社員を倒して最上階へと上って来た団員達は、未だに呆然としているマチとフィンクス、頬を染めているクロロ、そして見たことのない少女を見て目を丸くした。

「何があったの…?」

シャルナークが少し声を潜めてマチに尋ねると、ようやく放心状態から戻ってきたマチが答える。

「団長が…壊れたんだ」
「は?」
「もうちょっと詳しくいいかしら、マチ…」
「エターナルソードはどうなったんだ?」

話を聞いていたパクノダとフランクリンも、シャルナークの隣に加わった。その間もクロロはひたすら熱っぽい目で少女を見つめている。少女はクロロの目を正面から見つめ返すこともできず、突然入ってきたたくさんの人達の方を見ることもできず、視線をさ迷わせていた。


マチは一度自分の頭の中で整理してから、一連の出来事を説明した。話を聞いたシャルナーク達は、クロロと少女を交互に見て、さっきまでのマチのような表情をした。その時、少女はとうとう耐えられなくなったのか、遠慮がちにクロロの目を見返した。

「あの…わたしを連れ出してくれるのよね?」

少女の言葉に、クロロはすでに緩んでいた頬をさらに緩ませ、もちろんだと答えた。二人の世界が出来上がっていた為に遠慮していたシャルナークが、今だとばかりに乱入する。

「それなら団長、早くここを出よう。秘書の言ったことがほんとなら、そのうち本社から応援が来るかも」

シャルナークの言葉に頷いたクロロは、再び少女を抱え上げた。自分で歩けると主張する少女を優しく諭し、窓を開く。その行動にぎょっとした少女は、思わずクロロの顔を見た。

「まさか、飛び降りるの?ここは80階よ?!」
「安心しろ、余裕だ」

かっこいい微笑を浮かべたクロロは、窓に足をかけて飛び降りた。少女の悲鳴が遠くなっていくのを聞きながら、シズクは携帯を取り出した。

「ボノとコルに連絡しなきゃ、アジトに向かってって」








マチやフィンクス達の後続組がアジトに到着すると、一番に到着していたクロロと少女がソファーに座っていた。他の団員達が到着したと気付いた少女は、ほっとしたような表情を見せた。クロロにじっと見つめられた状況での沈黙がかなり気まずかったらしい。助けを求めるような少女の視線を受けたのはパクノダで、彼女は小さくため息をつくと、少女に見惚れているクロロの肩を叩いた。

「団長、着替えて来たら?服に血がついてるわよ」

クロロは少し渋った後、名残惜しそうに部屋を出て行った。そうしてようやくまともに話せる状況を作ったところで、パクノダが少女の隣に座る。正面には昨日一部始終を見ていたマチとフィンクスが座り、その後ろに他の団員達が並んだ。その間に帰って来ていたボノレノフとコルトピも、そこに加わる。囲まれて少し緊張した少女に、パクノダは話し始める。

「名前を聞いてもいいかしら?」
「ナマエ…ナマエ=ミョウジ」
「ミョウジ?」
「ナマエ=ミョウジ…ミョウジカンパニーの社長の娘さんだね」

パクノダが聞き返した言葉に、ソファーの背もたれに肘をついたシャルナークが応えた。少女、ナマエはこくんと頷く。

「確か子供は二人って情報だったけど…」
「兄がいるの」
「それで、ナマエはどうして連れ出して欲しかったの?」
「つーか、社長の娘がなんであんなとこに閉じ込められてたんだよ?」

パクノダの質問を受け、フィンクスも言った。パクノダはさりげなくナマエの肩に手を置き、答えを待つ。

「閉じ込められてたのは、わたしがしょっちゅう逃げ出そうとするから。社長は、父はわたしを次期社長にしたがってたから」
「お兄さんがいるのに?」
「兄は…弱くて」
「弱いって…体が?」
「いや、戦うのが」

