たくさん笑った。たくさん泣いた。たくさん喧嘩をした。たくさん嬉しいことを分かち合った。たくさん辛いことを味わった。けれどもやっぱり幸せだった。それがわたし達の中学時代、あのイナズマキャラバンの旅であった。

宇宙人とサッカーで戦うという、あり得ないみたいな経験を一緒にした仲間達は、全てが終わるのと同時に、みんないるべき場所に戻って行った。塔子ちゃんはもっと強くなって、SPフィクサーズと一緒にパパを守ると意気込んでいた。吹雪くんは、悩んでいたたくさんのことが旅の途中で吹っ切れたようで、来年は白恋もフットボールフロンティアを目指そうかなと言っていた。きっともう、北ヶ峰で遭難しそうになることはないだろう。木暮くんは、またあの漫遊寺に帰るのかよ!と言いながら、旅の間ずっと大切に持っていた背番号のないユニフォームを何度か鞄から出して、眺めていた。リカちゃんは、大学は絶対東京の大学を受験するから、ダーリン待っててな!と言っていたけど、わたしは一之瀬くんが、実は俺アメリカの大学を受けたいんだと呟いたのを聞いてしまった。立向居くんは円堂くんと別れるというので泣きそうだったけれど、円堂くんのおじいさんが練習したグラウンドで再び頑張ります、と言っていた。

そしてわたしと綱海は、二人で沖縄に帰った。ノリノリの大海原の生徒達に迎えてもらうと、じわじわと帰ってきた実感が湧いてきた。綱海はすっかりサッカーに夢中になっていたけど、休日にはサーフィンもしていた。

翌年のフットボールフロンティアでは、懐かしい顔ぶれが集まっていた。白恋に陽花戸に、もちろん雷門も。出場はしなかったけれど、木暮くんやリカちゃんも応援に来ていた。わたしも綱海もその年はもう高校生だったので、応援だ。大海原も頑張ったけれど、優勝はやっぱり雷門だった。円堂くんのパワーはやっぱり大きいらしい。




「懐かしいな、そんなこともあったな」
「本当にね。今でも、ドキドキした感じ思い出せるよ」
「早いもんだよなぁ、10年ってさ」

隣に座る綱海が、しみじみと呟く。イナズマキャラバンの旅から10年経って、わたしと綱海は25歳になった。それでもまだお互いが側にいるというのは、考えてみるとなんだかすごいことだ。実は明日、本当に久しぶりに、あの時のメンバーで集まりましょうということになったのだ。企画してくれたのは夏未ちゃんだった。日本中に散らばってしまって、あの時のメンバーの全員と連絡を取り合っているわけではない今、全員に収集をかけられるのは夏未ちゃんくらいかもしれない。そんな訳でわたしと綱海は、東京のホテルに一緒に泊まっていた。いやらしい意味じゃなくて。

「綱海は誰と連絡とってる?」
「円堂と立向居は、たまにメールするな。なまえは?」
「春奈ちゃんとリカちゃんとはよくメールするよ。でも女の子はみんな続いてるかな」
「へー、男は?」
「円堂くんと…吹雪くんとか?」
「お前吹雪とメールしてんのかよ!」
「たまにね。あとは綱海くらいかな」

カチカチと携帯の履歴を見ながら言った。綱海なんかほぼ毎日メールしてるし、お互い沖縄にいるから週に数回はばったりと出くわす。あ、誕生日にもらったメール保護してあった、懐かしいな。土門くんのデコメが意外に可愛かったんだ。塔子ちゃんのはケーキの絵文字があるだけで、ずいぶん男らしかった気がする。誕生日にはキャラバンのメンバーのほとんどがメールをくれて、すごく嬉しかったのを憶えている。

「なあなまえ」
「何?」
「俺ずっと考えてたんだけどな」
「うん」
「俺達さ、結婚しようぜ」

わたしは携帯から顔を上げた。綱海が真剣な顔でこっちを見ていた。

「やっぱこういうの、タイミングが大事だと思ってさ」
「じゃあ、なんで今」
「明日円堂達に会うんなら、そん時に発表してぇじゃん」
「だけどさ…今日だったらもうちょっと別のタイミングでもよかったでしょ」

プロポーズの言葉を、携帯をいじりながら適当な感じで聞いてしまったことに、わたしはとても後悔していた。

「俺そういうのよくわかんねぇから仕方ないだろ。それより返事はどうなんだよ」

ずいっと詰め寄られる。本当に綱海はムードの欠片もないんだから。でもそこがまたわたし達らしいような気もした。正直今までずっと綱海が隣にいたから、この先綱海以外と一緒に生きていくなんて、想像もできないのだ。

「…喜んで」

わたしが言うと、綱海はニッと笑った。それから何か思い出したように、パチンと手を叩く。

「じゃあ、お前も綱海になるんだから、俺のことは条介って呼べよな」
「ええ!ずっと綱海、だったから、なんか恥ずかしいね」
「いいから呼んでみろよ」
「…条介」

思っていたより、その呼び方はすんなりと馴染んだ。条介。そうか、結婚するというのは、わたしが綱海になるってことなのか。改めて考えるとむず痒い話だ。

「なんかプロポーズってもっと緊張するかと思ったけど、そうでもなかったな」
「ほんと、寧ろもっと緊張してほしかったよ」
「ははは、まあ気にすんなよ…あ!」
「こ、今度は何?」
「これこれ」

綱海、じゃなくて条介は、持ってきたキャリーの中をゴソゴソと引っ掻き回して、小さな箱を取り出した。まさか、と思っていたわたしの目の前で、パカッと開かれた箱には、指輪。

「タイミングだ!と思ったらいつでも言えるように、ずっと持ってたんだよな!婚約指輪」
「あ、ありが、と…」
「えーと…もっかい言ってもいいか?なまえ、俺と結婚しよう」

わたしは涙でつっかえながらも、何度も頷いて、うん、と言った。あーあ、明日みんなと会うって言うのに、目が腫れちゃったらどうしよう。まあ、幸せだから、そんなのはどうでもいいか。



 



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