くねくねとイルミの部屋に戻る道中、ナマエは道を覚えようと必死だった。ぜひまたキルアの部屋に行きたいが、道がわからなくては行けない。お風呂を右、古い大きな扉の部屋を左、と覚えながら、ナマエはふと、気付いた。

「イルミさん、ここさっき通りませんでしたか?」
「通ったよ」
「え、じゃあなんで…!」
「なんかナマエが道覚えようとしてたから、惑わそうと思って」

ばれちゃったから普通に戻ろ、なんて平然と言ってのけるイルミに、ナマエは肩を落として、深いため息をついた。

「キルとの特訓の成果、見るから」

数分足らずで部屋まで着いたイルミは、扉に鍵をかけると、すぐに戦闘体制に入る。

「い、イルミさんお仕事で疲れてませんか?」
「べつに」
「そ、そうですか…」

諦めて、ナマエも身構えた。イルミはいつも通り、何も言わずにいきなり攻撃に入る。ナマエもいつも通り、最初の一撃はひらりと避けて距離をとる。初めの日と比べ、明らかに避ける技術は上達していた。

「避けるより受け止めなよ」「だって、凝してても痛いんです!」

凝は意識的にできるようになっていた。ならざるを得なかった。いつも特訓はナマエの体力が尽きるまでやっているが、当然のようにイルミの方が体力があるので、後半は攻撃を避けきれなくなるのだ。無防備な状態でイルミの攻撃を受けるなんて、自殺行為に等しい。

「ナマエって避けるか受け流すかしかしないね」
「それしかする余裕が、ないんです!」

飛んできた鋲を下に避け、目の前に繰り出されたパンチをギリギリでかわしながら言う。今日はいつもより息が上がるのが早い。右足の蹴りを、凝で攻防力を上げた左腕で受け止め、後ろに跳んだ。攻撃自体は単純だし、次の動きを予想できないこともない。だけど、体力がなくなっていくにつれて反応も鈍くなるし、スピードについていけなくなる。

「ほんとにキルと特訓してた?」

肩で息をしているナマエと距離を保ちながら、息を乱していないイルミが聞いた。実際はゲームをしていただけだが、とてもイルミにそんなことは言えない。

(ゲーム?)

ナマエはふと、キルアの言葉を思い出した。ナマエの息が整ってきたのを見たイルミは、再び攻撃を仕掛けてくる。ナマエはじっとイルミの動きを見つめている。動かないナマエにお腹にパンチをしようとしたイルミは、頬に違和感を感じた。

「あ、外れちゃった…」

体をひねってイルミのパンチを避けたナマエの拳は、イルミの頬をかすって、小さな傷を一つつけていた。

「初めて反撃してきたね」
「特訓の成果です!」
「でもカウンターはリスク高いから危ないな」

ゆっくりナマエから離れるイルミ。ナマエはまだ身構えている。

「今日はもうおしまい」

イルミはそう言って、部屋を出て行った。取り残されたナマエはぽかんとした表情のまま、扉を見つめている。

「キルアくんのおかげ、かな」

珍しく意識が飛ぶ前に特訓が終わったので、ナマエは深く考えるのは止めて、お風呂に向かうことにした。
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