沖縄の空は青い。特に今日は、文字通り、雲一つない快晴だ。ストレッチをしていたわたし達大海原中サッカー部員の元に、いつも通りノリノリの監督がやって来て、宣言する。

「今日は天気がいいから、海で特訓だ!」
「いえーい!」

綱海を筆頭に、みんなが跳んだり踊ったりして盛り上がる。わたしは、背中を押してくれていたキャンと顔を見合わせて、笑った。


人の少ない砂浜に来ると、好き勝手はしゃいでいる部員達に監督が集合をかけた。

「今日は砂浜で鬼ごっこだ!」
「いえーい!」
「ただしこれは特訓だからな!必殺技もガンガン使っていけよ!」
「おー!!」
「よし!じゃあ、全員が鬼になった頃を目安に終了な!」

わたし達はみんな、監督の変な提案には慣れっこである。そのテンションのまま、鬼決めじゃんけんをした。最初の鬼は潜だ。潜が10秒数える間に、わたし達は砂浜を走って逃げる。柔らかい砂に足を取られたら、鬼決定だ。

「9、10!」

潜は顔を上げると、一番近くにいた首里に狙いを定めた。

「コイルターン!」

ぐるぐるっと首里の回りを回って、砂埃に紛れてタッチ!そのままニヤッと笑って逃げる。

「うおぉぉぉお!次は俺の鬼だ!」

首里はゴール決められた時みたいに吠えて、ぐるっと辺りを見回す。みんな慌てて逃げるが、広い砂浜に隠れる場所はほとんどなく、一瞬でみんなの位置を把握できる。横長のビーチ、右に来たらキャンが、左に来たら赤嶺が一番近い。首里は迷わず、赤嶺に向かって駆け出す。

「ゲッ俺か!」
「逃がさんぞぉぉお!ちゃぶだいがえし!」

赤嶺を射程距離に捉えた首里は、しゃがんでちゃぶだいがえしをしようとした。が、砂がサラサラで失敗。赤嶺はラッキー!と再び逃げるけれど、首里はそれを許さなかった。

「つなみウォール!」

ばっしゃーんと赤嶺に津波が襲いかかる。ちょっと前にいた宜保と音村も巻き込まれていた。波が去ると、首里は得意そうな顔で赤嶺にタッチした。

「あれは、一回狙われたら逃げらんないね…」
「だな!気合い入れてこーぜ」

わたしの横を走る綱海がニッと笑った。わたしも笑い返す。それから鬼の赤嶺に視線を戻すと、どうやら狙いは音村に定めたようだ。

「ちょっと音村こっちに走ってこないでよ!」
「トゥントゥクトゥントゥク…赤嶺のリズムは読めたよ!」
「キラースライドォォ!」

キャンやわたしや綱海の方に走って来た音村は、ニヤリと笑って言う。そんなものは聞こえていないらしい赤嶺は、豪快に砂浜をスライディングした。

「今だ!」

音村はジャンプでキラースライドを避けた。びっくりしている赤嶺は、そのままキャンに突っ込んだ。キャンも予想外だったようで、小さな悲鳴をあげて倒れる。先に立ち上がった赤嶺は、まあ結果オーライ!と笑うとキャンにタッチした。近くにいたわたし達は一斉に逃げる。今度はみんな同じ方向に向かって逃げた。

「もう、キャン怒った!」

キャンはむくっと起き上がると、キッと音村を睨んだ。音村は逃げながらビクッとする。キャンは近くにいた波留には目もくれず、音村に向かって走った。速い。追い付かれる直前、音村は素早くキャンに向き直った。諦めたのかと思えば、そうでもないらしい。

「スーパースキャン!」

走ってくるキャンを上手く抜き、反対側に逃げる音村。キャンは手を伸ばせばわたしにタッチできたけれど、本当に音村しか狙っていないようで、くるっと方向を変えた。

「フレイムダンス!」

意外とアッサリ炎に捕まった音村に、キャンはゆっくり余裕をもってタッチした。

「残念、音村の鬼だね」

にっこり笑顔を見て、キャン怖いなぁとちょっと思ってしまった。倒れていた音村は立ち上がると、気を取り直して、ちらっとわたしの方を見る。ギクッとして、前を走る綱海のジャージを掴んだ。

