12月25日、クリスマス。現在時間は23時59分。わたしの大好きな大好きな綱海条介くんはここにはいなくて、携帯も全く反応なしで、わたしは一人で部屋にいる。大学生になってわたしは東京で一人暮らしを始めて、綱海は沖縄に残って、初めてばらばらで過ごすクリスマスは、寂しいだろうとは思ってたけど、ここまでとは。25日の0時0分にメリークリスマスなんてメールを送った自分、バカみたい。無視した条介は、しんじゃえばいいのに。カチ、と時計が音をたてて、クリスマスが過ぎた。萎えきって枯れてた涙が込み上げる。あのバカは、仲間と騒いでわたしのことを忘れているんだろうか。もしくは、別の可愛い女の子を大学で捕まえて、いちゃいちゃしてたりするんだろうか。考えただけでムカムカする。条介に限ってそんなことないってわかってるのに考えちゃう自分が嫌だ、嫌すぎる、しんじゃえばいいのはわたしの方だ。条介何やってんのマジで。寂しくて死んじゃうよ。涙止まんないっつうのバカあああああああああンポーン

「はあ?」

叫び声にまじってなんか聞こえた?大人しくしてみるともう一回、ピンポーンとチャイムが鳴る。うるさいって隣から苦情か、はたまた、もしかするともしかしちゃう?今さら来たってクリスマス過ぎてるから許さないけどわざわざ沖縄から来てくれたんなら死ぬほど嬉しいし条介のことだから到着時間ろくに考えてなくて超走ってきても一分間に合わなかっただとかならまあプレゼントもう一個で許してもいいかな…なんてプレゼント持ってきてくれてる前提?わたしの頭ってば現金ちゃん!

「はーい」
「おう、さっきの叫び声なんだよ」
「うげえー」

なんでなんでなんでなんでなんで!なんでなの!なんで条介じゃないの!しかも隣のイケメン彼氏持ちのギャルっぽい女でもないし!

「なんであきおちゃんなのー」
「文句あんのか」
「ありすぎるわ!このヤンキー!」

そこにいたのは、残念なことに同じ大学で、さらに残念なことに同じアパートの一階に住んでいる不動明王ちゃんだった。ぐるぐる巻いた緑のマフラーに顔を半分埋めて尚憎たらしい顔の不動は、はん、とムカつく笑いでわたしを見下す。

「どうせ同類だと思ってよ」
「はあ?」
「寂しいクリスマス過ごしたんだろ?」
「不動も?」
「まあ俺はバイト帰りだけどな」
「あっそ。不動彼女いなかったっけ」
「先月までな」
「フラれたのかー可哀相に」
「フったんだよバーカ。あいつ無理」
「うわ不動さいてー」
「いいから入れろ寒ぃ」

わたしの返事など当然待たずに、部屋に入ってくる不動。暖房で温めた部屋が寒くなるのはわたしも嫌なので、大人しく受け入れる。

「うわなに、お前の部屋泥棒入ったのかよ」
「これが普通だわ」
「掃除、って言葉知ってるか?」
「うっざ、もうこたつ入んな」
「はん、入るに決まってんだろ、他にいるスペースねえし」
「いちいちムカつくなあ」
「飯ねーの?」
「カップ麺」
「お前クリスマスにそれで悲しくねーのかよ」
「悲しいわバカ!この泣いてた跡が見えないのか!」
「ほんとじゃねーか、うっわブサイク」
「不動うぜえええええ」

惨めすぎる。一人で暗い部屋でクリスマス過ごした後、深夜に不動から悪口雑言を浴びせられるなんて。ああ高校時代に戻りたい。

「綱海から連絡ねーんだろ」
「なんで知ってんの」
「泣いてたから」
「その前から知ってるみたいな口ぶりだったじゃん」
「…まあな」
「なんで?」
「綱海本気でバカすぎて泣くどころか笑えるけど聞きてぇ?」
「当たり前じゃん」
「予約する飛行機の時間間違えた上に、携帯家に忘れて、まだ雲の上だってよ」
「はあ……?誰情報?」
「沖縄の大海原の奴から円堂にメールがきて、鬼道に伝わって、俺まできた」
「円堂、なんで鬼道に…」
「自分の車持ってんのが鬼道くらいだからだろ。空港まで迎え行くんじゃねえの。あと鬼道が俺にメールしてきたのはお前をフォローするためだよ」
「は?」
「オートロックだから俺くらいしか部屋入れねーけど俺バイトだったからな」
「誰かわたしにメールしてよ!」
「クリスマスだぜ?世間は自分に手一杯なんだよ」
「そうだけど…バカああああああ」

条介、まさか本当にそんなバカだったなんて。わたしはショックだ。そして安心した。あと不動にもちょっと感謝。

「そんで不動は急いで来てくれた訳ね」
「急いでねえよ」
「息上がってたでしょ」
「はあ?上がってねえ」
「マフラーで隠してたけどわかったよ」
「自惚れんなブサイク」

ひいい不動のマジ睨みめっちゃ怖い。ほんとにヤンキーだなこいつ…根はいいやつなのに柄悪すぎ。

「飛行機いつ着くのかな」
「明け方だと」
「えええ条介マジバカ!」
「まあ鬼道から連絡来るまでいてやるよ。だから飯作れ」
「仕方ないなあ」
「お前カップ麺出してんじゃねーよ」
「うわ、ばれた」

本当はちゃんと作ろうとしてますよ、ほんの冗談ですよ。コーンスープとかちょっといいお肉とか一応買ったんだよ。サプライズ期待しちゃって恥ずかしー!とか思ったけど、不動も食べてくれるし、大好きな人も雲の上にいるらしいし、なんとか無駄にしないで済みそうだ。


待つ


あくまでも不動じゃなくて綱海夢です、X'mas2010
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -