いつものように部活を終えて、帰る時間。突然、バケツをひっくり返したみたいな夕立が降ってきた。グラウンドで綱海が着替え終わるのを待っていたなまえは、慌てて屋根のある部室の扉の下に入った。

「なまえ待たせた…って、うわ!スゲー雨降ってんじゃねーか!」
「うん、いきなり降ってきたの。綱海傘持ってる?」
「いや。予報で降るとか言ってたか?」
「言ってなかったと思う…どうしようね」

二人が並んで空を見上げていると、部室から着替えを終えたキャンが出てきた。

「キャンちゃんお疲れ〜」
「あ、お疲れさま」

キャンはにこっと笑うと、折り畳み傘を取り出した。

「えー、キャンちゃん用意いいね!」
「スゲーな、キャン。今日降るのわかってたのか?」
「ううん、部室に置き傘してたの。二人は?」
「傘なくて帰れないんだ」
「そっか…多分、夕立だから、すぐに止むよ」

キャンは少し申し訳なさそうな顔で手を振って、帰って行った。二人は再び空を見るが、止みそうな気配はない。

「なぁ、しりとりしようぜ」
「え、しりとり?」
「おう!だって暇じゃねえ?」
「そうだね、やろっか。なんかしりとりって懐かしいなぁ」
「だな。じゃあ俺からな!海!」
「最初"り"じゃないの?」
「海!」

変える気はないらしい。なまえは苦笑いしてから、「み」の言葉を考え始めた。

「あ、蜜!」
「"つ"か。つ、つ、釣り!」
「リンゴ!」
「なまえはえーな。ご…ゴーヤ!」
「や、やー…野菜!」
「い、石垣島!」
「石垣島?よく思い付くね」
「だって石垣島だぜ?」
「意味わかんないよ。まあいいや、"ま"だよね。まー…マッチ」
「ち、ち、チャンプルー!」
「なに綱海、沖縄シリーズ?」
「気付いたか!昔よく、そういう自分ルール作ってしりとりやったよな」
「わたしはそんな覚えないけど…る、る、ルーマニア!」
「なまえは国シリーズにすんのか?」
「しないよ!早く、綱海"あ"だよ」
「あ、あー…あ!泡盛!」
「り、り…」

なまえが二回目の「り」を考えていた時、また部室の扉が開いた。反射的に二人が振り返ると、立っていたのは音村だった。

「うわ、すごい雨だな。綱海となまえは雨宿り?」
「そうそう…あ!リズム!」
「は?」

なまえの言葉の意味がわからない音村は、ぽかんとした表情になる。

「今ね、雨が止むまで暇だから、しりとりしてたんだ」
「ああ、そういうこと」
「音村は傘持ってんのか?」
「いや、俺も雨宿りかな」
「じゃあ音村くんも一緒にやろうよ!」
「それいいな!」
「じゃあ、入れてもらおうかな」
「音村は"む"からな」

綱海の言葉に、音村は少しだけ視線をさ迷わせ、考える。

「むー、虫」
「し、シーサー!」
「さ、さ、サイ!」
「い、か…石」
「また"し"かよ!えーと…あ、シークワーサー!」
「綱海こそ、また"さ"じゃない!さ、さ、刺し身!」
「み…味噌」
「はっ、"し"が切れたか、音村!」
「別に"し"攻めしてた訳じゃないけどね」
「いいから綱海、"そ"だよ」
「そ、そ…ソーキそば!」
「ば、バイク!」
「く…草」
「サーターアンダギー!」
「うわ、用意してたって顔」
「"ぎ"なんてある?ぎ、ぎ…あっ、銀行!」
「噂」
「さとうきび!」
「もう、濁点やめてよー…び、び、ビスケット」
「土佐」
「テメー音村!今度こそ"さ"攻めだろ!三回目だぜ!」
「何のことだ?」
「まあいい、実は"さ"、用意してあんだよ!サンゴ礁!」
「沖縄シリーズがんばるね、綱海…う、う、ウシ」
「示唆」
「音村くん早っ」
「つーかシサってどういう意味だ?そんな言葉あんのか?」
「示唆は、ほのめかすって意味さ」
「綱海そんなんで受験大丈夫なのー?」
「うるせーよ!"さ"だろ、さ、さ…あ、あれが残ってんじゃねーか!」
「何?」
「サーフィン!」


「あ…」
「綱海、お前それ…」
「ん、だよ」
「は?…あー!ちょっ、今のナシナシ!」
「駄目!綱海の負けー」
「ちょうど雨もあがったみたいだ」
「ほんとだ!綱海、負けるタイミングいいね」
「ちくしょ、サーフボードにしときゃよかった…」
「まあまあ、綱海の沖縄への愛には誰も勝てないってことはわかったから、元気出しなよ」
「そうだな!」
「なんて切り替えの早い…」
「だって俺、沖縄愛してるからな!」

綱海は笑顔で、水溜まりのできたグラウンドに飛び出した。空は、さっきまでの土砂降りが嘘のように、晴れている。

「…なまえ?」
「沖縄愛してる、だってさ」
「何、拗ねてるの」
「だってわたしにも愛してるなんて言ってくれたことないのに」
「綱海がそんなこと言うタイプかい?」
「今言ったじゃん」
「ほんとに好きな人にって話だよ。アイツああ見えて照れ屋だから言えないんだよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「そ、そっか…ふふ」
(なまえも綱海も単純だなぁ…)



 
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