「なんだ?」
「いや、音村と目が合っちゃっ…ほら来たー!」

音村はトゥントゥク歌いながら、わたし達の方に走って来た。全力で走り出したわたしの頭を、綱海がぽんぽんと叩く。

「任せろ!」
「へ?」

綱海が立ち止まって、音村と向き合った。まさか身代わりになってくれるのかと思ったけど、違った。

「スピニングカット!」

綱海が放った衝撃波に、音村は足止めを食らった。その間に綱海が戻ってきて、わたしの手を掴んでそこから逃げる。

「ありがとう綱海!」
「おう!」

音村はわたしを諦めて、渡具知をフレイムダンスで捕まえた。渡具知はブレードアタックで波留にタッチする。波留はジグザグスパークで、東江に。そうしてめまぐるしく鬼は変わり、やがて鬼になっていないのは綱海とわたしだけになった。現在鬼は宜保。今まで上手く逃げていたわたし達は、初めて追い詰められていた。綱海の方がわたしより少し足が速いので、宜保はわたしを狙っているみたいだ。

「ノーエスケイプ!」
「うそっ」

宜保の声に反応して、潜と赤嶺が走って来て、宜保の横に立つ。

「三人技なんてセコいよ!」

わたしの言葉はサラッと無視された。潜と赤嶺の作った砂の壁で逃げ場を失ったわたしに宜保がタッチして、鬼交代。もうこうなったら綱海を狙うしかない。と、そこで気が付いた。フォワードのわたしは、シュート技しか持っていないのである。しかも、ファイアトルネードとローズスプラッシュ、ボールがなければ使えない。今度は綱海もわたしを助けてくれる気はないようで、遠くから、走り疲れたのか?と笑って声をかけてくる。疲れたけど、疲れたからこそ、早く鬼ごっこを終わらせる為に、綱海を捕まえなければ。けれどさっきも言った通り、わたしは綱海よりも足が遅いのである。

「なまえ!」

監督の声に振り返ると、サッカーボールがとんできた。投げた張本人の監督を見れば、グッと親指を立てられる。これは頑張れという意味ではなくて、早く綱海を捕まえて終わらせろの意味だ。気付けば、もうすぐ夕方だもんなあ。

「綱海、覚悟!」
「おう来い!…ってお前、なんでボール…」
「ファイアトルネード!」

ボールを蹴り上げ、炎を纏って体を捻り、綱海へ向かって一直線に蹴り落とす。綱海はギリギリそれを避けたけれど、足元にボールが落ちて、体勢を崩した。今だ、と思ったわたしは駆け出し、綱海にタックルした。そのままわたしは、綱海に被さるようにして砂浜に倒れる。綱海がぐえーと苦しそうにうめいたので、慌てて上半身を起こそうとしたけれど、その前に突然世界が反転した。いつの間にか綱海が上になっている。

「つ、綱海?」
「…お前胸柔らかいな」
「変態!退け!」
「無理!」

うっかり、タックルした際に胸が綱海に当たったらしい。そのくらいで発情すんなバカ綱海!とか言いながら必死に手足を動かすけど、綱海は動かない。それどころか、ジリジリ顔を近付けてくる。みんな見てるのわかってんのか、綱海!わたしがせめてもの抵抗で顔を横向けた時、再び綱海がぐえーと言って、わたしの横に倒れた。何事かと起き上がって見れば、古謝と波留が仁王立ちしていた。どうやら古謝のイーグルバスターが綱海に直撃したみたいだ。わたしは倒れたままの綱海の額をタッチした。

「よし!鬼が一巡したから、鬼ごっこ終了だ!」

監督が言えば、みんな歓声をあげた。もうヘトヘトだ。ぞろぞろと砂浜から学校に戻ろうとするわたし達に、まだ倒れている綱海が言う。

「ちょ、誰か、肩貸してくれよ…」
「ちょっとそこで反省してなよ綱海」

ガーンとなっている綱海に手を振って、わたしはみんなの元に走った。みんなの前であんなことをしようとした罰だ。一人ぽつんと砂浜に残された綱海は寂しげでちょっと可愛かった。しっかり反省してくれたら、明日はちゃんと相手してあげよう。



 



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 綱海というより大海原ゆめ
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