エイリアとの試合も一息ついて、俺達は息抜きに、ナニワランドに来ていた。自由行動なのでバラバラと散っていくメンバーの流れに逆らって、俺はキャラバンに戻る。財布を忘れたんだ。キャラバンの外では古株さんが、お茶を飲みながら休憩していた。俺は古株さんに挨拶をして、自分の座っていた席を探す。確か今日は綱海さんと隣だったから…そうそう、後ろから二列目だ。そう思って席を覗くと、三人掛けの椅子いっぱいに綱海さんが寝ていて、思わずうわぁ、と声が出てしまった。

「…何だ、立向居か」
「つ、綱海さん、何してるんですか?」

俺はエナメルバックから財布を取り出しながら、綱海さんに言った。綱海さんと一緒にキャラバンに乗った、なまえさんという綱海さんの彼女は、さっきみんなと一緒にナニワランドに入って行ったはずだ。当然なまえさんと綱海さんは一緒に回るもんだと思っていた俺は、綱海さんがキャラバンに残っていたことに驚いた。

「見てわかんだろ、寝てんだよ」
「ナニワランドで遊ばないんですか?なまえさん、行ったみたいですよ」

なまえさんの名前を出したときに、綱海さんの眉毛がピクッと動いて、引きつった。

「なまえなんて知らねー」
「え?」

驚いて事情を聞くと、どうやら二人は喧嘩したらしい。それも、理由はとても細やかなことだという。そういえばいつもなら、綱海さんの隣はなまえさんが座るもんなぁと思いながら、俺は綱海さんの愚痴を聞き流していた。と、その時。

「…綱海そんなこと思ってたの」
「なまえさん!」

いつの間にか戻って来ていたなまえさんが、拳をギュッと握ってキャラバンの入り口に立っていた。綱海さんの愚痴を聞いてしまったみたいだ。綱海さんは一瞬ばつの悪そうな顔をしてから、ぷいっと顔を逸らしてしまった。

「おーそうだよ、今のが俺の本音だ!」
「何その態度!」
「ま、まあまあ、お二人とも落ち着いて下さい!」

一層険悪になった二人を慌てて宥める。きっとなまえさんは、綱海さんと仲直りして一緒に回るために戻ってきたんだ。綱海さんだってわかってるはずなのに、意地を張ってしまっただけなんだ。仲直りさせてあげたいのは山々だけど、一体どうしたらいいだろう。睨み合って黙っている二人の間で考えていたら、俺の体が突然なまえさんの方に引っ張られた。

「もういい。わたし、立向居くんと回る!」
「ええぇぇ!」
「っ…、勝手にしろよ!」
「勝手にする!ほら立向居くん行こう!」
「ちょ、ちょっと待って下さい…!」

俺の言葉はあっさりと無視されて、俺はなまえさんに引きずられるようにキャラバンを降りた。




「…なまえさん、綱海さんを呼びに来たんですよね?」
「…そうよ、でもあのバカがわたしの愚痴言ってるの聞いたら、一緒に回る気なんかなくなっちゃった」

俺となまえさんは、何故かジェットコースターの列に並んでいた。なまえさんはちょっと拗ねたような顔で、話す。

「綱海さんも本気で言ってた訳じゃないと、思います」
「でも本音って言ったじゃない」
「それは、綱海さんも意地になってたからで…」
「もういいのよ立向居くん、本当は綱海はわたしのことそんなに好きじゃなかったのよ!」
「そんなことな…」
「二名様ですね〜、お荷物はあちらへどうぞ〜」

俺の言葉は、係員のお姉さんに遮られてしまった。順番が回ってきたのだ。なまえさんはさっさと荷物を置いて、ジェットコースターに乗り込んでいた。そこでふと、自分が絶叫系が苦手だと思い出す。

「あ、あの、俺こういうの苦手で…」
「今さら何言ってるの!大丈夫、エイリアのシュートのがよっぽど怖いわよ」

またも無理矢理腕を掴まれた俺は、なまえさんの隣に乗り込んだ。そこから先は、地獄。




「まだ胃がフワフワする…」
「あはは、立向居くんの叫び声面白かったよ」
「笑えないです…」

ベンチに座ってぐったりしていた俺の頬に、突然冷たい物が当たった。ビクッとして見ると、冷たい物の正体は缶ジュースで、それを持っていたのは綱海さんだった。

「交代だ」

綱海さんは俺の手にジュースを押し付けると、横で呆然としていたなまえさんの手を取って歩き出した。その後の展開が不安で、俺は気持ち悪い体を引きずって、こっそり二人の後を追った。


綱海さんはびっくりハウスの横の木の下まで行くと、なまえさんと向き合った。なまえさんは綱海さんと目を合わさないようにうつ向いていた。綱海さんは照れたようにガシガシと頭をかいてから、あー…と言葉を探すように呟いた。

「なんつーか、その、悪かった」

なまえさんが、ぱっと顔を上げた。驚いたような顔をしている。今度は綱海さんが、視線を逸らした。

「わ…わたしの方こそ、ごめんなさい…」
「いや、俺が悪かったんだ。意地張っちまって」

二人はお互いに謝ってから、ようやく目を合わせて、笑い合った。よかった、これでこそ、いつもの二人だ。ほっとしたら気持ちが悪かったのも少し薄れたような気がした。そうしてその場を離れようと後ろを向いた時に、至近距離にリカさんと一之瀬さんがいて、俺は今日二回目のうわぁ、を言うことになった。

「立向居、覗きなんてアンタ案外悪趣味やん」
「立向居もお年頃だし、二人のラブシーンを見て勉強かい?」
「ちちち違いますよ!俺はただ、」
「お前ら、そんな繁みで何やってんだよ!」
「あ、木暮聞いてや!実は立向居が覗きしててな」
「げー、お前さいていだな!」
「だから、違うんですってば!」騒いでいたせいで、なまえさんと綱海さんにもばれてしまったけど、二人は少し照れ臭そうに笑うだけだった。


それからしばらく、俺は覗きだ覗きだといじられる羽目になってしまった。なまえさんと綱海さんは、一応少し気を使ってくれていたけど。そして俺は、恋の仲立ちというのは不憫な役回りなのだということを学んだのだった。




 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -