わたしの名前はナマエ、ナマエ=ミョウジ。ミョウジカンパニーという超超巨大企業の社長の娘で、次期社長候補、だった。そう、過去形なのだ!わたしは一週間前、会社に盗みに入った盗賊さんに、あの牢獄のような床下の部屋から連れ出してもらったのである。それもただの盗賊ではなくて、幻影旅団!テレビや新聞でしょっちゅう見かける、それでも全然正体のわからない、あの幻影旅団に!本社ほどではないとは言え、普通の会社と比べたら精鋭揃いのうちの会社を、楽々と全滅させてしまったのも納得できる。






幻影旅団の団長はクロロ=ルシルフルという人で、驚くほど綺麗な顔をしている。そのうえ並外れた強さと知識を持っていて、しかも優しいところもあったりするのだけど、性格は少し変、だと思う。でも天才となんとかは紙一重ってよく言うし、クロロだって人間ってことよね!すごくくさいセリフとか言うけど、たまにそれにキュンとしてることは秘密だ。


それからいつもわたしを気にかけてくれる、優しいパクノダ。スタイル抜群のパクは、旅団のお母さんって雰囲気だ。記憶を読む能力を持ってることもあってか、みんなパクには頭が上がらないみたい。


いつもアジトにいてテレビを見てるのは、フィンクス。常にジャージ姿の彼は、大抵テレビの前のソファーに陣取っている。口は悪いけど根はいい人だし、気兼ねなく話せる。実はいじられるタイプだっていうのも気付いた。


フィンクスほどではないけど、大抵アジトにいるのは、ウボォーギン。最初の日はわたしがここにいることを反対してたから少し不安だったけど、当のウボォーは何もなかったかのような態度で安心した。


いつも寝る時だけホテルに戻って、それ以外をアジトで過ごしてるのがシャルナーク。アジトで寝たらいいのに、と言ったら、アジトは色々難しい電気機器が使えないから嫌、らしい。シャルは爽やかだし優しいし楽しいけど、オタクなのだ。


マチは料理が上手い。性格はきついけどほんとは照れやで優しくて、すごく可愛い。お姉ちゃんって感じ。たまに不機嫌そうな顔で出掛けるけど、アジトにいる間はよくジャポンの話とかを聞かせてくれる。ジャポンの文化が好きらしい。


同じくジャポンの話となると燃えるのがノブナガ。彼はサムライっていう、ジャポンの伝統的な戦士?らしい。しょっちゅうフィンクスやウボォーと喧嘩したりして騒いでるけど、基本的に祭好きな性格みたいだ。最初の日には食べ損ねたノブナガの手料理は、意外にもおいしい!


そんなノブナガ、フィンクス、ウボォーのストッパー的存在がフランクリン。一緒に騒ぎながらも、どっか見守ってる感のある、お父さんみたいな人だ。なんとなく、フランクリンといると安心する感じ。


安心すると言えば、コルトピもなんとなく側にいるとほっとする。コルの場合は、癒し系って感じなのかな?旅団のぶっ飛んだ常識観にパニックになった時とか、コルに宥めてもらうことが多い。


わたしと一番年が近そうなのは、シズク。あんまり感情が表に出ないし毒舌だけど、優しい。どっか抜けてる感じも可愛い。今度一緒に買い物に行こうっていう話をしてるから、すごく楽しみ!


一番謎なのが、ボノレノフ!話しかけたら頷いたりで返事はくれるのだけど、声を聞いたことがない。でも嫌われてはいないみたいだし、これから仲良くなったらいいかな。


それと結局会ってないヒソカ、って人。クロロとシャルとマチから変態と言われるヒソカとはどんな人なのか、怖いけど知りたかったりする。


そして最後の一人、フェイタン。フェイタンと仲良くなることがここ最近のわたしの目標だったのだけど、まず彼は部屋から出てこない。部屋の前を通ると微かに、悲鳴みたいのが聞こえることがある。みんなは拷問中なのだと言っていた。



