窓から吹き込む潮風が心地いい。眠いなあと思う気持ちに逆らわずに机に突っ伏せば、ちょんちょんと背中をつつかれた。寝たいのに。わたしは無視して、そのまま目を閉じた。暇な古典の授業は、クラスの半分以上が寝ている。むしろ、真面目に起きている人の方が少ない。微かに聞こえる波の音が子守唄のようで、わたしは再び襲ってきた睡魔に身を任せ、

「なあなあなあ」

任せ、られない。さっきよりも激しく背中をつついてくるのは、後ろの席の綱海条介だ。仕方なく、わたしは上半身を起こし、後ろを向いた。

「なに、綱海」
「古典って暇だよな」
「だから今、寝ようとしてたのに…!」
「寝るより話そうぜ」

にかっと笑う綱海に、はあとため息。

「綱海は前向いてるからいいけどさ、わたしは後ろ向かなきゃいけないじゃん」
「別にいいだろ、机に突っ伏して寝るのとそう変わんねーよ」
「変わるよ、突っ伏せば見えないもん」
「いや見えてるって」

板書を終えた先生がこっちを向いたので、反射的に前を向いた。こっちに意識があるかないかは、大きな差だ。罪悪感とか。

「やっぱり寝る」
「なんでだよー!俺が暇になるだろ!」
「知らないよ!」
「あ、じゃあこうしようぜ、保健室行くって言って抜け出して、屋上でサボり!憧れてたんだよなー俺」
「残念、大海原中の屋上は立ち入り禁止です」
「マジで?!やっぱり漫画みたいにはいかねぇかー」

どうでもいいけど綱海、いちいち声がでかい。さすがにサボりの相談を先生に聞かれるのは気が引ける。わたしが人差し指を立ててちょっと静かにするよう言うと、綱海はまたにかっと笑う。

「内緒話って感じだな!」
「あーもう、静かにしろって言ってんのに。筆談にしよ」

相変わらず声がでかい綱海に呆れてそう提案すると、綱海はいらないプリントを一枚取り出した。裏の白紙の部分にシャーペンを置くも、いざ書くとなると特に言いたいことはなかったのか、そこから手は動かない。ようやく動いたかと思えば、「筆談って雑談しにくいな」の一言。特に返す言葉もなく、ただ頷いた。「お前、なんか話題ねーの」「話題がないなら、無理に話すよりも寝たいんだけど」「いやだ」なんという我が侭野郎だ。「それならわたしじゃなくて、隣の海皇くんと話したら?彼真面目だから、ずっと起きてるよ」書いた後に綱海の顔を見たら、珍しくむっとした顔をしていた。言いたいことがあるなら書けば、とシャーペンを渡すと、すぐに筆を走らせる。そこに書かれた文字に、わたしは一瞬、何も言い返せなくなった。「お前じゃなきゃいやだ」それどういう意味、と書こうとした時、ちょうどチャイムが鳴った。綱海はプリントをくしゃっと丸めると、わたしの手を握って立ち上がった。

「ちょっと綱海、」
「今度は口で言うから、返事聞かせろよな」

ぐいぐいわたしを教室の外へと引っ張る綱海の手から、くしゃくしゃになったプリントを奪い取った。

「あ、捨てといてくれんのか?」
「捨てないでよ、嬉しかったんだから」

必死に皺を伸ばすわたしに、綱海は嬉しそうに笑った。これからは、古典の時間もずっと起きていられそう。




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