人気のない寂しい土地にぽつんと建っている一件の廃虚。一見するとお化け屋敷のようなそこは現在、幻影旅団のアジトとして使われていた。今日は珍しく、普段は集まらない団員が、一人を除いて勢ぞろいしている。いないのはサボり常習犯のヒソカなので、団員達はもう何も言わない。パイプ椅子や廃材に座っている団員の中心に立っているのは団長のクロロ。マチとパクノダが、一体何事だろうと囁き合っていると、クロロが口を開いた。

「次の獲物が決まった」

クロロは一枚の写真を取り出すと、団員達に見えるように向けた。視線がそこに集まったことを確認して、クロロは続ける。

「これはエターナルソードと言って、世界中で最も美しく、最も強い剣と言われている。最高の職人が自分の命と引き換えに完成させた物だ」

写真に写っている剣は確かに、とても美しい装飾が施されているが、邪魔な装飾は一切されておらず、思わず惹き付けられてしまう魔力のようなものを感じた。

「ミョウジカンパニーというのは、聞いたことがあるな?」

クロロの問い掛けに、団員達は頷いた。代表するようにシャルナークが答える。

「マフィアとか裏の組織から絶大な信頼を得てる武器会社でしょ?表社会でも裏社会でも超有名なでかい会社じゃん」
「そうだ。従業員は全員が各々武器のスペシャリストで、同時に念使いと言われている。あらゆる裏の組織に精通していて、ミョウジカンパニーの恨みを買った組織は翌日には丸々潰されるという噂もある程だ」
「そのミョウジカンパニーが関係あるのか?」
「エターナルソードは世界で一つ、それが現在ミョウジカンパニーに保管されている」

クロロは写真をしまいながら、何ともないことのように言った。血の気の多いウボォーキンやフィンクスやフェイタンはにやりと笑う。

「そんな化け物会社に喧嘩売ろうってんだな?上等じゃねぇか」
「待ってよウボォー、団長、あそこのセキュリティーはさすがに突破が難しくないかしら」

威勢よく言ったウボォーを宥めるように言ったパクノダはクロロに視線を戻し、言う。クロロは穏やかに微笑んでパクノダを見た。

「俺達に普通は通用しない」

その笑顔に安心したのか、パクノダもそうね、と言って微笑んだ。それを見たクロロは、再び表情を引き締め団員達を見回し言う。

「ノブナガ、ウボォー、フランクリンは最初に入ってビビらせてこい。混乱している間に残りでエターナルソードを奪って、適当に暴れてから逃げる。決行は一週間後だ。いいな?」

全員から返事が上がり、クロロは満足気な表情で解散を告げた。ホテルをとっている者はアジトを去り、数人はそのままアジトの部屋に戻って行く。廃虚ではあるが、大きめの屋敷なので部屋の数に問題はない。しばらく団員達の様子を眺めていたクロロもまた、自分用に改装したアジトの一室に戻って行った。








一週間後、相変わらず現れないヒソカを除く旅団メンバーは、路地からミョウジカンパニーの正門の様子を伺っていた。門には二人の警備員がいたが、この二人はそれほど強くはないようだ。ウボォーがちらっとクロロを見ると、クロロは微笑みながら頷いた。

「頼んだぞ」
「よっしゃ、暴れてくるか!」

そう言うが早いか、三人は路地を飛び出した。一瞬で門にいた警備員を倒すと、ウボォーが馬鹿力で門を壊す。警報らしき音が巨大な会社の中から聞こえてきたが、三人にとってそれは、戦いに派手さを加えるBGM程度のものだった。すでに三人はクロロ達から見えない奥へと進んでいたが、まだ会社の建物には入っていないようだ。というのも、大きな音や派手な砂煙が三人の現在地を教えてくれているのだ。目の上に手をかざしてそれを眺めていたシャルナークは、派手に暴れてるなー、と呑気に呟いた。クロロが立ち上がり、残っている団員達に声をかける。