「うーん、思いつかない…」
「何がだよ?」
「フェイタンに心を開いてもらう方法」

相変わらず朝からぐうたらとソファーに寝そべっているフィンクスに言えば、はっと鼻で笑われてしまった。今アジトに残ってるのはフィンクスとマチと拷問中のフェイタンで、多分しばらくしたらシャルが来るだろう。クロロは昨日から遠くに出掛けなければいけなかったらしく、今はアジトにいない。

「なんで笑うのよー」
「いや、無理だろお前」
「無理じゃない!」
「でも、大変だと思うけど」

朝ごはんを作ってくれていたマチが、お皿を乗せたお盆を持ってリビングに入って来た。わたしはマチを手伝う為に立ち上がり、フィンクスも体を起こした。人数が少ない時は、ゆったりしてるからソファーで食事する。マチはお皿をローテーブルに並べながら苦笑いした。

「フェイタンもちょっと意地になってるんだよ」
「うーん…」
「つかフェイタン、団長大好きだからな。嫉妬なんじゃねぇ?」
「ええー!そうなの?!」

フィンクスの言葉に、衝撃。確かに、クロロがわたしに好意を持ってくれているのはすごく感じる。でももしそれがフェイタンに嫌われてる理由なのだったら、わたしではどうしようもないじゃないの!

「アホなこと言ってると拷問かけられるよ、フィンクス。あたしはフェイタンに朝食べるか聞いて来るから、ナマエとフィンクスは先食べてな」
「アホなって…え、冗談?!」
「まあ半分冗談だな。でもフェイタンはかなり団長信者な方だと思うぜ?」

マチがリビングから出たのを確認して、フィンクスが笑った。笑えない!わたしは信じたっていうのに!

「お前ほんと騙されやすいな、アホだろ」
「失礼な!」

フィンクスは下品に笑って、マチの作ってくれた朝ごはんに手を伸ばした。少しフィンクスを睨みながら、わたしもスプーンを手に取る。今日の朝ごはんはコーンスープとパンとサラダだった。アジトでの食事当番は、なんとなくのローテーションで行われている。今日の場合は、朝をマチが作ったから、お昼はわたしが作る。フィンクスは絶対自分からはやらないし、彼の料理はあまりおいしくないので、夜もわたしとマチが作ることになると思う。もっとたくさん集合してる時は具体的に担当を決めたりするそうだけど、このくらいの人数ならいつも適当らしい。

フィンクスと二人、黙々と食事を続けていると、マチが降りてきた。少しげっそりとしている。フィンクスはニヤニヤしながら手を止めた。

「お楽しみ中だったか?」
「ああ…昼は食べるってさ」

慣れているマチでもげっそりするほど、フェイタンの拷問というのは凄まじいらしい。それでも普通に食事は食べる辺りはさすがだと思うけど。ふと、ニヤニヤしていたフィンクスが、何か思いついたみたいにわたしの方を見た。

「おい、フェイタン昼食うってよ」
「聞いてたわ」
「ナマエ昼作んだろ?フェイタンの好きなもん作ってやれば」
「あ!なるほど!」

珍しくいいことを言ったフィンクスは、オレって天才だろ!とか言ってくる。適当に流して、わたしが聞く。

「フェイタンの好きな食べ物って、何かしら?」
「あたしは知らないけど」
「……」
「えー!フィンクス知らないで言ったの?」
「うるせーな、多分中華とかだろ!」
「適当すぎでしょ!」






わたし達がギャーギャーやっていると、玄関の開く音がした。尚も騒ぐわたし達を放っておいて、マチが様子を見に行く。少ししてからリビングに入って来たのは、シャルとノブナガだった。仕事を終えてきたノブナガと、ホテルからアジトに向かう途中のシャルは、すぐそこで会って一緒に帰って来たらしい。

「ノブナガお疲れさまー」
「おう。ナマエ達は今頃朝飯か?おっせーな」
「そんなことないわ!ね、フィンクス」
「おー、早いくらいだ」
「生活ぐっだぐだだなお前ら」
「うるさい!」
「ねぇナマエー、オレもいるよー」

