「ナマエは自分の念のことは覚えてるの?」
「念?…てなんですか?」

イルミがナマエを拾って2日目の朝。イルミはナマエの答えに殺気を放って、ナマエはすいません!と慌てて謝る。

「生活するのに必要最低限のことは覚えてますって言ったよね」
「念って生活するのに必要最低限のことなんですか?」
「…うちだから?」
「じゃあ常識的に考えたら必要ないってことじゃないですか…ひっ!」

ナマエは小さく悲鳴を上げて、飛んできた鋲を避けた。ナマエはすでにこの家が普通でないことは気付いていた。とりあえず豪邸である時点でナマエは驚いたが、昨日の夕食に下剤を混ぜようとしたイルミを見たときは血の気がひいた。必死に説得して、最初に入れようとしていた量の半分にしてもらったが、それでも昨日のお腹の痛さはナマエにとって、なかなか忘れられないほどのものだった。下剤なんかまだまだ序の口と言われたときは、本気で泣きたくなった。

「じゃあ思い出させないと」
「お、思い出さなきゃいけないことですか?」
「さっきそう言ったよ。何回も言わせないでくれる」
「ご、ごめんなさい…」
「オレが攻撃するから、体で思い出してね」
「は?…え……」

イルミは言い終わるのと同時に、練でオーラを一気に練り上げた。よくわからない重圧に、ナマエは思わず冷や汗が流れるのを感じた。

「無防備だと死ぬかもよ」
「し、死ぬって、どうしたら」
「念には念だってば」

戸惑っていると、イルミは一瞬で間合いを詰め、気が付くとナマエ目の前にいた。イルミの拳がお腹にヒットする直前、ナマエはお腹に意識を集中させる。

「…っ!」

内蔵を直接殴られたかのような衝撃にナマエは意識が飛びかけた。体は吹っ飛ばされ、部屋の壁に思いっきり打ち付けられる。

「思ったより腹筋はあるね。まあ、無駄だけど」

痛みを耐えながら顔を上げると、遠くに立っていたイルミはまた目の前にいた。ナマエは立ち上がろうとして、ゲホゲホと咳き込んだ。手を見れば、血がついている。

「手加減、して下、さい…」
「したつもりだったんだけど、まだ足りなかったみたい」
「全然足りないです…」
「ま、命の危機になった方が思い出すんじゃない?」

イルミはそう言うと、再び距離をとり、構えた。ナマエはやっとのことで立ち上がり、壁にもたれかかる。

「…次は避けます」
「そんなダメージで?」

イルミは鋲をたくさんの取り出すと、一気に投げた。左右からも正面からも飛んでくるそれをジャンプでかわすナマエ。それを狙って投げていたイルミは、空中でナマエに蹴りを入れる。しかしさらにそれを予想していたナマエは、蹴りのパワーを上手く受け流して、少し離れた場所に着地した。

「上手いね」
「ありがとうございます…」

また一つ苦しそうな咳をしながら、ナマエは力なく笑った。しかしイルミは休むことなく、さらに次の攻撃を仕掛ける。ナマエは全ての攻撃を食らう直前になんとかして防いでいく。

「全部防いだら念を思い出さないじゃん」

イルミはさらに激しい攻撃を仕掛ける。それを防ぎきれなくなってきたナマエは、攻撃を食らって壁まで吹っ飛んだ。特別頑丈に作られた壁が砕け、イルミは力入れすぎたかな、と自分の拳を見てから、壁の崩れた所に近づく。

「…お」

確実に骨は折れたと思っていたが、ナマエはなんとか立ち上がっていた。見ればオーラがナマエの周りを厚く包んでいる。

「死ぬかと思いました…」
「それが『凝』ね」
「…へ」

本当に無意識の内にやっていたのか、ナマエは今気が付いたかのように、なんか気持ち悪い、と呟いた。

無意識で念を使うほど、以前は念を日常的に使っていたのだろうか。イルミは、ナマエの過去が少しだけ気になった。



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