苦笑しながら言ったナマエの言葉に、団員達は不思議そうな表情をしている。

「なんで社長に強さが関係するの?」
「うちは職業柄、狙われること多いの。ろくに戦えない社長だったら、命がいくつあっても足りなくて。兄は、念が使えなかったんです。それで、兄が駄目ならとわたしが社長候補にされたんだけど、わたし社長なんかなりたくなくて」
「それで逃げようとしてたから、軟禁されたってか」
「そうなの!あの部屋で毎日毎日、経営学を学ばされて、鍛えられて…社長なんてほんっとつまんない!」

話している間に感情的になってきたナマエは、大袈裟な手振りを加えて話し終わった後、ソファーに沈み込む。そっと肩から手を降ろしたパクノダは、団員達に向かって首を振った。ナマエの言葉に嘘はなかった。少しの沈黙の後、マチが声をあげる。

「じゃあ、なんで社長はアンタを本社に置かなかったんだい?本社の方が社員も強いし、自分の目の届く範囲に置いといた方が安心だろ」
「本社は絶対嫌ってわたしが言ったの。唯一聞いてもらえた我が侭なのよ。あそこ要塞みたいで、小さい頃からずっと嫌いなの。あっちにいたら逃げ出すチャンスなんて、まず来ないだろうし。それに、一般向けの会社としてのミョウジカンパニーの本社は実際にあそこなのよ」

マチが納得したような声を出した時、着替えが終わったクロロが降りてきた。シャワーまで浴びてきたらしい彼は、ぴっちりとスーツを着込み、髪もセットし直し、涼しい微笑を浮かべている。団員達に囲まれているナマエを見つけたクロロは、俺もまだほとんど話してないのに!と寄って来た。パクノダは立ち上がって席を開ける。それを合図にしたように、他の団員達も立ち上がった。恐らくこれから、今と同じようなやり取りが繰り返されるのだろうと予想したのだろう。クロロは、気が利くな、なんて言いながら、そんな団員達を見ていた。ナマエはたまたま目が合ったシャルナークに、クロロと二人にしないで欲しいと言うように目で訴えるが、シャルナークは苦笑いを返した。その顔は頑張ってね、という表情で、ナマエの訴えを遠回しに拒否していた。クロロは笑顔でナマエを見ている。

「そういえばまだ、名前を聞いていなかったな」
「ナマエ、です…」
「ナマエ!いい名前だ。俺はクロロ、クロロ=ルシルフルだ」

その後しばらくは団員達の予想した通り、今までのやり取りが繰り返されたのだった














しばらく経って、会話が一段落したのを見計らって、パクノダがコーヒーを持ってきた。ナマエはげっそりしながらも、だいぶクロロに慣れたようだった。礼を言ってコーヒーを受け取ったクロロは、もう一度集まってくれ、と団員達に声をかけた。アジト内で各々好きなことをしていた団員達は、ソファーの側に集まってくる。

「ナマエは見ての通り、これから行くところがない。そこで、エターナルソードの代わりにナマエを盗んできてしまった俺達が、ここに住ませてやるのはどうだろう?」
「はあ?!」

団員達だけでなく、ナマエまで驚きの声を上げた。それから団員の意見は聞かずにクロロが勝手に連れ出した為、俺達という言い方は間違っている。

「当然金も持ってないだろ?」
「も、持ってないけど…いいのかしら?」

ナマエがちらっと団員達を盗み見ると、動揺しながらも異議を唱えようとはしない。が、しかしそんな中、フェイタンが前に出て言う。

「ワタシ反対ね。こいつ団員じゃない。信頼もできないよ」

そう言ったフェイタンに続き、ウボォーも腕を組む。

「確かにな。それに、並の強さじゃここにいたら死ぬぜ?」
「強さなら問題ない。俺がずっと側にいて守る」

クロロが真剣な顔をして言った言葉に、ナマエは少しだけ頬を赤くした。残念なことにそれには気付かなかったクロロは続ける。

「信頼関係は…初対面だから仕方ないことだが、ナマエは俺達を裏切って売ったりするような奴じゃない。俺はわかる」

根拠のないクロロの言葉にフェイタンは納得していなかったが、それ以上逆らうことはできなかった。遠回しに団長命令だと言われているようなものだ。クロロは満足そうに微笑むと、ぽんとナマエの背を押した。

