最近夜にうるさいと近所から苦情がきたから注意しておけと監督に言われた。いや監督が注意してよと思ったけど心にとめておいて、はいと頷く。うるさい時間帯は、いつもわたしが部屋に篭って相手国のビデオの分析などをしている時間で、みんなはお風呂に入っている時間だ。というわけで、わたしはみんなを現行犯で注意すべく、今日はビデオ分析も後回しにして、みんなが入っている浴場の前で待ち伏せをした。

関係者の方々の不思議そうな視線に耐えて待つこと数分、浴場が騒がしくなり始める。暇で弄っていた携帯を閉じて、耳を澄ます。一番よく聞こえてきたのは、残念なことに綱海さんの声だった。まあ想像はできたけどさ。このまま脱衣所に入って注意してやろうかと扉に手をかけた時、急に静かになった。なんでいきなり、と様子を伺っていると、綱海さんが今まで以上の大声を出した。何々、と慌てたけど、よく聞くと何か熱唱している綱海さん。独特の音程とリズムで、なんとなく沖縄の民謡かなと感じた。みんなも綱海さんの歌に合わせてノリ始め、またうるさくなりだしたから大変だ。しかし、さっきは勢いで脱衣所まで入ろうとしたものの、脱衣所からでは迫力に欠けるし、だからって浴場まで入ってしまう度胸もない。でも、誰が喋ってる声か聞き取れてしまうこの声量なら、苦情がきてもおかしくない気がするし、止めなきゃ。監督が怒られて、そしてわたしが怒られるはめになるのだ。意を決しかけた、その時。

「あれ?先輩、何してるんですかぁ?」

扉に手をかけていたわたしの後ろから、可愛い声。しかしわたしは必要以上に驚いて振り返った。

「は、るなちゃん」
「ここって男の子達の浴場ですよね?あっまさか先輩、覗き…」
「ちがーう!」

さっきから不思議な目で見られてはいたけど。はっきり言われると傷付く。わたしのキャラってそんな感じ?

「実は、夜うるさいって近所から苦情がきてるから、注意しろって監督から言われたの。だから見張ってたんだ」
「ああー、確かに、うるさいですね。綱海さん熱唱じゃないですか」
「そうなの、残念なことに」
「そっか、綱海さんだから注意しにくかったんですね?アタシに任せて下さい!」
「え」

何か勘違いした春奈ちゃんは、躊躇なく脱衣所に入って、こらー!と声を張り上げた。一瞬で静まった浴場から、「は、春奈か…?」と鬼道くんの呟きが聞こえた。

「騒ぎすぎです!ご近所から苦情がきてますから、大人しくして下さーい!」

あろうことか、浴場の戸にまで手をかけた春奈ちゃん。磨りガラスからそのシルエットが見えたのか、数人が慌てて押さえにくるのが、こちらもシルエットで見えた。

「わ、わかった、わかったから、開けなくてもいいだろう春奈」
「絶対よ?お兄ちゃん」
「ああ」

春奈ちゃんはこっちに向かって親指を立て、にっこりして戻ってきた。

「もう大丈夫ですね!」
「う、うん、ありがとう」

春奈ちゃん、強い。



みんながお風呂から上がった後。食堂で領収書の整理をしていたわたしのところに、綱海さんが現れた。

「なあ、さっき風呂で…」
「知ってますよ、元々わたしが注意しようとして、躊躇してたら春奈ちゃんが来て手伝ってくれたんです」

わたしがくすくす笑うと、綱海さんは頭をかいた。

「そうなのか。注意したのがお前じゃなくて、ちょっとよかったって思ったんだよ。なんか、女って怖ぇ、っつうか強ぇのな」

嫌に真面目な顔でそんなことを綱海さんが言うもんだから、思わず笑ってしまった。

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