ナマエが記憶を取り戻してから二年が経った。ナマエは今、遺跡ハンターとして活動していた。初めの一年はサトツという人の下についてたくさんの知識や技術を学び、二年目からはサトツのコネで一人で発掘現場に参加させてもらうことができた。貴重な歴史の遺産を後世に残すという仕事に誇りとやり甲斐を感じるようになったナマエは、研究を始めたらなかなか発掘中の地下から出て来なくなった。あまりに不健康なので、発掘現場の仲間に何か言われたら地上に上がるようにはしていたが、それでも数ヶ月潜りっぱなしということも少なくなかった。そして今日もナマエは、仲間に言われて仕方なく、三ヶ月ぶりに地上に出た。

「お、久しぶりだなぁ、ナマエちゃん」

地上のキャンプで発掘品の研究をしている仲間が声をかけた。

「お久しぶりです。わたしの携帯、上に置いてありましたっけ?」
「ああ。地下でも受信できる携帯だろ?持っていけばいいのに」
「でも、研究に集中したいので」
「真面目だねぇ。あっちのテントにナマエちゃんの鞄があって、携帯はそこに入ってるよ」
「ありがとうございます!」

ナマエは言われたテントに向かった。前、二ヶ月潜ってから出てきた時に携帯を確認するのを忘れたので、携帯には五ヶ月分の連絡が貯まっている。それでも別に、そんなに連絡はないだろうと思いながら携帯を開いたナマエは、着信件数にびっくりした。

「45件!」

ほとんどは旅団の団員からのもの、特にクロロからだったが、二件だけ違うものがあった。イルミからのものだ。他は全部後回しでそれを開くと、懐かしい味気ない文体で、短い文章が現れた。一ヶ月前のメールは、忙しいの?気をつけて、という内容。そして三日前のメールは、会いたい、と一言だけ書かれていた。しかしその一言で、ナマエの心は決まった。

「すいません!」
「どうした、ナマエちゃん」
「しばらくお休みを頂きたいんですが!」
「いいよいいよ、むしろナマエちゃんは休むべきだ!」
「自分から言い出してくれて良かったよ!」

キャンプのリーダーもあっさりと許可をくれて、ナマエはさっそく出発した。発掘現場は、人里離れた砂漠のど真ん中。町に行くまでに十日、飛行船乗り場まで一週間、飛行船でパドキアまで行くのに三日、ククルーマウンテンまで一日。サプライズで会いに行きたかったナマエは、その間イルミにメールをしなかった。ようやくククルーマウンテンから一番近い街に着いた翌朝、ナマエはパドキアで新しく買った服に着替えて、観光バスに乗った。車もないナマエには、これが一番早い登山手段だ。ゾルディック家の前で止まった時に、こっそりと降りたままバスを見送り、門の前に立つ。特訓は怠っていなかったので、腕力は十分だ。しかしナマエが門を開けようとした時、内側から誰かが門を押した。慌てて一歩下がったナマエの前に現れたのは、

「い、いいいいイルミさん!」
「…ナマエ」

久しぶりに見る無機質な表情に、心の準備もできていなかったナマエは、どんどん顔が赤くなった。一方イルミは、相変わらず表情が変わらないが、無言でナマエのことを抱きしめた。

「イルミさん?!」
「なんなの、連絡もしないでさ。メール見ないの?携帯壊れた?」
「お、驚かせたくて…」
「馬鹿でしょ、ナマエ。オレは心配してたのに」
「すみません!」
「まあ、無事で良かったけど。なんかオレばっか会いたかったみたいでムカつく」
「わっ、わたしも!会いたかったです、すごく、ずっと…」
「嘘」

少し体を離してから、今度は自分のおでこをナマエのおでこにくっつけるイルミ。ナマエの視界にはイルミの顔だけが広がる。

「オレのこと忘れて、ハンターの仕事に没頭してただろ」
「そんな、ことは…」

視線をそらすことは、肯定と同じだった。イルミはため息をついて、ナマエを解放する。真っ赤になっていたナマエは、しかし名残惜しそうにイルミの手を握った。

「会いたかったのは本当です!これでも全速力で戻って来たんです!」
「のろま」

一蹴されたが、イルミの口調は優しかった。手を握り返されて、ようやくナマエははにかむような笑顔を見せた。

「あ…ところでイルミさん、今から仕事ですか?」
「別に、何で?」
「だって用事もないのに門まで下りてくるなんて、」
「ナマエがいると思ったから下りてきたんだよ」
「えっ」
「なんか、ナマエに会いたかったからか、最近のオレの円、すごい調子いいんだよね」

ナマエの心臓は限界寸前だった。

「久しぶりに帰ってきたし、今日は…」
「お買い物でも、行きましょうか!」
「それよりも部屋で色々話したい」
「それも素敵です!」

元々イルミは出かけるのが好きではないし、それはナマエもよく知っている。実際、イルミに会ってかなり元気になったが、長時間の移動でナマエも疲れていた。

「わたし、ハンターになって色々なものを見ました。イルミさんに話したいことが、たくさんあるんです!」
「時間はあるんだろ。ゆっくり全部聞くから」
「はい!」

二人は並んで庭を歩きだした。





「…それで、その遺跡の出土品を調べてみたら、3000年前のものだったんです!」
「へえー」

懐かしいイルミの部屋で、ナマエは熱く遺跡について語っていた。イルミも合間合間に相槌を打つが、あまり面白そうではない。話に夢中だったナマエも、一度じっとイルミを見た。前はその無表情の中に微かな表情の変化を見つけるのが得意だったが、今は本当の無表情。それはナマエが表情の変化を見つけられなくなったのではなく、イルミが本当に何も考えていないからだった。

「…イルミさん」
「ん」
「話、つまらないですよね、すみません」

少ししゅんとしたナマエに、イルミは首を振った。

「嘘です」
「嘘じゃないよ。確かに内容は意味わからないけど、ナマエの楽しそうな顔を見てるのが楽しいし、久しぶりにナマエの声をたくさん聞いたら、なんか落ち着くんだよね」

話の内容は右から左、だが、イルミは確かにずっとナマエの目を見て話を聞いていた。

「改めて思ったけど、オレはすごくナマエに会いたかったんだよな」
「、イルミさん!」

ナマエはイルミに抱き着いた。イルミもしっかりと受け止める。

「わたし、もっとたくさん会いにきます。やっぱり、イルミさんが、好き」
「うん、オレも」

手、腕、頬、触れ合っている部分の体温が溶け合う。しばらく二人の間に会話はなかった。

「あ、そうだ」
「何?」
「キルアくん達にも会ってきていいですか?」
「…ダメ」
「ええーっ!」
「今日一日は、ナマエはオレだけのもの」

イルミはそう言ってから、ナマエの耳元にそっと口づけた。ナマエが真っ赤になりながらも何度も頷いたのは、言うまでもない。



scherzando

(たわむれるように)
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