったって!」
「でもさ、矢も当たるか微妙だったんだよね」
「そうだよ、泉アレすげぇな!昨日なんか矢の準備にも手間取ってたのに!」
「実は今日の朝、庭借りて練習したんだよね、矢射るの。早速役に立ってよかった」

照れ笑いしながら泉くんは弓をしまった。朝わたしが起きたときには普通に部屋にいたから、もっと早く起きてやってたんだろう。浜ちゃんも気づいていなかったらしく、感心している。わたしも早く、召喚できるようにならないと。
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