夕方になり天気が怪しくなってきたので、シートを畳んで合宿所に戻った。それからしばらくして雨が降り出し、雷まで鳴りはじめた。と、わたしの携帯がブルブルと震えた。画面を見ると、冬花ちゃん。今は監督と一緒に出掛けている。

「もしもし、冬花ちゃん?どうしたの?」
「あ…あのね。急な大雨と雷で、帰りに乗る予定だった電車が止まっちゃって。だから、今日は適当に泊まることにしたの。明日の朝一で帰るけど、今晩は選手のみんなをよろしくって、お父さんが」

外を見ると、確かに台風みたいになっていて、公共交通機関は止まってもおかしくない。わたしは了解して、簡単に指示をもらってから、電話を切った。

「冬っぺだったのか?なんて?」
「電車が止まっちゃったから、今日泊まるって」
「そっか…」

円堂くんに簡単に説明すると、円堂くんはみんなを集めてそれを伝えてくれた。さすがキャプテン。

「じゃあじゃあ、これ見ませんかっ?」
「ん?」

春奈ちゃんが楽しそうに持ってきたのは、子犬が飼い主の男の子と離れ離れになり、たくさんの障害を乗り越えて幸せになる、感動系の映画のDVD。確か一年前くらいに流行ったものだ。

「息抜きにたくさん泣いて、明日からはもっと頑張りましょう!」
「はっ、ンなもん見るくらいなら俺は寝るぜ」

不動くんが部屋を出ていこうとすると、鬼道くんが引き止めた。

「待て不動。子犬が必死に頑張る姿を見れば、自分も頑張らなければと思うはずだ。DVDのパッケージにも書いてある。見て損はないだろう」
「…け、鬼道くんは妹に甘いねェ。いてやってもいいけど、俺は寝るからな」
「…勝手にしろ」

なるほど、春奈ちゃんの提案だから。鬼道くん、とことん春奈ちゃんが好きなんだなぁ。一悶着済んだところで、みんなソファーに腰をおろす。わたしの隣には、

「楽しみだな!」
「あ、はい」

ドカッと真っ先に綱海さんがやって来て座った。綱海さんも映画とか途中で寝ちゃいそうだな。そんなことを考えていたら、春奈ちゃんが電気を消して、DVD鑑賞会が始まった。



エンディングが近付き、長く辛い旅の末、子犬は飼い主の男の子の家にたどり着く。しかし子犬は玄関の扉を開けられない。力無く、寒さで弱った子犬は、玄関の前に座り込む。そこで一夜を過ごす体力は、子犬にはもう残っていない。気付いてあげて、早く!と、思わずギュッと拳を握ってしまう。その手に、よく日焼けした大きな手が重なり、ビクンと心臓がジャンプした。

「つ、綱海さ、」
「頑張れ、まだ死んだら駄目だ…!」

ドキドキして横を見たら、目を潤ませた綱海さん。めちゃくちゃ感情移入している。手は無意識らしい。わたしも映画に意識を戻した。暖かい家の中で、ベッドに入ろうとしていた男の子が、ふと何かにひかれるように窓に近寄る。部屋の窓から子犬は見えない。男の子は何か腑に落ちないのか首を傾げるが、そのまま窓を閉めようとする。子犬は見慣れた部屋の明かりに向かって、最後の力を振り絞り、弱々しく一声鳴いた。男の子ははっとして、階段を駆け降りる…




「うう、よがっだなぁ、あいづ…」

酷い泣き声は、確かにわたしの真横から聞こえていた。綱海さんは号泣していた。あまりの泣きっぷりに、わたしの数筋流れていた涙は引っ込んでしまったので、わたしはハンカチを綱海さんに貸した。

「ありがどうな…」
「い、いえ…」
「あと、手、ごめんな…なんか寂しくなっちまってさ…」

どうしてこうもドストレートなんだろう。少年のように純粋な綱海さんは、年上なのに可愛いなと思った。ちなみに不動くんも最後まで起きていて、欠伸に見せかけちょっと泣いていた。


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