「ということで、今日からナマエは団員という形ではないが、俺達の仲間だ」

一部の団員達から笑顔で拍手され、照れたような笑顔を浮かべるナマエ。フェイタンはまだ認めていないとでも言いたげに、部屋に戻ってしまった。そこでふと、ナマエが声を上げる。

「そういえば、クロロ達はどういう仲間なの?盗賊って言ってたけど…」
「ああ、言ってなかったな。俺達は幻影旅団と言う」
「げっ幻影旅団んん?!」
「え、団長言わずに連れて来たの?」

目を最大にまで真ん丸にし、並んだ団員達を見るナマエ。まさか天下の大盗賊、全員が危険度Aの賞金首の幻影旅団だとは夢にも思わなかったのだろう。ぽかんと口を開けているナマエに、苦笑しているパクノダが手を差し出した。

「私はパクノダ、パクでいいわ。よろしくね」
「あ、よ、よろしく…パク」

幻影旅団と聞いて改めて緊張してしまったナマエが、ぎこちなくパクノダの手を握った。緊張しなくていいのよ、と優しく頭を撫でられ、思わず赤くなる。そのお陰でいくらか緊張が解れたのか、ナマエは他の団員達とも笑顔で挨拶した。最後にコルトピと握手を交わしたところで、クロロが口を挟む。

「団員はあと二人、さっき出てったのがフェイタンで、サボってるのがヒソカだ。あんまりここには帰って来ないと思うが、ヒソカには近付くなよ、いいな?」
「え、なんで…?」

クロロがあまりに念を押すので、ナマエは不思議そうに聞き返した。クロロは無表情で呟く。

「あいつは変態だからだ…」
「へ…?!」
「ほんとほんと、冗談抜きでヒソカは危ないよ」
「近寄んない方が身の為だよ」

シャルナークやマチにまで言われて、ナマエは深く頷いた。それを見てホッとしたような顔をしたクロロは、ナマエの部屋を片付ける為に一度その部屋を出た。ちなみに今団員が集まっているのは、屋敷に入ってすぐのリビングで、無造作に積まれた角材などの中心に、高級そうな丸い絨毯とソファーとテレビが置いてある一角があった。他にも大きめの机(それでも団員全員が座るにはきつそうだが)や冷蔵庫などが置いてあり、その周辺だけ生活臭が漂っている。

ソファーに座ったまま辺りを見回していたナマエの前に、フィンクスがどかっと腰を降ろした。向かい合わせに置いてある四人掛けソファーのフィンクスが座った場所は、テレビに一番く彼のお気に入りの席だ。さ迷わせていた視線を正面に座ったフィンクスに合わせたナマエは、テレビをつけてカチカチとチャンネルを変える様子を見ていた。

「あ、そういや」
「へ?」
「お前念使えんだろ?」

チャンネルをいじるのを止めたフィンクスは、ナマエの方を向いた。

「まあ、一応…」
「強ぇのか?」
「あ、それオレも気になるー」

曖昧に濁したナマエに、フィンクスがさらに聞き、ひょこひょことシャルナークも加わった。興味があるのか、シズクも寄ってくる。ちょうどソファーがいっぱいになり、ナマエは話し出す。

「そんな、幻影旅団と比べたら全然弱いよ」
「何系なの?」
「強化系でしょ!」

シズクの質問に、ナマエが答える前にシャルナークが言った。

「具現化系だよ」
「あっれ、ヒソカの性格分析だと強化系かと思ったのに」

シャルナークの言葉に、フィンクスが少し笑った。シズクも表情は変えないが、確かに、と納得している。訳がわからないナマエは、きょとんとしてそれを見ていた。

「性格分析って?」
「ヒソカが考えた、性格で念の系統当てる方法」
「へー、具現化系はどんななの?」
「確か、神経質で几帳面かな」
「じゃあ強化系は?」
「単純一途」
「ナマエって単純っぽいよねって思ってさ」

ようやく悪く言われていたことに気付いたナマエは、横にいたシャルナークを叩いたが、軽々と避けられてしまう。それをさらに笑われて、また赤くなるのだった。






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