「紅葉、見たくない?」

片手にコーヒーを、もう片手にレジャー雑誌を持ったパパが、あたしとママを見てぽつりと言った。すこし曇って肌寒い土曜日の午後、部活を終えて帰ってきたあたしと、仕事が休みのパパとママは、リビングでゆったりとしていた。

「あら、すてきね!ヒロトくん連れて行ってくれるの?」

ソファーに転がって外国の通販番組を流し見ていたママが、ぴょんと体を起こした。パパは頷いて、また雑誌を眺める。ママは立ち上がってパパの後ろに行って、それを一緒に見はじめた。

「すごい、綺麗ねぇ」
「明日行かないかい?明日は晴れって予報だし」
「それがいいわ。ねえ、ひなちゃんも一緒に見ましょ」

ママが楽しそうに呼んだ。たまに、ママはあたしよりも子供みたいに見えるときがある。あたしがそばに寄っていくと、ママは嬉しそうにあたしの肩を抱き寄せて、ついでにパパも抱き寄せて。なんでかぴったりくっついて、あたし達は雑誌を見た。

「ほら見て、綺麗」
「うん」
「名前、写真で満足してない?」
「そんなことないよ、写真も綺麗だけど、ヒロトくんとひなちゃんと三人で直に見た紅葉は、きっと世界で一番綺麗だもの」

ママは、こんなことをいつも平気で言っちゃうのだ。あたしは思っていても、恥ずかしくて口にできない。ママと同じく、ムズムズするような台詞が得意なパパは、そうだねと笑った。あたしも大きくなったら、ああなるかな。

「ひなちゃん、明日は一緒にお弁当を作りましょうか」
「あたしにできるかな」
「大丈夫、教えてあげるから」
「それは楽しみだな」

パパの大きな手が、あたしの頭を撫でる。ちょっと恥ずかしいけど、やっぱりどうしようもなく大好きな、自慢のパパとママ。あたしが大きくなったら、とびきりの言葉で二人にありがとうの気持ちを伝えたいな。きっとあたしにも、言えるはず。



秋が唄う

thanx.g
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