「俺達も行くぞ」
「やっとか!俺も早く暴れてぇぜ!」
「エターナルソードの確保が先だよフィンクス」

シズクは意気込むフィンクスに釘を刺し、デメちゃんを持ってよいしょ、と立ち上がる。

「門の前の死体を吸い取れ!」

吸い込み口を門の方に向ければ、倒れていた警備員達はデメちゃんに収まった。壊された門まで近付くと、奥からたくさんの警備員風の人達が走ってくるのが見える。先に行った三人はもう会社内に入ったらしかった。クロロ率いる後続組は軽々と警備員をなぎ倒し、進んで行く。

「あっけねぇな、ほんとに強いって噂なのか?」
「まだまだ雑魚ね。念使いですらない奴いぱいいたよ」
「シズク、死体吸っとけ」
「はーい」

外にいた警備員を全員倒したした後、シズクは再びデメちゃんを取り出し、死体を始末する。外から来る警察などに備えてボノレノフとコルトピをそこに残し、クロロ達は会社内に入った。入ってすぐのエントランスの壁はところどころ壊れていて、何人かの死体が転がっている。クロロ達はそれらを無視して、エレベーターのボタンを押した。エレベーターを待っている間に、一階の奥へ続いていた廊下からウボォーが戻って来た。

「お、団長!一階は何もなかったぜ。社員の控え室みたいになってたな」
「そうか。ノブナガとフランクリンは?」
「ノブナガは上でフランクリンは地下だ」
「地下は武器の貯蔵庫で、上は工房とか社長室とかがあるはず」

ウボォーの言葉を受けシャルナークが説明して、下調べできなかったのが痛いなぁ、と付け足す。内部の詳しい情報は、厳重にロックされていて得られなかったのだ。クロロは少し考え込み、その間にチーンと音がしてエレベーターが到着した。

「剣は恐らく社長室か…俺は上に向かおう。適当に分かれてくれ。地下に行く奴は、目ぼしい物があったら盗れ」

クロロがそう言ってエレベーターに乗り込むと、マチ、シャルナーク、フィンクス、それにフェイタンが後に続いた。シズクとパクノダとウボォーは、別のエレベーターで地下に向かうことになった。







エレベーターは三十階までしかなかったが、階段はまだまだ上へと続いていた。エレベーターを降りてからは戦わざるを得なかったが、外で戦った警備員よりいくらか強かった。途中で多勢に苦戦していたノブナガと合流し、クロロ達は最上階にあると思われる社長室を目指す。しかし下から上がってくる社員の人数は切りがなく、いちいち足止めさせられる。

「ワタシ残て下の奴ら倒すよ。団長は先に行くね」
「オレも残ろうかな」
「フェイ、シャル、頼んだ」

階段の踊り場に残ったフェイタンとシャルナークは、下から上がって来る社員に向き直った。クロロ達は二人を残し、さらに上へと向かう。下からの追っ手がいなくなった分スムーズに進むことができた為、ようやく階段の終わりが見えた。上りきったところに待ち構えていた警備員を倒すと、クロロは長い廊下に立った。部屋は三つあった。

「どこが当たりだぁ?」
「順番に見てけばいいだろ」
「そうだな」

肩をぐるぐる回しているフィンクスにマチが冷たい視線を向け、クロロが同意した。迷わず一番近くにあった部屋の扉に手をかけるが、鍵がかかっている。クロロはフィンクスに目で合図し、フィンクスは扉を殴って破った。部屋の中はぽつんと机だけが置いてあり、一人の男が座っていた。

「貴方はハロウィンカンパニーの社長か?」
「いや、社長はここにはいらっしゃらない。私は第五秘書だ。お前達は、下で暴れている奴らの仲間か?」
「ああ。幻影旅団と言う」

