※男主人公



秋が円堂のことを好きなことなんて、雷門中やイナズマジャパンの誰もが気付いていたし、もちろん俺も知っていた。おまけに、世界大会のときに秋が一之瀬からプロポーズみたいなことを言われていたのも、俺は知っていた。それでも俺はずっと秋が好きだった。一途で料理が上手くて、いつも一生懸命な努力家で、困っている人は放って置けない世話焼きで、ずっと俺達を支えてくれた秋が好きだった。

高校は、サッカー部があまり強くないところに進んだからか、雷門の仲間とは被らなかった。秋とも違う高校で、メールでまたサッカー部のマネージャーになったことを聞いただけで、あまり会う機会はなかった。普通に秋以外の子と付き合ったりもした。それでも女々しいことに、俺は秋を忘れられなかった。秋の笑顔よりも元気が出るものなんて、なかった。

体育教師を目指して進学した教育大学で、驚いたことに俺は秋と再会した。秋も同じ大学に進んでいたのだ。秋は英語の先生になりたいらしい。お互いに頑張ろうね、と笑った秋は昔のままで、ほっとした。秋はまたアメリカに留学とかして、俺もそれなりに頑張って単位を取って、無事二人とも教員免許を取った。大学ではたまに一緒に昼食を食べたりするような仲だったので、卒業してからもそんな関係が続けば、なんて思った。

大学を卒業して、俺は晴れて雷門中の体育の先生になった。そしてなんと秋も、雷門中の英語の先生になった。俺達は大学のときより頻繁に顔を合わせるようになった。仕事帰りに食事に行ったりもした。なんだかんだで俺達の微妙な関係は、だらだらと続いてしまっている。これは、よくない。俺の秋への気持ちは中学から変わっていない。俺は告白を決意して、秋を食事に誘った。






「あ、あのさ、秋」
「ん?」

何度か来たレストランで、食事も一段落した頃、俺は切り出した。秋が笑顔でこっちを見た。心臓がどきん、として、緊張が増す。

「秋って、今でも円堂のこと、」
「円堂くん?」

何で円堂のことなんか聞くんだ、俺。すごく前の話だって言うのに。

「私、高校のときに円堂くんにはフラれたの。サッカーに集中したいからって。円堂くんらしいよね」
「え、そうなの」
「うん」
「あー…ごめん」
「ううん、昔の話だもの」

うお、最悪。こんな話のあとに、好きだなんて言えない。本当に、円堂の話題出した俺の阿呆。秋も苦笑いだ。

「でも私、円堂くんよりも好きになれる人、なかなかいなくて」
「うん」
「だけどね、大学のとき、ちょっと気になる人ができたの。優しいし、少し照れ屋だけど一生懸命だし、一緒にいて楽しいなって思えた」
「…うん」
「私が留学に行くときもすごく応援してくれたし、辛いときに一緒にいてくれたし、やっぱりこういうの好きって言うのかなって思って」

秋は話しながら楽しそうに笑った。昔より大人っぽくなったけど、相変わらず元気をくれる笑顔。俺は秋の目を見たまま頷いて、続きを促した。今日は俺がいろいろ話すはずが、秋の話を聞く側になってしまった。

「円堂くんは好きだったけど、憧れも大きかったのよね。フットボールフロンティアで優勝したりして、弱小サッカー部だった頃に比べて遠く感じてたところもあったんだ。だけどその人は本当に、隣を歩いてるって感じれたの。だから、惹かれたのかな」
「そ、か…」
「その人ね、今は体育の先生をしてるのよ」

コップの水をゆるゆる掻き混ぜながら話していた秋が、顔を上げた。目が合う。視線が外せない。

「ちょっと自意識過剰かもしれないんだけど、その人は私のこと好いてくれてると思うの。…どうかな」
「あー、えっと…」

ここまでしてもらって、言えなかったら男じゃない。俺は咳ばらいして、姿勢を正してから、もう一度秋の目を真っ直ぐ見た。秋は真剣な顔をしている。

「好き、です」

真剣な顔を崩して、秋がふんわりと笑った。

「私も、好きです」

今までで一番綺麗な笑顔だと思った。秋はちょっと泣いていた。こんなにお膳立てしてもらった告白でも、感動してくれたのだろうか。俺は手を伸ばしてその涙を拭った。秋は驚いた後、恥ずかしそうに少し顔を赤らめた。

「あのさ、こんなこと言うのって気が早いかもしれないんだけど、」
「うん」
「俺、ずっと秋のそばで、秋の笑顔を見てたいん、だ」
「う、ん」
「泣くなよ、笑って、秋」
「笑って、る」

涙を零しながらも、秋は微笑んだ。

「俺が秋を、幸せに、したい」
「ありが、と…」
「結婚、して下さい」

出会ってからの時間を考えたら随分時間がかかったけど、俺達に付き合う期間はなかった。いきなり結婚の話なんて、どうかしてる。でも秋は、口元を押さえて、目を真ん丸にして、もっと泣いた。落ち着いてから秋はまた、笑ってくれた。

「幸せに、して下さい」

俺は秋の隣を歩くよ。秋の笑顔がすぐに見れて、秋の手を握ることができる距離で、一緒に歩いていこう。秋の笑顔は俺が守る。絶対に幸せにする。俺は、誰よりも秋が好きで、誰よりも秋を大切にできる自信がある。とりあえず、給料三ヶ月分、貯めようと決意した。





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