ノブナガに対抗する為にわたしがさっきまで言い争っていたフィンクスと共同戦線を張っていたとき、シャルがソファーの後ろから首を絞めてきた。クロロがいなくなってから、シャルのスキンシップはちょっと激しくなった気がする。

「知ってる、今日は早いのね」
「今日は10時までにチェックアウトだったんだよね」
「え、じゃあ自分の家に戻るの?」
「しばらくアジトにいるよ」
「お前、前にアジトじゃノートパソコンしか使えないとか怒ってたじゃねぇか」
「まあなんとか繋げるよ」

とりあえず荷物置いてくるねー、とシャルはソファーを離れてリビングを出た。それを見送ったノブナガがわたし達に視線を戻す。

「そういやフィンクスとナマエは何を騒いでたんだ?」
「あ、それなの!ノブナガ、フェイタンの好きな食べ物知ってる?」
「中華料理とかじゃねぇか?」
「同レベル!」

なんだかんだで、結局お昼ご飯はチャーハンを作ることになった。ちょっと悔しいけど、まあチャーハンなら好き嫌いもなさそうだし。朝ごはんの食器を片付け、そのまま準備をする。毎日朝が遅いからね。ノブナガなんかはすでにお腹が空いてるみたいだったし。





完成したチャーハンをお皿に盛って、リビングに運ぶ。両手が塞がっていたのにドアが閉まっていたのでどうしようかと思っていると、気付いたシャルが開けてくれた。リビングに入ると、何日かぶりに見たフェイタンの姿があった。目が合って、一瞬ぴりっとした雰囲気が漂った。わたしは視線を感じながらも、無言でテーブルにお皿を並べていく。人数が増えたから、大きい方のテーブルだ。並べ終えて、みんなが席に着いて、ついに運命の時が来た。全員が食べながら、こっそりとフェイタンを盗み見ている。フェイタンはスプーンを手に取って、ゆっくりとチャーハンを、一口、食べた!すでにみんなは遠慮なくフェイタンをガン見していた。

「…これ作たのお前か」
「は、はいわたしです」
「…火力弱いよ。もとぽろぽろになてないと美味しくないね」
「火力…?」
「味付けも濃いね。お前チャーハンを甘く見てるよ」
「ご、ごめんなさい…」
「ちょっとフェイタン…!」

思わぬお叱りを受けて、わたしは小さくなる。マチがフェイタンを制止しようと声をかけたけど、フェイタンはそれを手で遮って、わたしを見て続けた。

「もういいね」
「もういいって…?」
「散々、お前がワタシのために色々考えてるて聞かされたよ」
「え…」
「ワタシだて、全員から言われて、まだ意地張るほど餓鬼じゃないよ」
「全員?」
「フィンクスにまで言われるとは思わなかたね。でもそれはお前がそれだけ信頼されてるてこと。ワタシもお前を信じるよ、ナマエ」
「フェイタン…!」

初めて名前で呼ばれ、わたしはじーんとなった。フェイタンは慣れないセリフに照れたのか、またチャーハンを食べ始めた。不味いと言っていたくせに、ちゃんと全部食べてくれた。わたしも泣きながら、スプーンを手に取る。そんなわたしに呆れたマチが、ハンカチを差し出してくれた。冷めたチャーハンは、わたしからしたら美味しくできていた。





みんな食べ終わって、わたしが食器を洗っていると、なんとフェイタンがキッチンに入ってきた。手伝ってくれるのかと思ったら、その辺に積んであったダンボールに座ってしまった。多分ダンボールごと食材を盗んで来たんだろうな、と考えていると、フェイタンが口を開く。

「ワタシに中華料理食べさせたいならもと上手くなるね」
「わたしとしては上手くできたつもりだったんだけど」
「お前全然わかてない。ワタシが教えてやるよ」
「え、ほんとに?」
「その代わりワタシ甘くない。中途半端は許さないね」

フェイタンはニヤリと目を細めると、ダンボールを降りてキッチンを出ていく。わたしは思わず笑顔を引きつらせて、その背中を見送った。






中華料理に厳しいフェイタンと、わたし
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