最近、朝ごはんを一緒に食べる人数が増えた。みんな仕事がないらしく、ゆっくり起きて来るようになったのだ。その代わり、最近はフィンクスが毎日仕事に出かけている。みんなに均等に割り振られていた仕事が、フィンクスに集中してるみたいだった。理由はよくわからないけど、まあフィンクスはずっと怠けていたので、いい運動かなぁと思う。

それと、今日はクロロが帰ってくる日らしい。何の用事かはよくわからないけど、ずっと遠くまで出かけていたので、クロロに会うのは二週間ぶりくらいだ。朝ごはんを食べ終わりまったりとしていると、携帯をいじっていたシャルが声を上げた。

「あ、メールだ」
「誰から?」
「団長。昼前には着くって」
「ふーん」
「…昼はナマエの手料理が食べたいとか書いてるけど」

シャルが苦笑いしながらメール画面をこっちに向けた。確かに書いてあって、わたしはちょっと照れた。朝はノブナガが作ってくれたので、別に作ること自体は構わないのだけど、わざわざ言われるとちょっと緊張してしまう。

「じゃあ作ろうかな…クロロって何が好き?」
「プリン」
「もうちょっとご飯らしいもので…」
「えー、知らないよ」

シズクの言葉にみんなは頷いた。やっぱり、みんなで一緒にご飯を食べる機会って少ないのかしら?わたしはアジトに匿ってもらってる身なのだから、みんなの好みくらい覚えよう。それで誰かがアジトにいる間はなるべく食事は作ることにしよう。そんなことを思いながら、わたしはキッチンに向かった。食材を探って、フィンクスが仕事帰りに盗ってきたスパゲティの箱を見つける。よし、今日はパスタに決定!







パスタと、その合間合間に作っていたプリンが完成すると、ちょうどクロロが帰ってきた。ナイスタイミング!と思いながら、プリンを冷蔵庫に入れて、パスタをお皿に盛り付ける。それをリビングに運ぼうと思ったとき、バタバタとうるさい足音と一緒に、クロロがキッチンまで走ってきた。少し驚いたわたしと、クロロの目が合う。

「ナマエ…!」
「おかえりなさい、クロロ」

言い終わるのとほぼ同時に、わたしはクロロに抱きしめられた。びっくりして固まっていると、そっと開放されて、再び目線を合わされる。恥ずかしい、きっと今のわたしの顔は真っ赤だわ。

「会いたかった…ナマエ」
「あ、ありがとう」

わたしの手を取り、そこにキスを一つして、クロロはキッチンを出ていった。わたしはしばらく頭が回らなくてぼーっとしていたけど、パスタの香りにはっと我に返った。遅いからとキッチンを覗きに来たシズクに手伝ってもらって、パスタをリビングに運ぶ。クロロはみんなに囲まれて、なにか話していた。多分、今回の仕事?の話かしら。わたしとシズクに気付くと、みんなはばらばらと席に着いた。最近は人数が多いから、ずっとテーブルで食べている。お皿を並べて開いている席を探すと、ノブナガがこっち開いてるぞ、と隣を指した。少しホッとして、ノブナガの横に腰をおろす。反対側の隣はコルで、正面はクロロだった。

「ペペロンチーノか」
「嫌い?」
「いや、好きだ」

クロロはフォークを取ると、優雅な手付きで一口。

「美味いな」
「本当に?よかった」

クロロは本当に美味しそうに食べてくれた。そして、一番に食べ終わった。周りを見るとみんなもあと少しで食べ終わりそうだったので、わたしは席を立つ。

「どうした、ナマエ?まだ残っているぞ。気分でも悪いのか?」

すごい勢いで心配してくれたクロロに、わたしは苦笑いしながら振り返る。

「違うわ、デザートも作ってあるから、持ってくるの」

食べ終わったコルが、手伝うよ、と椅子を降りた。一緒にキッチンに行きプリンを冷蔵庫から出すと、コルはクスクス笑った。

「ナマエ優しいね」
「そ、そんなことないよ」
「ううん、優しいよ。団長きっと喜ぶよ」

プリンを半分ずつお盆に分けて、リビングまで運ぶ。プリンを見た瞬間のクロロの目の輝きに、わたしはそれだけで満足した。

「ナマエ…!これはもしかして、ナマエの手作りのプリンか…?」
「一応…プリンを作るのは初めてだったから、味はわからないけど」
「美味いに決まってるさ」

パスタを出した時よりも生き生きとしたクロロは、プリンを一口食べて、幸せそうな表情をした。思わず、クロロもこんな顔をするんだ、と思ってしまった。何も言ってくれないので、おいしいか聞こうかと思っていたけど、今の彼の表情がそのまま彼の感想だと受け取っておこう。







みんなが食事を終えて、食器を片付ける。パスタもプリンも好評でよかった。嬉しくて鼻歌を歌いながら食器を洗っていたら、キッチンにまたクロロが入って来た。振り返って、声をかける。

