オレ、シャルナークは現在アジトで暮らしている。なんでわざわざ不便なアジトなんかに留まっているかというと、団長がとある大会社から盗んできた(?)ナマエって子に興味があるからだ。ナマエがアジトに来て二週間、ずっと気にしてたらしいフェイタンとも和解したみたいで、最近はいつも機嫌がいい。

「ナマエ、いる?」
「いるよー」

ナマエの部屋をノックすると、すぐに彼女が顔を出した。オレを見ると、少し不思議そうな顔をする。

「紅茶淹れるけど、一緒にどう?今アジトにオレとナマエしかいないみたいだし」
「あら、そうなの?じゃあ頂こうかしら」

そう言って笑うと、部屋から出てくるナマエ。今日の服は花柄のワンピース。団長が適当に盗ってきた服を勝手にクローゼットに入れてるらしいけど、似合ってる。団長意外とセンスいいな。そんなどうでもいいことを考えながら、ナマエと一緒に階段を降りた。

「ナマエケーキ好き?」
「好き!買って来たの?」
「パクが出掛ける前に作ってってくれたやつがあるんだよ」
「パクの手作りね!」

彼女は嬉しそうに笑って、ソファーに座った。ナマエはパクによくなついてる。パクもなんかナマエのことは気に入ってるらしく、よく気にかけてる。ていうか、団員はみんなナマエのことが気に入ってるみたいな感じだ。もちろん、オレもだし。普段は仕事ない間はアジトなんか誰も来ないのに、みんなアジトにいるのがその証拠だ。オレはパクのケーキを切り分けながら、クスッと笑う。

「シャルー、ケーキまだ?紅茶、冷めちゃうわ」
「あー、今切ったから、ちょっと待って」

オレがケーキを持っていくと、テーブルの上のカップには紅茶が注がれていた。ナマエの前にケーキを置くと、目をキラキラさせた。やっぱ女の子だな。

「いただきまーす」

オレがソファーに座ったのを見て、ナマエが言った。早速ケーキを一口、紅茶を一口。その動作がすごく優雅で上品で、オレは思わず見惚れてしまった。やっぱりなんだかんだ言っても、ナマエは社長令嬢なんだなぁ、と実感させられる。

「?…シャル食べないの?」
「え?ああ、食べるよ、パクのケーキ美味いし」
「ね!パクって家庭的ー」

早くも最後の一口となったケーキを口に入れると、ナマエは幸せそうな表情をした。パクもこんだけ美味しそうに食べてもらえたら嬉しいだろうな。後で話してやろ。


食べ終わってしまったナマエはオレがケーキを食べてるのを見ながら、思いついたように口を開いた。

「ねぇシャル、今日この後予定ある?」
「別にないけど?」
「じゃあ一緒に買い物に行かない?ずっとアジトにいたら、なんだか出掛けたくなっちゃって」

ナマエの誘いをオレは快諾した。ふと、誘われてすごい嬉しく思ってるオレに気付く。いやいや、ナマエは団長の女だし…まだ団長の、ではないけど。まあとにかくあの団長がべた惚れしちゃった女なんかオレにどうこうできるわけないし、お友達として仲良くする分には問題ないよね?ないない!つーか爽やかでもてるオレがわざわざそんな叶わない恋とかあり得ないから…

「シャル、準備しないの?」
「え、ちょっと待って着替えるから」

いつの間にか小さい鞄を持ってたナマエを見て、オレは一旦部屋に戻った。団長が金渡してたから、多分ナマエも財布とか持ってんだろうけど…やっぱオレが多めに持ってくべきだよな。適当に着てた服を脱いでちゃんとした服を着ながら、自分の財布の中身を思い出す。オレはウボォーとかと違って、普段から財布を持ち歩く人だからね。

念のため金をちょっと足して、リビングに戻る。ナマエはいつもフィンクスが座ってるとこに座って、テレビを見てた。行こうか、と声を掛けようとしたときに、テレビから聞き慣れた企業名が聞こえてきた。どうやらナマエが真剣な顔で見てたのはニュース番組で、ミョウジカンパニーの社長の娘が誘拐されたという内容らしかった。画面にはオレ達が散々荒らした会社の可哀想な映像が流れている。

