武器屋を出て歩いていると、市場はすぐに見つかった。たくさんの魚や雑貨が並ぶそこは、今までわたし達の通ってきた道よりずっと活気がある。魚がたくさんで野菜が少ないのは、やっぱり港街だからなのだろう。立ち並ぶ店を見ながら市場を抜けると、広場に出た。

「ここか!」
「確かに人多いな」
「市場で買い物した人とかが溜まる場所なんだね、きっと」

広場も他よりずっと賑やかで、大きな袋や箱を抱えた人達が立ち止まって話したりしていた。

「あ、あの人、赤いリボン、してる」

おずおずと廉くんが指さした先にいる人を見れば、確かにその人は右腕に赤いリボンを巻いていた。目線を上げて顔を見ると、その人は漁師みたいだった。大きな空っぽの箱を持っているから、きっと市場で魚を売ってきたんだろう。誰かと話し込んでその人を少し離れて待っていたら、わたし達の視線に気付いたのか、その人は話を止めてこっちを向いた。武器屋のおじさんほどではないけど、結構いかつい顔の人だ。その人はわたし達の格好を見て旅人だと判断したのか、話していた人に片手を挙げ別れ、わたし達に近寄ってきた。わたし達の方も駆け寄る。

「旅人さんかい?」
「はい!依頼ウケタワマリます!」
「丁度良かったよ。そろそろこっちから声かけようかなと思ってたんでね」

たじの間違った言葉はあっさりスルーされた。泉くんは突っ込みたいのを我慢しているような、むずむずした顔でたじを見ていた。一方気にもとめていない様子の漁師のおじさんは、ついてきな、と言うと、広場を出て海の方に向かった。言われた通りついて行くと、船がたくさん停まっている船着き場についた。おじさんは一隻の船の近くまで歩いて行くと、そこにいた人に何か話してから、わたし達を手招きした。

「依頼は荷物の積み込みの手伝いだ。どれを運ぶとかは一緒にやる船員に聞いてくれ。だいぶ重いが、女の子は大丈夫か?」
「あ、大丈夫です」
「そうか。それじゃ昼頃までに頼むな」
「はい!」

実は、ここに来てから、腕力とかの力が強くなっているのを感じていた。これも戦うためなんだろうか。でも見た目は、筋肉がついた訳でもなく、いらない二の腕の肉なんかが消えた訳でもなく、特に変わった感じはしない。不思議だけど、こっちに来てから不思議なことがありすぎたせいか、深く考えずに受け入れることができた。強くなっているなら、別に文句はないし。







昼頃までになんとか作業を終わらせたわたし達は、戻ってきた漁師のおじさんにお礼のお金をもらった。それが依頼の報酬として高いのか安いのかわからなかったけど、お昼を食べるために入った店のメニューを見た感じ、全員の食事二回分くらいの金額のようだった。お昼を食べた残りの金額では宿には泊まれないようなので、午後からわたし達はもう一度依頼を探しに行った。

「お、あの人リボンしてんぞ」
「あーダメ、他の旅人さんにとられちゃった」

どうやらやっぱり、わたし達と同じ境遇の旅人は多いらしく、みんな宿に泊まるために我先にと依頼を受けている。でもわたし達だって負けていられないのだ。きょろきょろして依頼者を探していると、おばさんがわたし達に近づいてきた。

「ちょっとアンタ達!旅人よね!依頼がなくて暇してるわよね!」
「は、はあ、まあ…」

おばさんの勢いに圧倒されながら、浜ちゃんが答えた。おばさんはわたしの腕をつかむと、マシンガントークを続けながら歩き出した。自然にわたしもついていく形になり、他のみんなも慌ててついてきた。

「今から買い物に行くんだけどね、子どものお守りをしててもらいたかったのに、なかなか旅人がつかまらなくて。それに自分の子ども、ごっつい男なんかに任せたくないだろ?アンタ達くらいの歳なら子どもの相手なんか得意そうだしね。たくさん産んだから喧嘩が絶えなくて本当に疲れるのさ。ま、母親としちゃそれで幸せなんだがね…と、着いたよ、ここがアタシの家だ」

ひたすら話を聞いていたわたし達は、もう家に着いていた。大きめで、新しくはないけどレンガで素敵な雰囲気の家だった。

「さ、上がって上がって!あ、それから物盗ろうなんて思わないことだよ、ウチの子ども達は鋭いんだからね!まあアンタ達を信頼して連れてきたんだ、頼んだよ!それじゃアタシはちょっと遠くに買い物に行ってくるからね、そんなに遅くならずに帰るから、ちゃんと子守りしといておくれよ!」

玄関に立ち尽くしたわたし達にそれだけ言うと、おばさんは壁にかかっていた大きな買い物袋をつかんで家を出ていった。さっき会ったばかりでろくに会話も交わしていないのに信頼してるなんて、すごい人だ。もちろんわたし達は、物を盗ろうなんて気はないけど。

「子どもってどこだ?」
「奥の部屋じゃね?扉ガタガタいってるし」
「子ども部屋、かな」

たじがガチャと扉を開くと、部屋で遊んでいた子ども達の視線が一斉にわたし達に集まった。

「おにーちゃんたち、あそんでくれるひと?」
「ママがイライしたひと?」
「おーそうだ!田島ってゆーんだ!」
「たじま!あそぼ!」

たじは子ども達の輪にすんなりと入っていってしまった。それを見て浜ちゃんとわたしは苦笑いした。きっと精神年齢が同じくらいなんだ。廉くんは子ども達に埋もれるたじを見て、どうしようという感じでオドオドしている。そんな中、泉くんがつぶやいた。

「この依頼さ、5人もいらなくねぇ?」
「え?」
「だからさ、2人くらいここに残して、あとはもう一個依頼もらいに行こーよ、って。とりあえず、こっちは田島いりゃなんとかなりそうじゃん?」

泉くんの言葉に、わたし達は子ども達と戯れるたじを見た。子ども達と戯れるたじを見た。子どもは8人いたけど、たじは見事に全員相手にしている。確かにあと一人くらい、たじのストッパーがいたら十分だろう。…と、思ったのだけど。

「じゃー三橋!一緒に留守番な!」
「おっ?!おお、オ、レ?」
「野球やんの!今日まだ投げてないから、いいだろ?」
「え、う、あ」
「投げないと三橋も感覚忘れるかもしんねぇじゃん!」
「う…うん!」

廉くんはストッパーにはなれそうにないけど、たじ直々のご氏名だし、次の依頼がどんなのかわからない以上、あんまり人数が少なくなるのも困る。それに野球なら、たじと廉くんに任せても大丈夫だろう。

「それじゃ、二人とも頑張ってね!」
「おー!じゃあ終わったら、武器屋のおっちゃんとこな!」
「わかった」

わたしと浜ちゃんと泉くんは、たじと廉くんを残して再び市場の前の広場に向かった。
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