「どうかした?」
「いや…いい歌だな」

わたしは照れ笑いして、食器洗いに戻った。しかしずっと無言で、でもずっとそこにいるクロロに、少し居心地の悪さを感じる。ほどなく全部の食器を洗い終わって、わたしはクロロに近付いた。

「やっぱり何かあったんでしょう?」
「…すまなかったな」
「何が?」
「会社の人間に襲われたと聞いた。俺が守ると言ったのに、怖い思いをさせてしまった」
「そんな、大丈夫よ!それにちょっと楽しかったし」
「もう、できるだけナマエの側を離れない」

クロロの真っ直ぐ見つめてくる真剣な目は、綺麗で目をそらせない。

「…ありがとう」

少し照れながらそう言うと、怖いくらい真剣だったクロロの顔が笑顔になった。

「ところで、最近はずっとどこに出掛けてたの?他のみんなも毎日仕事って言っていたけど、盗賊って案外忙しいのね」
「前の仕事の後始末をしていた。他のメンバーもそんなところだな。大体片付いたから、そろそろ皆アジトから引き上げるだろう」
「仕事がない間はみんな何をしてるの?」
「さあな、俺も知らない。集合がかかっていない間は自由行動だからな」
「寂しくなっちゃうのね」
「大きな仕事は半年に一回程だからな」

クロロは苦笑して、残念がるわたしの頭を撫でてくれた。

「みんないつもアジトには残らないの?」
「まあ大体は残らないな。今回は俺は残るが」

ナマエの為に、と付け足して、クロロは格好よく笑う。わたしは少し笑顔を引き吊らせた。キザと言うかナルシストと言うか、クロロのこの性格は見ていて恥ずかしくなってしまう。






リビングに戻ると、みんなそれぞれ自分の好きなことをしてくつろいでいた。わたしはソファーに座ると、横で本を読んでいたパクをじっと見つめる。気付いたパクは、不思議そうに顔を上げた。

「私の顔に何かついてる?」
「え、何も」
「じゃあどうしてそんなに見つめてるの?」

ちょっと困ったような顔のパク。わたしは一瞬黙ってから、口を開く。

「パクはもうアジトを出て行く?」
「え?」
「仕事はもうしばらくないんでしょう?」
「そうね…いつもならアジトには残らないけど、今回は残るつもりでいたわ。ナマエはこのままここで暮らすんでしょ?」

微笑んだパクに、思わず抱きついてしまった。パクは少し驚いてから、笑顔で頭を撫でてくれる。

「あ、オレも残るよ!」
「アタシもそのつもりだったけど」

パクに続いて、シャルとマチもそう言った。今度はわたしが驚いて、顔を上げる。

「なんだ、わたしもだよ」
「こんな何もないアジトに一人じゃ、暇すぎるし危ないだろ」
「ホテルより飯美味いしな!」
「お前らもか。コルとフェイはどうなんだ?」
「ナマエが残るなら、ボクもいようかな」
「ワタシ普段からよくアジト残てるよ」

シズク、ノブナガ、ウボォー、フランクリン、コル、フェイタン、みんなの言葉がすごく嬉しかった。

「みんな残ってくれるなら、寂しくならないわね」
「寂しい思いなんかさせないわ」

パクがわたしの頭をぽんぽん、と撫でて、離れた。本当にパクはお母さんみたいだ。ありがとう、と笑うと、みんなも笑顔を返してくれる。幸せな気分になっていたときに、玄関の方からバタン!と大きな音がした。

「飯!飯くれ!」
「空気読んでよフィンクス」

可哀想なフィンクスは、朝早く仕事に出掛けてやっと帰ってきたのに、シャルに軽蔑の眼差しを向けられた。タイミングが悪すぎる。他のみんなも、複雑そうな表情でフィンクスを見ている。事情が理解できていないフィンクスは、訳がわからないまま、みんなの冷たい視線を受けていた。わたしは苦笑すると、フィンクスの分の昼食を用意するために、リビングを出た。







いつもより真剣なクロロと、わたし








(おまけ)


「フィンクス、これはどういうことだ?」

クロロは玄関前の開けた場所の、無数の穴を指した。フィンクスはゲ、と呟いて目線をそらす。

「ナマエと組み手をしたと聞いたが」
「お、おー。その跡だ」
「ただの組み手でこんな穴になるわけないだろう」
「…なんつーか、ちょっと気合い入ってつい腕回しちまったんだよ…で、でも2回だぜ?」
「回さなくたってお前のパワーなら、当たったら大怪我するに決まってるだろう」
「や、でもナマエ結構動きよかったから普通に避けてたぜ」
「それは結果論だろ?一般人にお前の打撃を見切るのはまず無理だ。それを考えて…」

くどくどとクロロの説教は続いた。フィンクスは言い返すことができず、黙って聞いている。遠くからそれを眺めていたメンバー達は、面白がったり呆れたりしていた。

「フィンクスも馬鹿ね…」
「本当!なんで自分の能力のこと忘れて腕回すかなー」
「ナマエの体に小さい傷がたくさんあったのは、そのせいか…」
「そんなことしたら団長に怒られるに決まってるのに」

厳しい団員達に見守られながら、フィンクスの説教は3時間続いた。
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