「街出て大丈夫?ナマエ」
「大丈夫、顔写真は公開されてないみたいだし」

意外にも、いたずらっぽい笑顔で振り返ったナマエ。別に会社とかの心配とかはしていないらしい。やっぱり、まだ散々閉じ込められていた嫌な思い出が強いのかな。ナマエがテレビをブツンと切る音で、オレの思考は中断された。ナマエはソファーから立ち上がってスカートを少し直し、鞄を持った。オレはナマエに笑いかける。

「行こうか?」
「うん!」

ナマエはにっこり笑うと、ふわふわとした足取りで玄関に向かった。

玄関を出ると、ナマエは昼前の眩しい陽射しに目を細めた。アジトから出るの自体が久々だもんな、ナマエは。

「ちょっと待っててナマエ、車回してくるよ」
「あら、車で行くの?」
「歩いて行ったら一番近いコンビニまでも一時間はかかるよ」
「そんなにかかるの!」
「ここ一応アジトだからね、普通にしてたら滅多に人が来ないような場所にあるんだよ」
「じゃあデパートとかまではどのくらいかかるの?」
「車で二時間くらいかな」

ナマエは驚いた顔をした。まあ、ミョウジカンパニーなんて大都会の中心にあるもんな。人気のないアジトの周りをきょろきょろと観察してるナマエをそこに残して、オレは車庫に向かった。もちろん盗ったやつしかない。

車をアジトの前まで回せば、ナマエは壊れたドアノッカーを眺めていた。車に気付いたナマエは、すぐにこっちに走ってくる。ヒールだからあんまり走ったら転びそうだな、ナマエ。

「意外と高級車ね!びっくりした」
「高級なやつ狙って盗ったからね」
「あ、そっか。盗ったやつなのね」

最近ナマエは盗ってきたものへの抵抗がなくなってきた。一般的に言ったらかなり駄目なことだけど、幻影旅団のアジトで暮らすならそんくらい慣れてくれないとね。最初は、元々高級なものに囲まれた暮らしをしてたから、ボロボロのアジトで暮らしていけるのかなと思ってたけど、ナマエは意外と適応力があるし逞しかった。

「二時間ドライブね!わくわくする」
「そ?初めのうちはずっと人気ない林の中だけどね」
「十分楽しそう!林の中なんか通ったことないし。わたし、会社と会社を行き来するくらいしかなかったから、本当はほとんど買い物も行ったことないの」

助手席に座り、ナマエは窓を開けた。車を発進させると風が吹き込む。ナマエの髪がふわっと浮いて綺麗だった。そんなナマエの横顔を見てふと、ナマエに自由を満喫させてあげたいと思った。これからは世界で一番自由なオレ達と一緒に、思う存分自分の好きなことをしたらいいんだ。買い物なんか毎日だって行けるし、勉強や特訓を強要されることもない。好きな時に起きて好きな時に寝る。それがオレ達だ。

「すごく楽しい」

隣のナマエが、窓の外を眺めたまま呟いた言葉に、オレは思わず微笑んだ。ナマエのこと、好きとかじゃなくて、大切だと思った。うん、一番しっくりくる表現。

「よし、デパートまで飛ばすか!」
「うん!」

ぐっとアクセルを踏み込んだ。盗んだ高級車は木の間を突き進み、林を抜ける。一気に開けたそこは山道で、遥か下に街と海が見えた。

「シャル、海が見える!海が近いの?」
「結構山を下りるけど、車ならそう遠くないよ」
「素敵、わたし海も行ったことないんだ」
「もっと暑くなったらみんなで行く?」
「わ、楽しそうね!」

またナマエが笑った。ナマエの笑顔は見てる方も幸せになるような力があるみたいだ。なるべく海の見える道を選びながら、オレ達の車は街に下りていった。



この辺で一番でかい街に着くと、オレ達は早速デパートに向かった。ナマエは、わくわくしてるのを隠しきれない子どもみたいだった。自動ドアをくぐると我慢できなくなったのか、オレの手を掴んで早く行こうと催促する。オレは苦笑いして、ナマエに手を引かれるままに着いて行った。









「はー、楽しかった!」

オレ達はデパートの中を一通り見て回ったので、近くのカフェで休憩している。大量の荷物持ちを覚悟してたけど、ナマエが買ったのは服を少しと本一冊、それに変装用という帽子だけだった。

「いっぱい買っちゃったわ!」
「え、どこが?」
「え、多くない?」

アイスコーヒーの中の氷を鳴らしながらナマエがこっちを見た。女の買い物ってもっとどかどか買い込むもんじゃないの?お金だって十分あるんだし。と、思ったけど、ナマエは買い物にあんまり来たことないんだっけ。遠慮したのかな。

「もっと買ってもよかったんだよ?」
「見てるだけで楽しかったからいいの。必要なものは買えたし」

ナマエは服の入った紙袋を見て、満足そうに笑った。しかしふと窓の方に視線を向け、一気に彼女の顔は青ざめる。

「し、シャル…」
「どうかした?」
「本社の人がっ…!」

窓に背を向けて、買ったばかりの帽子を深くかぶったナマエ。

「本社ってことは、顔知ってるんだ?」
「もちろん、わたしの好きな食べ物まで知ってるわ。小さい頃から側で暮らしてたもの」
「早く店を出よう。絶しながらさっさと車まで戻れば大丈夫」
「うん…」

ナマエは不安気に頷くと、荷物を持って立ち上がった。オレは先に会計をすませると、ナマエから荷物を受け取る。絶をして店を出ると、ナマエはすっとオレの影に隠れた。反対側の道にいるらしい。

「どれ?」
「サラリーマンっぽいスーツの人、今パン屋さんの前にいるわ」

ちらっとパン屋の方に目をやれば、確かに見た目はサラリーマンっぽいけど、かなりの念の使い手らしい男が二人立っていた。その隙のなさが、明らかに周りの一般人とは違うことを物語っている。オレはさりげなくナマエを隠す感じで歩きながら、車が停めてあるデパートを目指した。そう距離はないと少し油断した、その時。

「シャル!」

ナマエの声と空気を切り裂くような音に、考えるより先に体が反応した。ナマエを押して歩道に倒れ込んだオレの上を銃弾が掠めた。飛んできた弾は二発。一発はオレの頭を狙っていたもので、もう一発はナマエの足を狙っていて、今オレのシャツにかすって破ったものだ。流れ弾はオレ達の前を歩いてた男達に当たって、そいつは倒れた。周りが騒然となった。連れ帰れるなら、娘にでも銃を向けるってか。呆れながら、オレはその辺の車から様子を覗いていた野次馬の男を殴って気絶させた。もうデパートまで車を取りに行ってる余裕はない。男を車から引きずり降ろすと、ナマエと荷物を後部座席に押し込んで、一気に車を発進させた。その間にも何発か銃弾は飛んできている。ざわざわとしている中、道路を逆走して、社員達から遠ざかった。追い掛けてくる社員二人をミラーの中に見ながら、細い路地に無理矢理車を突っ込む。そのまま車を乗り捨てて、少し離れてからナマエの念で具現化したバズーカで撃って爆破させた。目眩ましだ。そこからはひたすら走って走って、その場から離れる。ヒールでもナマエは転ばなかったし、それどころかオレのスピードに普通についてきていた。しばらく走り続け、オレの円の範囲に人がいなくなった辺りで足を止める。そこは大通りからだいぶ離れた、海の近くの道のようだった。

「つ、か、れ、たー!」

息を整えながらナマエが言う。ナマエはヒールを脱いで、道の端に座り込んでいた。でもその表情は笑っていて、どっか楽しそうだ。海を眺めながら、独り言みたいにナマエは話し出した。

「怖かったけど、なんだか楽しかったわ。海の近くにも来られたし。でも、シャルには迷惑かけちゃったわね」
「逃げるのには慣れてるし、オレも楽しかったよ」

オレが微笑んで見せれば、ナマエも笑った。実際、ナマエとの大冒険はなかなか楽しかった。すでに夕日が海に沈むような時刻で、オレ達はアジトに帰るために、再び歩き出した。






オレとナマエの街中逃走劇!

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