クロロが穏やかに笑って言うと、秘書と言う男の表情が驚いたものに変わった。

「…何が狙いだ?」
「エターナルソード」
「残念ながら、ここにはない」

男は言い終わると同時に、首筋にナイフをつきつけられていた。話の続きを喋りかけていた男は、ビクッとして口を閉じる。

「嘘は良くない」
「う、嘘じゃない…ここは本社ですらない」

今度はマチ、フィンクスが驚いた表情になった。クロロは眉をひそめて、男にさらに強くナイフを押し付ける。首から一筋の血が流れ、男は表情を歪めた。

「本社はどこだ?」
「言えない…な」
「そうか」

クロロはあっさりと言うと、ナイフを男の首筋から離し、胸に突き刺した。男は声も出さずに机に崩れた。

「…本社ここじゃねぇって」
「なるほど、弱い訳だよ」
「他の社員に吐かせるか…一応他の部屋も見ておこう」

クロロ達は部屋を出て残った二つの部屋を覗いたが、どちらも応接室のようで、特に金目の物は置いていなかった。後に入った部屋を出ようと扉に手をかけた時、クロロの動きが止まった。ガタン、と床から音がしたのだ。フィンクスが音のした辺りまで行き、高級そうなカーペットを剥がすと、そのには扉のようなものがついていた。

「オイ団長、これ…」
「誰かいるの?」

再びガタンと床が揺れ、声が聞こえた。マチとクロロも近付いて、それを見る。

「いるの?ねえ!」
「ああ、いる」
「ちょ、団長…」床下から聞こえる声にクロロが答え、マチはぎょっとしてクロロを見た。そんな声など相手にする気はないと思っていたのだ。

「開けて、お願い!これ外からしか開かないの」

フィンクスとマチがちら、とクロロの顔を伺った。クロロは無言で扉に手をかけ、ゆっくりと開く。中は明るいようだった。まず最初に、クロロがそこを覗いた。かと思ったら、すぐに顔を上げた。何事かとマチとフィンクスも覗き込めば、中は広い空間になっていて、趣味のいい家具などが置かれていた。そして扉の丁度真下辺りに、一人の少女が立っていた。マチとフィンクスがクロロに視線を戻すと、クロロは顔が真っ赤になり、両手を頬に添えている。

「だ、団長…?」
「美しい…」
「はぁ?!」

自分達の頭が乙女なポーズで呟いた言葉に、二人は思わず大声を出した。開いた口が塞がらないという状況を、身を持って体験した。クロロは深呼吸してから、再び床下の部屋を覗いた。はぁ?!というマチとフィンクスの大声だけが聞こえていた少女は、不思議そうな顔で上を見上げていたが、再びクロロが顔を出すと、必死な表情で言った。

「わたしをここから連れ去って!」

その言葉はそのまま、クロロのハートに、矢となって刺さった。クロロはにやけそうになる顔を必死に抑え、部屋に飛び降りた。一連の出来事についていけていないマチとフィンクスは、ただただ呆然とそれを見ている。

見事に床下の部屋へ着地したクロロは、駆け寄って来た少女の手を取り、そこにキスをした。少女は突然のクロロの行動に少し引いたが、クロロは気付いていない。少女と言っても、近くで見るとシズクと同じくらいのようだった。

「しっかり掴まっていてくれ」

手を離すとクロロは少女をお姫さま抱っこした。え、と少女が言うと同時にクロロは大きく跳んで、マチとフィンクスの間に着地する。跳ぶ瞬間にクロロにしがみついていた少女は、そっと応接室の床へと降ろされた。クロロを見て、マチとフィンクスを見て、もう一度クロロに視線を戻す少女。クロロは一度咳払いしてから口を開いた。

「俺は、盗賊だ」
「はあ、」
「盗賊は、欲しい物は自分で奪うんだ」

何が言いたいのか分からない、というふうに答えた少女の目を真っ直ぐに見つめ、クロロは続けた。

「君のハートを奪う」

決まった、という顔をしたクロロを、マチとフィンクスは愕然とした表情で見た。この人は本当に幻影旅団の団長のクロロなのか、普段自分達が見てきた彼と違いすぎる。一方の少女は、一瞬ぽかんとした表情をした後、少しだけ顔を赤くした。




それが、ナマエとクロロの出会いであった。






幻影旅団団長の桃色☆初恋物語

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -